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1件
わあ…駅にもちゃんと繋がりがあったんですね。古い切符に手紙、そして十年前の四月一日。観測所のノートと合わせると、明らかに「何か」がもふくんたちを呼んでる感じがします。青いガラスの揺れや「やっと来てくれた」という声は背筋がゾクッとしました。二人の距離感が自然で、なお兄の「思い出したい」という台詞がすごく響きました。次は丘の上、ですね。展開がじっくりで続きが待ち遠しいです!
翌朝。 春凪町には、相変わらず雨が降っていた。 窓ガラスを伝う雨粒を眺めながら、もふは机の上に置かれた一通の封筒を見つめていた。 白い封筒。 差出人の名前はない。 宛名には、見慣れた自分の名前だけが書かれていた。 ――もふへ。
mf
朝、郵便受けを確認したときには、ほかの郵便物に紛れて入っていた。 消印はない。 封筒の表面にも、雨に濡れた形跡はなかった。 昨日まで、こんなものは届いていなかったはずだ。 もふは少し迷ってから、封を切った。 中に入っていたのは、一枚の古い切符と、小さく折り畳まれた紙だった。 切符は、今ではほとんど見かけない紙製のものだった。 角は擦り切れ、印字された文字も薄くなっている。 それでも、日付だけははっきりと読めた。
四月一日。十年前。
mf
もふは眉を寄せた。 昨日、古い気象観測所で見つけたノート。 そこには、存在しないはずの一日が記録されていた。 そして、止まっていた時計が動き出したのも、四月一日だった。 偶然にしては、できすぎている。 もふは折り畳まれた紙を開いた。 そこには、短い文章が記されていた。
『忘れた約束を、迎えに来て。』
mf
しばらく、何も考えられなかった。 忘れた約束。 迎えに来て。 まるで、誰かが自分に向けて書いた言葉のようだった。 けれど、誰が? 何のために? そもそも、自分は何を忘れているのだろう。
mf
無意識に口からこぼれた言葉に、もふは少しだけ苦笑した。 昨日の今日で、また妙なことが起きている。 一人で考えていても、答えが出るとは思えなかった。 もふはスマートフォンを手に取り、なおきりにメッセージを送った。
mf
mf
返事は、すぐに来た。
no
no
mf
no
no
no
mf
no
もふは画面を見つめ、思わず笑った。 本当に、こういうことになると行動が早い。
mf
mf
そう送ると、すぐに既読がついた。
no
no
mf
もふは封筒と切符を机の上に並べた。 雨音は、今日も変わらず続いていた。 けれど昨日までとは違う。 雨の向こう側に、何かが待っている。 そんな気がしていた。
no
no
玄関を開けると、なおきりが勢いよく顔を出した。 透明な傘には、細かな雨粒がびっしりと付いている。
mf
no
なおきりは慌てて声を小さくした。
no
mf
mf
no
なおきりは靴を脱ぎ、もふの後について部屋へ入った。
机の上に置かれた封筒を見るなり、彼の目が輝く。
no
no
mf
no
mf
なおきりは切符を手に取り、裏表を確かめた。
no
mf
もふはスマートフォンで切符の写真を撮り、拡大した。
印字された駅名は、かすれていて読みづらい。 けれど、かろうじて三文字だけが残っていた。
『……凪駅』
no
なおきりが呟く
no
mf
もふは別の画面を開いた。 古い地図や鉄道の記録を調べてみる。 すると、町の資料を紹介しているウェブページの中に、気になる記述が見つかった。 ――春凪町には、かつて海沿いを走る小さな支線があった。
その終着駅の名前は、春凪駅。
十年以上前に利用者の減少を理由に廃線となり、駅舎も閉鎖されたという。
mf
もふが画面を見せると、なおきりは身を乗り出した。
no
no
mf
mf
no
もふは、昨日の観測記録を思い出した。 十年前。 四月一日。 存在しないはずの一日。
mf
no
mf
なおきりは、切符をそっと机に戻した。
no
mf
no
mf
もふは手紙を見下ろした。
『忘れた約束を、迎えに来て。』
その言葉が、妙に胸に引っかかる。 まるで、ずっと待っていた誰かがいるような。 そして、自分たちがそこへ行かなければ、何も始まらないような。
mf
no
mf
no
mf
no
mf
no
もふは小さく笑い、切符を封筒に戻した。
mf
二人は傘を持ち、家を出た。 雨はまだ止まない。 けれど、昨日よりも少しだけ、風が暖かく感じられた。
