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夢鬱🪐
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第1話、じっくり読ませてもらいました。 雨がずっと続く町の空気感と、ふたりの距離感がすごく合ってて、じんと来た感じがしました。とくに、あの青い花を見つけたなお兄の「根拠なんてないけどそうだったらいいなっていう言葉に、もふくんが「まあ悪いことじゃないと思うって返す流れ、あの空気すごく好きです。最後の切符のオチも胸が熱くなりました…続きが気になりますね。 これからのふたりを応援したくなりました。
春凪町には、十八日間も雨が降り続いていた。 朝も、昼も、夜も。 空はずっと灰色で、道路には水たまりが絶えず、軒先から落ちる雨粒の音だけが町に響いている。 天気予報は、今日も雨。 明日も雨。 その先も、雨。 まるで、この町だけ春の訪れを忘れてしまったみたいだった。
mf
窓の外を眺めながら、もふは小さく呟いた。 机の上には、町の天気を記録したノートと、何枚もの気象データが広がっている。几帳面に書き込まれた数字の横には、赤いペンでいくつもの疑問符が付けられていた。
no
隣からひょこっと顔を出したのは、なおきりだった。 雨の日だというのに、彼はいつもどおり元気そうだった。窓の外を覗き込んだかと思えば、机の上のノートを見つけ、目を輝かせる。
no
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mf
no
mf
mf
もふはノートを指で叩いた。
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なおきりが身を乗り出す。
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もふは呆れたように息を吐いた。 けれど、その口元はほんの少しだけ緩んでいた。 なおきりは、そういう不思議なことが大好きだった。 誰も気に留めないような小さな違和感を見つけては、目を輝かせて追いかけていく。時には考えるより先に動いてしまうから、もふとしては放っておけない。 ……まったく、手のかかる人だ。 そう思いながらも、もふはなおきりの隣にいることを、決して嫌だとは思わなかった。
mf
no
mf
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その言葉を聞いた瞬間、なおきりの表情がぱっと明るくなった。
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mf
それでも、なおきりは楽しそうに笑っていた。 その笑顔を見ていると、不思議と、いつもより雨の音が気にならなくなる。 もふはそんなことを考えてしまった自分に気づき、そっと視線を逸らした。
mf
mf
no
no
mf
mf
そう言いながら、もふは先に傘を手に取った。 なおきりがその後ろを、弾むような足取りで追いかけていく。 二人はまだ知らなかった。 この小さな町の異変が、ただの天気の問題ではないことを。 そして、自分たちが忘れてしまった何かに、もう一度出会おうとしていることを。
丘へ続く道の途中、なおきりがふと足を止めた。
no
mf
no
なおきりが指差した先には、道端の小さな花壇があった。 雨に濡れた土の中から、一輪の花が顔を出している。 淡い青色の花びらは、雨粒をまといながらも、しっかりと空を向いていた。
no
なおきりは傘を傾け、花を覗き込んだ。
mf
mf
もふも花壇を見下ろした。 町の人たちは、雨が続くせいで春が来ないと話していた。 けれど、花は咲いている。 季節はちゃんと進んでいるのかもしれない。 ただ、空だけがそれに追いついていない。
no
なおきりは、まるで当たり前のことを言うように笑った。
mf
no
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no
もふは一瞬、返す言葉を失った。 根拠なんてない。 証拠もない。 それなのに、なおきりがそう言うと、本当にいつか晴れるような気がしてしまう。
mf
no
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mf
もふは小さく笑い、再び歩き出した。 その後ろを追いながら、なおきりはもう一度だけ花を振り返った。 青い花びらが、雨の中で静かに揺れていた。 まるで、二人が来るのを待っていたかのように。
