# 類 .
類の放った言葉が、 耳にこびり付いて離れ無い。
# 司 .
司は思い出す。 全てを失った、 そう遠くない日の事を。 そして思いっ切り嘲る様に笑う。
# 司 .
丁度、1年程前の話だった。
# 咲 .
司には、目に入れても 痛くないほどに 溺愛している妹がいる。 病弱で普段はベッドから 出てくるのも難しい妹が ここ数週間は すこぶる体調が良いというのだ。 幼馴染も交えた誕生日パーティに 市場へのお出かけ。 ずっと叶えてあげられて いなかったそれに 大喜びする妹は可愛かった。
# 司 .
# 咲 .
しかも、つい昨日は 水晶の森まで たどり着けたというのだ。 普通のこどもが歩いていくには 片道20分ほどのそこだったが 30分と少しをかけてなんとか 森までたどり着いたようだ。 妹の小さな歩調に合わせて 仲良くしてくれている 幼馴染に司はそれはそれは 感謝したものだ。 感謝が過ぎたのか、 一人にうざがられ、 もう二人には呆れられたが。
# 司 .
# 咲 .
そんな訳で、今より幼いオレ達は 幼馴染と待ち合わせをして 水晶の森へと向かっていた。 水晶の森は奥まった所へ行くと 水晶の煌めき溢れる 神秘的な場所だが 入口付近は普通の森と大差なく、 水晶の力で凶暴な獣も 住み着かないので 子供の遊び場に最適だ。 しかし、今日は 可愛い可愛い咲希の願いを 叶えるべく、奥の水晶のある所迄 行く約束をしていた。
# 咲 .
咲希が楽しそうな声を上げる。
# 咲 .
力のある子供は水晶に惹かれ、 触れれば光が放たれ、 天啓を授けられるだろう。 司の住んでいた村には そんな言い伝えが残っていた。 軽い気持ちで各々の惹かれる 水晶玉に軽く触れる。 あたりを強い光が包みこんだ。 ば、とモニターのような ものが出てくる。 それが、6人分。 驚きを孕んだ声が 大きく響き渡った。
# 司 .
# 咲 .
# 雫 .
# 一 .
# 志 .
# 穂 .
能力名:虚像の演者【アクター】 能力の内容:司が意図的に 特定の感情 (特に恐怖、悲しみ、殺意など)を 他者から完全に遮断し 虚偽の感情 (笑顔、無邪気さ、明るさ)を 増幅させて認識させる。 代償/制約:能力による虚像を 多くの人に見せ過ぎると 自分を見失ってしまう。
能力名:運命の調律者【マエストロ】 能力の内容:司がごく短時間、 自分や他者に降りかかる 差し迫った不幸 (死や怪我など)の規模や順序を 捻じ曲げる事ができる。 代償/制約:捻じ曲げた 不幸分の苦しみが 体調不良となって現れる。
自分以外の皆の能力は見ることが 出来なかったが、 皆、希望に満ちた顔をしていた。
# 咲 .
# 志 .
# 穂 .
# 一 .
# 雫 .
そんな話をしていると、 いつの間にか街の広場へと 帰って来ていた。 雫は神殿で 祈りの時間になるから、と 街の入口で名残惜しくも別れた。 刹那、何故か片腕が飛んでくる。
# 咲 .
顔から血の気が引く。 その手首には、今朝、 咲希が母に送った 腕輪が着いていたから。 咲希も状況を理解してしまったのか 引き攣った声をあげ、 数歩後ろへ後退った。
# 司 .
幼馴染たちは力強く頷いてくれた。 感謝し軽く頭を撫ぜると、 オレは家の方角へ走り出す。 走って、なんとか たどり着いた家の扉を 叩くように開くと、 そこには吐きそうな 光景が広がっていた。
血で赤く染まった室内に 倒れ込んでいる両親。
# 現 .
片腕を失った母が 血を吐きながら問うた。 これは現実か? 脳が理解を拒む。
# 司 .
# 現 .
うわ言のように母は言う。 父もそれに頷いた。 出血多量で二人が 助からないことを 子供ながらに理解してしまった。 死ぬまでのこの苦しい瞬間を 終わらせたいのだと、 解ってしまった。 震える手でナイフを手に取る。
# 司 .
いやだ、いやだ。 怖い。 こんな事したくない。 どうしてこうなってしまったんだ。 父と母をこうした奴が憎い。
# 司 .
司は力無くナイフを落とす。
# 司 .
頬を涙で濡らしている内に 両親は冷たくなってしまっていた。 両親を嬲り殺したのは、 間違いなくオレだった。
# 司 .
そう決意を固めた矢先、 4人の悲鳴が聞こえる。
# 司 .
両親を抱きしめたが故に 血に濡れた手を洗う事も しないまま、司は駆けだした。
四人のいるはずの広場へと駆け戻る。 そこにいたのは、愛しい妹と その幼馴染ではなかった。 檻を粗雑に台車に 括り付けたようなものに とらわれる妹たちを 連れ去っていく男たちの姿。 追いかけども、追いかけども、 男たちの背中は 遠ざかっていくばかりだった。
# 司 .
どうしてオレたちが、 オレだけがこんな目に 遭わなくてはならない。 唯、オレは。
# 司 .
深くて重い絶望が 小さな体を支配する。 噴水の水面に映る俺は 酷い顔をしていた。
# 司 .
司は自分を嘲る様に 思いっ切り笑う。
# 司 .
深い絶望を覆い隠して笑う。 誰にも弱みを見せないように、 つけいられないように。
雨は降り止む気配はない。 鬱陶しいほどの土の匂いと、 ジメッとした空気が肌に張り付く。
# 司 .
それが彼__類への救済であり、 自身への呪いだ。
# 司 .
# 司 .
オレは何処で間違えたのだろうか。 水晶の森に行かなければ、 咲希を置き去りにせず 惨劇を共に目にしていれば、 それとも両親を殺めず 誰かに助けを求めていれば? たらればばかりが浮かぶ。
# 司 .
贅沢を1つ口にした。
# 謎 .
# 謎 .
# 謎 .
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コメント
6件
設定から良すぎて1話目から一気見しました…!! 主様語彙力爆発しすぎててすごく良かったです😭😭 このお話めちゃくちゃ好きです… 続きすっっっごく楽しみにしているので連載頑張ってください!💗
わぁぁ✨ 更新ありがたいです😊 司くんも可哀想ですね😭 続き楽しみにしてます😊
続き楽しみです!!