春凪駅は、町の中心から外れた海沿いにあった。 住宅街を抜け、細い道を進み、古い商店の並ぶ通りを越える。 やがて、道の向こうに錆びた線路が見えてきた。 草に覆われた線路。 色褪せた踏切。 そして、その先に、小さな駅舎が佇んでいた。
no
なおきりは立ち止まり、周囲を見渡した。 駅舎の屋根には苔が生え、看板の文字はほとんど消えかけている。 線路の向こうには海が広がっていた。 雨に霞んだ水平線は、空との境目が分からないほど灰色だった。
no
mf
もふは駅の入口に近づいた。 木製の扉には、閉鎖を知らせる看板が掛かっている。 建物の外側から見える範囲に、駅員の姿はない。
mf
no
なおきりは少し残念そうに看板を見た。
no
mf
no
二人は駅舎の外側を歩きながら、周囲を観察した。 ホームへ続く階段。 古い時刻表。 色褪せた路線図。 そして、駅舎の脇に立つ、小さな掲示板。 そこには、廃線当時の写真や新聞記事が貼られていた。 もふは、その中の一枚に目を留めた。
『春凪線、最後の運行』
写真には、駅のホームに並ぶ人々が写っていた。 その中に、気になるものがあった。 ホームの端。 人混みから少し離れた場所に、二人の少年が立っている。 一人は、空を見上げていた。 もう一人は、その隣で何かを指差している。 写真が古く、顔ははっきりしない。 それでも、二人の距離感が、妙に気になった。
mf
no
mf
なおきりが隣に来て、掲示板を覗き込む。
no
彼は、写真に顔を近づけた。
no
mf
no
なおきりは、困ったように眉を下げた。
no
もふは写真を見つめた。 昨日の観測所で見つけた写真。 花でいっぱいの丘に立つ、二人の少年。 そして、今、目の前にある写真。 まったく同じ人物なのかは分からない。 服装も、景色も違う。 けれど、なぜか似ている気がした。
mf
もふが呟く
そのとき、なおきりが掲示板の隅を指差した。
no
掲示板の一番下に、古い紙が貼られていた。 雨に濡れないよう、透明な板で覆われている。 そこには、駅の歴史についての説明が書かれていた。
『春凪駅は、かつて春の観光地として知られた丘へ向かう玄関口でした。毎年四月一日には、駅前で小さな春祭りが開かれ、多くの人々が訪れていました。』
mf
もふは目を細めた。
mf
no
なおきりは、説明文を読み進めた。
no
mf
もふはそう答えたものの、胸の奥には小さな違和感が残っていた。 観測所の記録。 古い切符。 廃線になった駅。 そして、四月一日。 全部が同じ日に繋がっている。 偶然とは思えなかった。
mf
no
なおきりは、駅舎の向こうにある丘を見つめた。 雨に霞んだ坂道の先。 そこには、木々に囲まれた小さな展望台が見えた。
no
mf
mf
no
mf
no
なおきりは、期待に満ちた顔で振り返った。 もふは、その顔を見て、思わずため息をついた。
mf
mf
no
二人は駅を離れ、丘へ続く道を歩き始めた。 そのときだった。 もふのポケットの中で、何かが小さく音を立てた。 かちり。
mf
立ち止まり、ポケットからスマートフォンを取り出す。 画面には、見覚えのない通知が表示されていた。 送信者は不明。 本文は、たった一行。
『青いガラスを探して。』
mf
もふは画面を見つめた。
no
mf
no
なおきりが画面を覗き込む。
no
二人は顔を見合わせた。 その瞬間、風が吹いた。 駅舎の裏手から、かすかな音が聞こえる。 何かが、風に揺れているような音。 二人が振り向くと、古い駅舎の窓辺に、青い光が揺れていた。 ガラスの破片のような、小さな青い光。 雨に濡れた窓の向こうで、まるで誰かが持ち上げているかのように、ちらちらと瞬いている。
mf
もふが小さく尋ねた。
no
no
なおきりの声からも、いつもの明るさが消えていた。 青い光は、ゆっくりと窓の奥へ消えていった。 まるで、二人を誘うように。
mf
もふは、駅舎を見つめた。
no
mf
mf
なおきりは頷いた。
no
no
二人は駅舎の裏側へ回った。 窓は古く、曇っていて、中の様子はよく見えない。 それでも、窓の隅に、小さな青いガラス片が挟まっているのが分かった。 雨粒を受けて、淡く光っている。 もふは、手を伸ばしかけて止めた。
mf
no
no
mf
no
なおきりは素直に手を引っ込めた。 もふは窓の周囲を確認した。 ガラス片の下には、小さな文字が刻まれている。 窓枠に直接、何かを彫ったようだった。 雨で薄れているが、二人は目を凝らした。
『春が来たら――』
