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薄めのアウターが心強い昨今。ささやかな暖を提供すべく、喫茶店「めでたし」は今日も朝早くから開店していた。

昔ながらの古風な内装を楽しみながら、窓ガラスの向こう側へと思いを馳せ、シンプルなカップのコーヒーをすする——。ホッと一息つく客を横目に、男の心中はまったく穏やかではなかった。

???

ありえない。イヤだ。拒否する。棄却、却下、ノーセンキュー。

???

あらあら……。

ふわりとカールした桃色の長い髪を揺らし、この店のオーナーは困った様子で頬に手を当てた。

???

記憶通りであれば、カルタさんは、良心よりも相互利益を大切にする方であったはずですが……。

カルタ

相互利益?

カルタ

はぁ……オトギさん、それなら払うって言いましたよね。断ったのはそちらのはずだ。

おとぎ

ありがたいことに、お店の経営は順調ですから。

カルタ

……。

カルタ

僕には、踏み倒そうだなんて気は一ミリもないんですよ?

カルタ

ただ、あなたがそれに応じないだけ。

カルタ

よって、全部あなたが悪い!

カルタ

僕は無実。無罪放免。ただちに解放してください。

???

あれあれあれあれ?

いたずらっぽく弾んだ声を聞いて、カルタはノータイムで舌打ちをする。加えて、明らかに不機嫌だと眉をひそめた。

???

あっ、まだいたんスか? スンマセン、チビすぎて全然気付かなかったです〜。

カルタ

お呼びじゃねーんですけど。

???

自己中で決断も遅いとか、くくっ、カルタさんのイイとこってどこなんスかね?

カルタ

あははー。パチンカスのヤニカスがどの口で?

カルタ

つーか、仕送りパチンコに溶かすんじゃねーよクズ。

???

ゴミほどいらねー心配をど〜も〜。

???

探偵さんもぉ、親のスネかじり尽くして餓死しないよーにねぇ?

この男の頭の中に、客へ向けて良い言葉などあるのだろうか——日常会話のごとく失礼なことを言う相手に対し、さも当然のごとく失礼なことをカルタは考えていた。

カルタ

心配してくれるなんて優しー。

カルタ

でも申し訳ねーから、餓死する前に残った金でお前を屠る。

???

やれるモンならやってみな。

カルタ

程度を弁えろ、クソガキ。

おとぎ

こほん。

彼女の咳払いで、二人の間に満ちていた剣呑な雰囲気が一気に霧散した。

おとぎ

お二人の仲がよろしいことは、オーナーとしても喜ばしい限りです。

仲良くない!——二重に重なった言葉を聞くなり睨み合う二人を見て、彼女はクスクスと楽しげに笑う。

おとぎ

息もピッタリですし、これなら安心して任せられそうですね。

カルタ

僕はやりませんから。

おとぎ

……強要はしません。本当にイヤなら断っていただいて構いませんよ。

おとぎ

でも——

おとぎ

カルタさん。今、相当おヒマなんですよね?

???

二階に上がってく人、久しく見てないですよねー。

カルタ

……。

おとぎ

とにもかくにも、そんなわけですから。よかったら考えてみてください。

???

ぜってー来んなよー。

おとぎ

アジュくんはその煽りに対する熱量を、少しでも仕事に向けてくださいね。

亜珠

……スンマセン。

痛いところを突かれ、カルタは背もたれに身を預け天を仰ぐ。そして、低く唸りながら体を戻すと、重々しく腰を上げた。

カルタ

——今日は帰ります。

おとぎ

お話できてよかったです。お時間いただきありがとうございました。

カルタ

……。それでは、また。

振り返ることなく、足早に店を出ていく。その残影を見つめる彼女に、亜珠は素朴な疑問を投げかけた。

亜珠

新しい挑戦には賛成ですけど、なんでよりによってアイツなんスか?

おとぎ

んー……。

おとぎ

面白そうだから?

相変わらず考えの読めない微笑みを向けられ、彼はぎこちなく頷くのみだった。

清潔感とは程遠い、物に溢れた所長室。 まるで洗濯かごのように衣服が積まれたソファへ倒れ込み、カルタは一人悩んでいた。

カルタ

(一理ある……? いやいやいや。さすがに……)

堂々巡りから抜け出せず、このままではラチが明かないとスマホを手に取る。

夭折

——はい。ヨウセツです。

カルタ

あれ? これって、ヒコさんの携帯じゃ……。

夭折

ヒコさん……?

