朝
起きると俺の部屋には薄く異臭が 広がっていた。
奏太
その臭いはアンモニアと生ゴミを 混ぜたような臭いだった。
奏太
俺はそんな独り言を言いながら 身支度を済ませ、家を出た。
だが、おかしい。
近くにごみ捨て場はないし、 生ゴミもない。
なのに、ずっとその臭いが 俺の鼻を刺激していた。
疑問に思いながら大学のキャンパスに入ると、後ろから声をかけられた。
拓海
おぅ、おはようと言うために鼻から息を吸った俺は…咽た。
何故か、今までの臭いが優しく感じられるほどの強烈な臭いが拓海からしていたのだ。
拓海
俺はなんとか口から息を吸い、 無理やり声を紡ぎ出す。
奏太
拓海
奏太
コイツ…気がついていないのか…?
こんな強烈な臭いに…?!
拓海
奏太
拓海
拓海
奏太
拓海はあっという間に行ってしまった。
あんな臭いさせて女子に近づいたら間違いなく嫌われるぞ…
ていうかアイツ嗅覚バグってるだろ…
あんなに強烈な臭いに気が付かないなんて…!
周りの人
キキィィィイイイィ!!!
ドンッ
鈍い音がした。
俺は恐る恐る音の方を見る。
そこには。
車に撥ねられた拓海だった物が 横たわっていた________
次の日。
昨日の事故で“死”というものに敏感になった俺は、母親が入院している病院へと足を運んでいた。
とはいえ母親は貧血で少し入院しているだけだから、別に心配しなくても大丈夫だろうけど。
というか昨日からのこの臭いは 何なんだ…
心なしか昨日より強くなった気が するし…
奏太
俺はため息をつきながら近くにいた看護師に話し掛けた。
奏太
看護師
奏太
俺は406に向かって歩き出した。
奏太
臭いが強くなっている気がする。
…気のせいか?
エレベーターが4階についた。
ドアが開いた、その瞬間。
強い臭いが俺の鼻を刺激した。
奏太
本当に何なんだ、この臭い…!
俺はフラフラとした足取りで 406へ向かう。
ドアを開けると、昨日の拓海と全く同じ臭いをさせた母親が窓の外を見ていた。
由美子
奏太
うまく喋れない。
うまく息が吸えない。
由美子
奏太
由美子
奏太
由美子
俺だってゆっくりしたいけどこの臭いに耐えられそうにないんだよ!
…なんて母親に向かって言えないよなぁ。
奏太
母親はちょっと悲しそうな顔をして言った。
由美子
奏太
この臭いが消えたらな!!
とは言わず。
俺が1階に降りると。
看護師や医師がバタバタと忙しそうに動いていた。
看護師
奏太
急に話しかけられて驚いた…
というか、こんなにバタバタして どうしたんだろう?
看護師
奏太
いや、嘘だろ?
ついさっきまで俺と元気に話して いたじゃないか。
母さんが危険なんて…有り得ない。
看護師
そんなの嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
嘘で、あってくれ_________
由美子さんの容態が急変しました。
そう言われてから、何時間たっただろうか。
母さんは、亡くなった。
嘘だと信じたかった。
母さんが死んでるなんて、受入れたくなくて。
最初は手はまだ温かくて、死んでいるなんて思えなかった。
だが、段々と冷たくなっていく手を感じ、俺は現実を受け入れざる負えなかった。
俺の目からは涙が溢れていた。
病室を充満させていたあの臭いは いつの間にかなくなっていた。
1ヶ月後
俺はあることに気が付いていた。
あの臭いは
_________人が死ぬ直前の臭いだ。
でもそれを信じたくなくて。
外に出ては、人が死ぬところを たくさん見てしまった。
今では外に出すことが恐怖となり、家に引きこもっている。
…あぁ。
今日も、臭うなぁ。
ユナ
ユナ
ユナ
ユナ
コメント
2件
恐ろしい…… 人の死ぬ前の臭いなんて、切ないですね……