その先は、削り取られたように消えていた。
mf
もふは呟いた。 昨日の写真にも、同じ言葉があった。
『また春に、二人で。』
そして、観測所の時計に刻まれていた言葉。
『春が来るまで、忘れていて。』
春。 忘れること。 約束。 それぞれの言葉が、少しずつ繋がり始めている。
no
なおきりが、静かに口を開いた。
no
その声は、いつものように明るくはなかった。 ただ、答えを知りたいと願う、まっすぐな声だった。 もふは少し考えた。
mf
正直に答える。
mf
no
なおきりは、窓辺の青いガラスを見つめた。
no
その言葉に、もふは顔を上げた。
mf
no
no
no
なおきりは、少しだけ寂しそうに笑った。
no
もふは、返事をしなかった。 誰かを待たせている。 その言葉が、胸に引っかかった。 自分たちは、誰かと約束をしたのだろうか。 その約束を忘れたまま、十年も過ごしてきたのだろうか。 もしそうなら。 その相手は、今もどこかで待っているのだろうか。
mf
気づけば、そう口にしていた。 なおきりが、もふを見た。 もふは照れくさくなって、慌てて視線を逸らした。
mf
mf
no
なおきりは嬉しそうに頷いた。 その笑顔を見て、もふの胸が少しだけ温かくなる。 雨の中なのに。 肌寒いはずなのに。 不思議と、隣にいるなおきりの存在が、心強く感じられた。
丘の上の展望台に着く頃には、空が少し暗くなっていた。 二人は屋根のある休憩所で雨宿りをしながら、町を見下ろした。 春凪町は、雨に包まれていた。 屋根も、道路も、海も。 すべてが灰色に染まっている。 それでも、遠くの丘の一角だけ、淡い青色が見えた。 花が咲いているのかもしれない。
no
なおきりが言った。
mf
もふは、切符を取り出した。 古い紙の切符。 四月一日。 十年前。 そして、手紙に書かれた言葉。
『忘れた約束を、迎えに来て。』
no
なおきりが、そっと声をかけた。
no
もふは切符を握りしめた。 昨日の観測所。 今日の駅。 青いガラス。 そして、丘。 すべてが、ひとつの場所へ向かっているような気がした。
mf
mf
もふは頷いた。
mf
mf
no
なおきりは立ち上がり、傘を広げた。 もふも隣に並ぶ。 二人は、雨の降り続く町へと歩き出した。 その背後で、古い駅舎の窓辺が、ほんの一瞬だけ青く光った。 そして、誰もいないはずのホームに。 かすかな声が響いた。
??
その夜。 もふは机の上に、古い切符と手紙を並べていた。 スマートフォンには、今日撮った駅の写真が表示されている。 拡大して、青いガラスの部分を確認する。 そのとき。 写真の隅に、奇妙なものが写っていることに気づいた。 窓の向こう。 青いガラスの奥に、ぼんやりと人影が立っている。 駅の中に入った覚えはない。 もちろん、誰かが中にいるのを見た記憶もない。 もふは、指先を止めた。
mf
画像を拡大する。 人影は、子どものように見えた。 その隣には、もう一人。 二人は並んで、こちらを見ている。 そして、その足元には。 小さな青い花が咲いていた。
mf
もふは、写真を閉じた。 心臓が、いつもより速く動いている。 怖い。 正直、かなり怖い。 けれど、それ以上に。 どうしても、気になってしまう。
mf
もふは写真を添付し、メッセージを打ち始めた。
mf
送信
すぐ既読がついた
no
mf
no
no
mf
no
no
もふは、小さく笑った。 そして、スマートフォンを枕元に置いた。 窓の外では、雨が降り続いている。 いつまで、この雨は止まないのだろう。 いつになったら、春は来るのだろう。 もふは目を閉じた。 その瞬間。 遠くで、駅の発車ベルのような音が聞こえた。 もう何年も使われていないはずの、春凪駅から。 雨音に紛れて、懐かしいメロディーが流れてくる。 もふは、ゆっくりと目を開けた。 机の上の切符。 そこに印字されていた日付が、滲むように変わっていた。
四月一日。
その下に、新しい文字が浮かび上がる。
『次は、丘の上で。』
もふは、息を呑んだ。 そして、窓の外を見つめた。 雨の向こうに、淡い青い光が揺れていた。 まるで、誰かが。 ずっと、二人を待っているように。 ――第二話・終。
翌日、二人は丘へ向かう。 けれど、森に足を踏み入れたもふは、見覚えのないはずの景色の中で、ひとつの夢を見る。 そこには、雨の降らない春の日と、聞き覚えのある声があった。 「……約束、忘れないでね」
その声の主を、もふはまだ思い出せない。