丘の上の気象観測所は、町から少し離れた森の奥にあった。 錆びた門には蔦が絡まり、建物の壁は雨に濡れて黒ずんでいる。 入口の看板は半分剥がれ落ち、文字もほとんど読めなくなっていた。 『春凪気象観測所』 その下には、かすれた文字で閉鎖年月日が記されている。
no
no
mf
no
mf
そう言いつつ、もふも建物を注意深く観察していた。 入口の扉には古い南京錠が付いていたが、錆びて壊れている。二人が慎重に押してみると、扉は耳障りな音を立てて開いた。
中には、埃の積もった机や棚が並んでいた。 壁には古い気象図。 隅には壊れた観測機器。 そして、部屋の奥には、ガラスの蓋が付いた大きな時計が置かれていた。 針は、三時三十一分で止まっている。
mf
もふが近づき、文字盤を覗き込む。
no
mf
mf
mf
もふは時計の側面を調べた。 すると、裏側に小さな文字が刻まれているのを見つけた。
『春が来るまで、忘れていて。』
mf
その文字を見つめた瞬間、もふの胸の奥がざわついた。
知らないはずなのに。 初めて見るはずなのに。 どうしてか、その言葉を知っているような気がした。
no
なおきりの声に、もふは我に返る。
mf
mf
no
mf
mf
もふが指差したのは、部屋の隅にある書棚だった。 そこには、観測記録と思われる古いノートが何冊も並んでいた。 そのうちの一冊だけ、表紙に何も書かれていない。 ほかのノートは埃をかぶっているのに、それだけは妙にきれいだった。
no
なおきりが手を伸ばす
mf
mf
もふが頷くと、なおきりは慎重にノートを開いた。 最初のページには、古い日付と観測記録が並んでいる。 気温、湿度、風向き、天候。 どれも、普通の記録に見えた。 しかし、三月三十一日のページを開いた瞬間、二人は同時に黙り込んだ。 そこには、こう書かれていた。
『三月三十一日。天候、晴れ。 観測者二名。春の訪れを確認。 なお、翌日は存在しないものとする。』
mf
もふの声が、静かな室内に落ちた。
no
なおきりも、さすがに笑ってはいなかった。
mf
mf
もふはページをめくった。 三月三十日までは、普通の記録が続いている。 しかし、三月三十一日の次のページには、日付も記録もなかった。 真っ白なページ。 その中央に、たった一行だけ、文字が浮かび上がっていた。
『あの日、僕らは確かにここにいた。』
no
なおきりが目を見開いた。
no
mf
もふはページを見つめた。 さっきまで、確かに何も書かれていなかった。 二人とも、間違いなく見ていた。 なのに。
mf
もふの声が、ほんの少しだけ震えた。 そのとき、なおきりがノートの隣に置かれていた小さなガラス瓶を手に取った。 透明な瓶の中には、乾燥した花びらが一枚だけ入っている。
no
なおきりは、瓶をじっと見つめていた。
no
mf
no
なおきりの表情から、いつもの明るさが消えていた。 それは、何かを思い出そうとしているような顔だった。 もふはガラス瓶を見た。 青い花びら。 雨の中で咲いていた、あの花と同じ色。
mf
口にしてから、もふ自身が驚いた。 そんなはずはない。 この観測所が閉鎖されたのは、十年以上も前だ。 二人がここに来た記憶など、あるはずがない。 それなのに。 胸の奥に、懐かしさと寂しさが混ざったような感情が広がっていく。 誰かと一緒に、ここにいた。 誰かと一緒に、何かを約束した。 そんな気がするのに、その誰かの顔も、約束の内容も思い出せない。
mf
もふは、隣に立つなおきりを見た。
no
mf
普段なら、こんな曖昧なことは口にしない。 根拠のない話をするのも、あまり好きではない。 それでも今は、誰かに聞いてほしかった。
mf
なおきりは、少しだけ目を見開いた。 それから、ゆっくりと頷く。
no
なおきりは瓶をそっと元の場所に戻した。
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mf
no
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なおきりは、まっすぐにもふを見つめた。
no
no
もふは、しばらく何も言わなかった。 本当に、自由な人だ。 不思議なことに出会えばすぐに飛び込んで、分からないことがあれば迷わず追いかける。 危なっかしくて、放っておけなくて。 なのに、その言葉には不思議な安心感があった。
mf
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もふは小さく息を吐いた。
mf
mf
