1、2、3...
「一緒に大縄しよう!」
「───!」
初めて、みんなで跳んだ大縄は いつもより重く感じた。
「私、引っ越す事になったの」
いきなりそう言われたけど、 驚きはしなかった。
予想はだいたいつくから
「そうなんだ。どこに行くの?」
クラスのみんなも、私と同じような反応だった
パリーン
ガラスが割れる音がした
(怪我してない? (大丈夫?
(なになに? (誰か割った?
「ごめん!大丈夫」
そう言って、先生の所へ 走って行った
涙目の彼女を見たのは、私だけじゃないだろう
それでも、 誰も彼女を追いかけようとはしなかった。
(これが解けた奴は帰っていいぞ)
「うーん…」
教室を出ようとした時も、 彼女はまだ頭を抱えていた。
彼女以外はみんな、 問題を解き終えていた。
「ここはね…」
「あ!大丈夫だよ! 私自分で解くように頑張るから」
結局、先生に言われるまで 一人で居残ってたらしい
ふと横を見たら、 彼女が泣いていた
こちらにも気付いていないようだから、そのまま通り過ぎようとした
「私だけ、一人で 短縄してるみたいじゃん...」
いたい。
自分の中に、何かが刺さった
「そっちが勝手に短縄してる だけじゃん...」
それだけ呟いて、 一歩進んだ。
進めない
背中に重みをつけたように ずっしりと感じた。
振り返ると、弱々しい手が 自分の制服を引っ張っていた
「みんなが、楽しそうに 大縄するから…入れない。」
それからは、ずっと彼女を 見ていた。
確かに、彼女以外の大勢が 彼女一人の横にいた
彼女だけ、中々大縄に入れず ただひたすらに短縄を跳んでいる様に見える。
彼女が言っていたこと、 少しだけ理解できた気がする。
彼女は音楽が得意らしい。
いま、彼女は楽しそうに大縄をしている。
「すごい。上手なんだね」
自分も、その輪の中に入ってみる
「■■ちゃんだって、 練習すればきっとできるよ!」
予想外の返答。
でも、これならみんなで大縄できるんじゃないかな。
周りを見渡してみた
今度は逆
みんなは、一人一人短縄に励んでいた。
大縄をしているのは、 私と彼女だけ
こんな大きな縄を、 2人だけで使ってしまっているのだ
みんな、自分の回数を数えるのに精一杯だった。
引越しの日が近づいてきた。
最後の思い出として、 みんなで大縄をする事になった
彼女は今、初めてみんなと大縄を跳んでいる。
バチン!
その音と同時に、 騒がしかった体育館が静まり返る
そして、コソコソとまた騒がしくなる。
(次誰だよー (また□□さん?
(やばー (全然楽しくねぇー
体育館に、一滴のしずくが落ちた
私の頬は、濡れていない。
『やっぱり、ダメだ…』
彼女のかすかな声を聞いたのは、 おそらく私だけ。
でも、私は何も言わなかった
彼女が学校に来るのも、 もう最後。
彼女は、やっぱり 短縄を手に持っていた
でも、跳ぼうとしない
みんなも、体育館を走り回っている
最後の思い出を作ると言っても 大縄だけじゃつまらない。
『最終日は自由にしよう』
彼女にとって、この一言がどれだけ辛いか、私は分からない。
私が、体育館の床に寝転んだ時、
「今までありがとう!」
その声が、体育館に響いた
気づいたら私は、 彼女の前に立って泣いていた
泣きながら、
「私もね、みんなと大縄 やった事無かったの」
「『みんな』と大縄出来るチャンスは、今日しかないんだ」
「だから…」
「一緒に大縄しよう!」
そう、言い放っていた
綺麗に並べられた机。
その前で、女の子が 喋っている
その話を聞きながら、私は机に伏せた。
チラッと横を見た
隣にあった机は、 もう無くなっていた
コメント
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身に覚えのある感覚が、身に覚えのある緊張感やストレスを伴って、文章という形で目の前に立っている感覚でした。 どうにも周囲に溶け込めない、タイミングも興味も合わない、合わせられない疎外感の表現があまりに秀逸で、とても新鮮な思いで拝読しました。 tankobuさんの天性のリズム感、バランス感覚かと思うのですが、作中人物の距離感が本当にリアルで引き込まれます。 素晴らしい作品をありがとうございます。