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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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はる

(やはりいけない…お返ししなければ…)

華族、九条家の内庭。桜の蕾がうっすらと色をつけ始めたころ。 はる、15 歳。

はる

千秋様、お心遣いありがとうございます

はる

けれどもはるには分不相応でございます

千秋

君に似合うと思って選んだんだ

はる

ですがこれは絹の手袋、夏子お嬢様のものと同じ店のでは

千秋

15年前から夏子の相手としてこの家にいるんだ。

千秋

君は大切な人だ

千秋

(この想いを打ち明けたい…)

はる

私の手には不釣り合いです

千秋

そんなことはない。手を出してご覧。

はる

あっ

はる

(千秋様が絹の手袋を嵌めてくださる…)

はる

(暖かい手…わたし震えてる…)

はる

(千秋様は憧れの方。
見つめるだけで幸せなのに)

千秋

(白くて細い指…美しい爪…いつまでも包んでいたい…)

はる

お、お離しくださいませ
人に見られます

千秋

手袋を付けてあげることの何が悪い?

はる

絹にレースに…わたくしの立場で使う場所がございません

千秋

では、使う場所を作ろう

はる

えっ…いったいどんなところで?

夏子

はる!はるー!どこ?

はる

千秋様、夏子お嬢様がお呼びですので

はる

(手袋を…外さなければ…)

夏子

はる、庭にいたの?お兄様も?

はる

はい、桜の枝をお部屋にと思いましたが少々早かったようです

夏子

あらそう?
はるに任せておけば私の部屋は一年中花園のようね

はる

お嬢様が楽しくお過ごしになられることが、はるの喜びでございますから

夏子

お兄様は何を?

はる

あ、その、お勉強の気分転換にとお散歩を。

夏子

(はるの目元が赤いわね…)

夏子

来週の観劇に行くためのドレスが届いたの

夏子

合わせる髪飾りを一緒に選んで頂戴

はる

(ああ、千秋様とお出かけになる予定の)

はる

かしこまりました

夏子

はるはほんとに私のことをよくわかってるわ

夏子

(産まれて間もないはるが門前に捨てられていたのが15 年前の桜の頃)

夏子

(私が産まれたのがその夏)

夏子

(以来私の遊び相手であり、侍女として信頼をしてるけど)

夏子

(何だか最近、私に話さないことがあるみたい)

はる

(お嬢様に嘘をついてしまった…)

はる

(千秋様は楽しみにしていてと仰ったけれど、豪華な手袋をつけていくところなど思いつかない)

3日後、はるのもとに大きな荷物が届く

はる

(いったい何かしら?実家もないのに私宛とは)

夏子

はる!開けて見なさいよ!

はる

これは…!

はる

ドレスに靴に髪飾り、絹の靴下まで…

夏子

どこかのお金持ちがはるを見染めたのかしら!?

はる

そのようなことあるでしょうか?

夏子

でもはるはお嫁に出さないわよ

夏子

私がお嫁に行く時もついてきてもらうわ

はる

はい、心得ております

はる

(それにしても、このドレスのレース、生地の色合い、何もかも私の憧れているものだわ)

千秋

やあ!お二人さんお揃いだね

夏子

お兄様!はるに春が来たみたいなの!

夏子

見て!私の新しいドレスよりはシンプルだけど

はる

身に覚えがございません…

夏子

いいじゃない!貰っておけば

夏子

私が欲しいくらいだけど

千秋

そうだ!これなら
来週の観劇は、はるも一緒に行けるね!

夏子

ええっ!?はるを連れて行くの?
切符を取るのが大変なんでしょう?

はる

(このドレスを着て千秋様とお芝居…)

千秋

友人に手を回してもう一枚押さえたよ

はる

ありがとうございます!

夏子

お兄様が切符を買ったのなら反対はしないわ。(でもこのタイミングで贈り物…)

はる

(このドレスの贈り主は千秋様では?)

観劇会当日。 新しいドレスに身を包んだ夏子は 少々機嫌が悪かった。

夏子

(デザインもレースも私の方が豪華なのに)

夏子

(なぜはるのドレスはあんなにもはるを引き立てるの?)

千秋

支度はできたかい?

はる

は、ハイ。これでよろしいでしょうか?

千秋

千秋

(思った通りだ、美しい!)

千秋

色合いもデザインもはるにぴったりじゃないか!

夏子

お兄様、私のドレスも見て頂戴!

千秋

ああ、綺麗だね。

夏子

それだけ?

千秋

はる、手袋を付けてきたかい?

