「死ぬ気で恋をしてみないかい?」
そんなキザな言葉を本気で受け止めなければよかった。
もとから、線を引いておくんだった。
こんなにも好きになる前に。
こんなにも離れがたいと思ってしまう前に。
編集者
編集者
ガハハ! と大声をあげて笑う編集者たちに挟まれているすらりと背の高い端正な顔立ちの彼を
俺はぼうっと見ていた。
くいと酒を呷り、少し気分が悪くなったものだから、水を求めごくりごくりと飲んだ。
中島敦
小さく、つぶやく。
彼が出した『斜陽』という作品は、瞬く間に人を呼び、かなりの儲けを出した。
すっかり人気になった彼の『斜陽』という作品を知らぬ者は、
この日本中を探しても、ほんの一握りしかいないだろう。
そのくらい人気になってしまった。
俺は少しの寂しさを感じつつ、それを紛らわせるように水の入ったコップをクルクル回した。
……実をいえば、この『斜陽』は売れてほしくはなかった。
彼の愛人を元に作り出された作品を、どう読みたいと思うんだ。
俺ではない、人を元にした作品が売れて嬉しいだなんて言えるやつは、ただの莫迦だ。
それか、己を隠すのが上手いやつだ。
俺はどちらにも属さなかったから、彼の自慢話もまともに聞かなかった。
聞きたくもなかった。
俺のみっともない姿を見ながら、
俺をみっともない姿にさせながら、
笑顔で、言わないでほしかった。
編集者
太宰治
太宰治
太宰治
その言葉に、かちん、ときた。
つい、机を強くたたいてしまった。
周りの人々が、俺を一斉に見た。
その中に彼もいた。
太宰治
太宰治
太宰治
彼はひょうひょうとした態度で俺に話しかける。
中島敦
彼は、いや、太宰は嬉しそうに顔を綻ばせた。
太宰治
太宰治
太宰は俺の肩をぐっと抱き寄せ、俺のお腹を軽くたたいた。
中島敦
太宰治
編集者ら、太宰の友人らがこちらを好奇の目で見る。
太宰の友人
太宰の友人
太宰治
太宰の友人
冗談らしく太宰とその友人は肩を組んで笑うが、
俺は居た堪れなくて仕方がなかった。
中島敦
太宰治
なんでそんな驚いた顔をする。
中島敦
太宰治
太宰は困惑した声でかたまってしまった。
だが、そんなの俺が知ったこっちゃない。
勘定を済ませ、その店から出て行こうとした時、
太宰治
太宰に腕をつかまれた。
太宰治
中島敦
太宰治
太宰は編集者らや友人らへ金を渡してくると、
俺の隣をぴったりとくっついてついていった。
コメント
9件
こういうパロ系初めて読んだんですけど初めて読んだのが羊右さんの作品で良かった!!!!マジで最高です!!本当に語彙力が無さすぎるせいで最高って言う言葉しか出てこない……取り敢えず本当に大好きです愛してる!!!!!!!!!!
初コメ失礼します。 こういうパロの作品を見たかった!!すっごい面白い!!天才すぎるぅっ!作品の雰囲気とか2人の口調とかが本当に文豪さんで大好き!!!!!こんな神作に出会えて私はとても幸せです…生んで下さりありがとうございます…