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no
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そう言いながらも、もふは笑っていた。 その瞬間だった。 二人の目の前で、ノートのページがひとりでにめくれた。 ぱらり。 風など吹いていない。 窓も閉まっている。 それなのに、ページはゆっくりとめくられ、最後の白紙で止まった。 そこに、一文字ずつ、黒いインクが滲むように浮かび上がる。
『観測者――なおきり、もふ。』
mf
『次の晴天まで、あと一日。』
二人は、息を呑んだ。
mf
mf
no
今度は、見間違いではなかった。 自分たちの名前が、確かにそこに書かれている。 まるで、二人がここに来ることを、最初から知っていたかのように。
mf
もふは、ノートから目を離せなかった。
no
no
なおきりは、窓の外を見た。 雨はまだ降っている。 灰色の空は、どこまでも続いている。 それなのに。
no
なおきりの呟きに、もふは答えられなかった。 次の晴天まで、あと一日。 ノートに書かれた言葉が、頭の中で何度も繰り返される。 そのとき。 部屋の奥で、かちり、と音がした。 二人が振り向く。 止まっていたはずの時計が、動いていた。 長い間、眠り続けていた針が、ゆっくりと進んでいく。 三時三十一分。 そして、三時三十二分。
mf
もふが呟いた、その瞬間。 時計の文字盤の下に、小さな引き出しがあることに気づいた。 なおきりがそっと引き出す。 中に入っていたのは、一枚の古い写真だった。 写真には、花でいっぱいの丘が写っていた。 春の光が降り注ぐ、見覚えのない景色。 その中央には、二人の少年が並んで立っている。 一人は、少し身を乗り出すように笑っていた。 もう一人は、そんな相手を見ながら、呆れたような、それでいて優しそうな顔をしていた。 顔は古びていて、はっきりとは分からない。 それでも、二人はなぜか、その写真から目を離せなかった。 写真の裏側には、手書きの文字が残されていた。
『また春に、二人で。』
no
なおきりは、写真を握りしめた。 胸の奥が、きゅっと締めつけられる。 懐かしい。 会いたい。 そんな気持ちが、理由も分からないまま込み上げてきた。 隣では、もふも同じように写真を見つめていた。
mf
no
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もふの声には、いつもの落ち着きが戻っていた。 けれど、その瞳には確かな決意が宿っていた。
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mf
no
no
なおきりは、いつものように笑った。 その笑顔を見て、もふはほんの少しだけ安心した。 何が起きているのか、まだ何も分からない。 自分たちが何を忘れたのかも。 どうして雨が止まないのかも。 そして、写真に写っている二人が誰なのかも。 何一つ、分からない。 それでも。 二人でなら、きっと。 そう思った瞬間だった。 観測所の時計が、もう一度、音を立てた。 かちり。 文字盤の針が、三時三十三分を指す。 その下に刻まれた文字が、雨に濡れた窓から差し込む光を受けて、ぼんやりと浮かび上がった。
『春が来るまで、忘れていて。』
そして、ノートの最後のページに、見覚えのない文字が滲み出す。
『四月一日。』 『約束の日。』
観測所を出たとき、雨はまだ降り続いていた。 けれど、丘を下りる途中。 なおきりは、ふと空を見上げた。 雲の切れ間から、ごくわずかに、淡い光が差し込んでいる。
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もふは空を見上げた。 雨雲は厚く、晴れる気配などない。 それでも。
mf
彼は、いつもより少しだけ優しい声で答えた。
mf
その言葉を聞いて、なおきりは嬉しそうに笑った。 二人はまだ知らない。 明日、四月一日に何が起こるのか。 あの写真に写っていた少年たちが誰なのか。 そして――
どうして二人は、大切な約束を忘れてしまったのか。
雨は静かに降り続ける。 まるで、何かを隠すように。 あるいは、何かを思い出すまで、待っているように。 ――第一話・終。
翌朝、もふの家の郵便受けに、一通の手紙が届いていた。 差出人の名前はない。 封筒の中に入っていたのは、古びた駅の切符と、一枚の紙。 そこには、短くこう書かれていた。 『忘れた約束を、迎えに来て。』 そして、切符に印字された日付は――
十年前の、四月一日だった。