はる

ハイ…

夏子

お兄様、どう言うことかしら?

千秋

先日はるの誕生日に手袋を贈ったんだ

夏子

聞いてないわ

夏子

なぜ黙っていたの?

はる

はい、あの、分不相応で、お返ししようと思っておりまして

夏子

(はるのドレスのレースとお揃いじゃない)

夏子

このドレスもお兄様が?

千秋

はるの日頃の行いを見ている人からだろう。

夏子

(なぜ、誤魔化すのかしら?)

千秋

さあ出かけよう!

千秋

あれ?はるは化粧をしていないね?

千秋

この口紅だけでも付けなさい

はる

あ、あ、ありがとうございます

夏子

お兄様、手回しが良すぎませんこと?

千秋

日頃からよく働いているし、感謝の気持ちだよ

はる

お待たせいたしました

千秋

夏子

千秋

綺麗だ…

夏子

(はるのドレスにピッタリの色!)

夏子

(ドレスはお兄様からの??)

はる

(なんという煌びやかな世界!)

千秋

どうした、はる?

はる

初めてで緊張して

千秋

では、私がエスコートしよう

はる

良いのですか?
申し訳ございません。

千秋

背を伸ばして歩いて。並居る貴婦人に負けないよ、君は

夏子

お兄様!私は?置いてきぼりなの?

千秋

夏子は慣れているじゃないか

千秋

それにほら、あちらから婚約者の藤堂冬彦様がいらっしゃった

夏子

お父様が昔親同士で決めた婚約者よ

夏子

たしかに家柄も財力も申し分ないけど…

千秋

夏子!失礼のないように。

千秋

藤堂家とは今大きな事業を共同で立ち上げているんだ

はる

旦那様の念願だった貿易のお仕事でございますか?

千秋

そうだよ
はるは頭がいいな

夏子

(なによ、私が世間知らずみたいじゃない)

冬彦

これは夏子さん!ごきげんよう

夏子

ごきげんよう。冬彦様

冬彦

いつもながらお美しい。
お手をどうぞ。

冬彦

千秋君会えて嬉しいよ。
そちらの花のような美人は?誰だい?

千秋

このレディは…

夏子

私の侍女ですわ!
お兄様の気まぐれで同席しますの

千秋

夏子!なんだその言い方は!

はる

はる、と申します。

冬彦

(美しいだけでなく気品もある。侍女とは思えないな)

夏子

(冬彦様まで見惚れている)

夏子

はる!喉が乾いたわ。なにか飲み物を!

はる

はい、ただいま!

千秋

今日はレディとして招待したんだ。そんな雑用はしなくていい。

千秋

私が注文してこよう。

夏子

お兄様が?

はる

申し訳ございません!お手を煩わせて…

客席の灯りが落ち 舞台が始まる。

重厚なストーリー 悲恋を予感させる伏線

はる

(素晴らしい物語…泣いてしまいそう)

千秋

(はる…涙ぐんでいる横顔も綺麗だ)

冬彦

(美しい侍女か。夏子と一緒に我が家に来るなら楽しみだが…)

夏子

(なんなの?お兄様も冬彦さんもチラチラとはるばかり見ている)

舞台が終わる はるは静かに涙をこぼしている

夏子

なんだか弱々しい女のお話だったわ

夏子

どうして人気なのかしら!?

千秋

はる、これを使いなさい

はる

あ…私泣いて?

夏子

はる、人前でみっともないわ!

はる

申し訳ございません!

千秋

いや、感受性が豊かな証拠だ。

千秋

(泣き顔も可愛らしい)

夏子

(なんだか腹が立つ)

夏子

冬彦さん、家まで送ってくださらない?

はる

(お嬢様のご機嫌が悪い…
泣いたりしたせいかしら)

千秋

夏子!冬彦さんにも予定があるだろう!

冬彦

いや、夏子さんのためなら予定など変えますよ。

夏子と冬彦が去る。 はるはうつむいている。

千秋

はる、どうした?

はる

なにか間違いをしましたでしょうか?

千秋

なに、夏子は主役をはるに取られたのが気に入らないのだよ。

はる

え?私など、とてもそんな…

千秋

はるは自分の美しさを知らないようだね

千秋

綺麗だよ、とても。

はる

千秋様…

千秋

せっかくドレスで来ているんだ。
もう少し楽しんで行こう。

はる

ここは…?