夭折

えぇと、ユラギさんなら今、手が離せなくて……。バディの俺が、代理として出させてもらってます、けど……?

カルタ

へえ。……まあ、誰でもいいか。

カルタ

やっぱ、BLって稼げるんですかね?

夭折

は?

カルタ

どう思います?

夭折

え、いや、あの……。

夭折

プ、プライベートな話は、ご本人が来てからの方が——

カルタ

需要があるかないか、そこが大事なんですよ。

カルタ

で、どう思います?

夭折

だから、俺は、そういう話は、詳しくないっていうか……。

夭折

ほら、最近は差別だなんだって発言が制限されてるし……そもそも俺なんかの意見が正当なわけないし……聞いてもなんの役にも立たないっていうか……むしろそれだけ時間の無駄になるっていうか……

夭折

そもそも目的すら知らない赤の他人が、首を突っ込むだなんてお互い損するだけですよ……俺なんかを頼るくらいならご自分で考えた方が百倍有益でしょうし……こんなキモいおっさんの相手をするより百倍マシだと思います……それに——

夭折

——つまり、その、俺みたいなボロ雑巾には難しいってことです……。俺、なんで生きてんだろ。

???

あれ。トキくんお取り込み中?

夭折

あ、ユラギさん。

由良木

そーいや、スマホ渡しっぱだったね〜。

由良木

緊急、ではなさそうだけど……お相手さんは?

夭折

えっと、この人——って、き、切れてる……。

耳元から離すと、すでに通話は終了していた。わだかまりを残したまま、ホーム画面に戻ったスマホを由良木へと返す。

由良木

ふむぅ。それで、なんの話を?

夭折

……。

夭折

その……不躾ながら、由良木さんにお伺いしたいことが……。

由良木

ん? 何かな?

夭折

なにか……変な営業でもされてるんですか? あ、いや、全然答えなくて大丈夫なんですけど……むしろ答えられても困りますし……。

由良木

えっとぉ……

由良木

なんか、盛大に勘違いされてる?

探偵

で、ウェイさん的にはどう?

ゲートウェイ

ゲートウェイ

仕事以外の話は受け付けてない。

探偵

仮にも情報屋ならさー、同じようなサービスをしてる店の情報、すっぱ抜くなりできるでしょー?

ゲートウェイ

バカなの?

ゲートウェイ

それに、ハッキングは僕の担当じゃない。

探偵

ケチ。

ゲートウェイ

[ゲートウェイ さんが退室しました]

まだ少し硬いパソコンを閉じて、彼は深いため息をついた。

カルタ

アテになる奴が一人もいねえ。

カルタ

でも確かに、このままじゃ事務所つぶれるし……。

カルタ

あぁ〜。どうしよ〜……。

いっそもう寝てやるかとうつ伏せたところ、テーブル上のやかましい着信音に阻止された。 タイミングの悪い発信者に顔をしかめつつ、その薄っぺらい受話器を取る。

カルタ

……はい。四二噛(しにがみ)です。

カルタ

——はい。は……え?

カルタ

……。

カルタ

もちろんです。それと、ひとつ確認しても?

カルタ

——あなたは男性、ですよね?

カルタ

……うん、合格です。明日からウチに来てください。

カルタ

……え、これだけですよ? 僕、長話ニガテですし。

カルタ

……まーそういうことなんで、よろしくお願いします〜。

相手の制止の声を無視して通話を切り、カルタは上機嫌でオフィスチェアにもたれかかった。

カルタ

さてさて、どんな奴が来ることやら……。

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コメント

21

ユーザー

めちゃくちゃ面白い……!! その喫茶店に毎日喧嘩を聞きに通ってみたい……

ユーザー

面白いぃぃ〜!非回目にいって最高です!笑 別に平気ですよ〜!むしろ面白くて好きです!笑

ユーザー

既に面白い…! うちの子もめちゃくちゃ解釈一致です! 続きも楽しみにしています!!

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