千秋

ダンスホールだよ。

千秋

家で開くダンスパーティーとは少し違うが、気兼ねなくていいだろう。

はる

私、ダンスなど踊れません。

はる

パーティーの間は厨房を手伝っておりますから

千秋

いま、覚えればいい。

千秋

さあ、私に任せて踏み出してごらん。

はる

(千秋様の手が腰に…)

はる

(顔が近くて息がかかりそう)

千秋

飲み込みが早いね。踊れているよ。

はる

(なんて幸せな時間…)

千秋

はる、君が好きだよ。

はる

えっ?千秋様、なんて?

千秋

君が好きだ。妻に迎えたい。

はる

ご、ご冗談を…

はる

私は使用人でございます

千秋

15年前美しい赤ん坊が我が家にやってきた時から

千秋

ずっと君を見てきたんだ

千秋

夏子の婚約が決まったけれど
君は九条家を出ないでそばにいて欲しい

はる

お嬢様は藤堂家に連れて行くと…

千秋

いや、私ははるを離したくない

千秋

はるは私が嫌いかい?

はる

いいえ!
ずっと…お慕いしておりました…!

千秋

嬉しいよ。幸せになろう!

はる

でも…きっと旦那様も奥様もお許しになりません。

千秋

はるは我が家の娘も同じ、2人とも
いつもそう言っているじゃないか。

はる

(千秋様のおそばにいられたら…)

はる

(捨て子だった私にそんな幸せが?)

千秋

はるが良いなら、両親には明日話そう。

翌日の朝食の席 千秋の宣言

夏子

お兄様!?正気なの??

夏子

いくら一緒に育ったからって
はるは私の侍女なのよ!

千秋

はるは夏子のモノじゃない。

千秋

1人の女性だ。

夏子

でも使用人なのよ?

千秋

そんなことは気にしていないよ

夏子

お父様、お母様、なんとか言ってください!

母親

千秋さん、あなたはこの家の跡取りなのよ?

父親

千秋…後で書斎に来なさい。

父親

何を考えているんだ?
いくら夏子と一緒に育てたとは言え
はるは捨て子だぞ。

千秋

娘も同然と、可愛がっていらしたでしょう?

父親

それは夏子の遊び相手としてだ。

父親

この家の嫁としてではない!

千秋

私はずっとはるを見てきました。
行儀作法も美しさも、
誰に見劣りがすると言うのです?

父親

お前は跡取りだ。
九条家の嫁はもう決まっている。

千秋

銀行家のお嬢さんの件はお断りしましたよね?

父親

お前の一存で決めることではない。
九条家と事業のためにも必要なことだ。

父親

それに今度の事業のためにお前にはイギリスで勉強してきてもらう。

千秋

そんな…急に!

父親

そろそろ現実を見て、将来を考えなさい

千秋

イギリスにはどのくらい?

父親

2年だ。
夏子の結婚式までに帰ってくるんだ

千秋

はる、2年などすぐだ。
夏子の結婚式までには帰る。

千秋

それまで待っていて欲しい

はる

千秋様…お待ちしています。

千秋

立派になって両親を説得するよ。
信じていて。

はる

はい…!

千秋

手紙を書くから。返事を待っているよ。

はる

どうか船旅がご無事でありますよう。

はる

お呼びでいらっしゃいますか?

父親

お前には夏子の世話をしてもらうために
藤堂家に行ってもらうつもりだったが…

母親

良い縁談があってね。
はるをぜひ欲しいと頼まれたのよ。

はる

私がお嫁に!?

はる

夏子お嬢様のお世話は…

母親

それは心配しなくていいわ。
あなたの幸せが優先よ。

父親

嫁に行くのは山科家の次男のところだ。
冬彦君からの推薦だよ。

はる

(千秋様をお待ちしていると約束したのに)

母親

山科家の嫁になるのに
恥ずかしくない支度をするわね!

はる

(門前に捨てられていたのを
ここまで育てていただいて…)

はる

(嫁入りの支度までと言われたら
断ることなんてできない)

はる

ありがとうございます。
身に余ることでございます。

母親

だから千秋のことは忘れて頂戴ね。

父親

手紙のやり取りもやめてもらうよ。

母親

嫁入り前の娘は身を慎まないとね

はる

(もしかして
千秋様と引き離すのが目的で…?)

はる

あの、千秋様…は…?

父親

千秋なら決まった婚約者がいる。
跡継ぎにふさわしい令嬢だ。

母親

忙しくなるわ。
はるのお嫁入り。
来年、夏子の結婚式が終わったら、
次は千秋さんの番よ!

はる

(千秋様がご結婚を決めた…)

はる

(もともと、釣り合う2人ではないし)

はる

はい…。かしこまりました。

はるは千秋に最後の手紙を送った。

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