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橙 。

……これ、食べる?

今日もまた、彼女の向かいに座ってしまった俺に、

橙はフォークで小さく切ったモンブランを差し出してきた。

緑 。

昨日のお返し?

橙 。

うるさい。

橙 。

余っただけ

ぶっきらぼうな言い方。

でも、その手元が丁寧すぎて、なんだか可笑しかった。

緑 。

……うま

口に入れると、栗の風味とふわふわのクリームが広がる。

緑 。

甘いけど、しつこくなくて……

って、感想を漏らすと、彼女はほんの少しだけ口元を緩めた。

橙 。

でしょ

橙の視線が、テーブルに置かれた小さな猫のぬいぐるみに移る。

店内を自由に歩き回る本物の猫たちとは別に、各席にはおまけのように飾られているものだった。

緑 。

この店、猫もスイーツも可愛いのに、なんで人少ないんだろ

橙 。

駅から遠いし、派手な宣伝してないしな。

橙 。

でも、そのぶん落ち着いてていい。

橙 。

猫、触り放題だし

緑 。

猫、好きなの?

橙 。

……うん

ふとした拍子に返ってきた、素直な声。

その一言がやけに印象的だった。

俺の知ってる橙は、教室の片隅で誰とも話さず、教師に質問にも「別に」と答えるような子だったはずだ。

でも今、目の前にいる彼女は_

緑 。

もしかして、甘いもの好きって……誰にも言ってないの?

橙 。

……言う必要なし。

橙 。

言っても笑われるだけ

緑 。

笑わないよ

思わず口から出した言葉だった。

彼女がこちらをじっと見つめてきた。

いつもの表情ではなく、驚いたような、それでいて少しだけ困ったような顔。

橙 。

……お前、変なやつだな

緑 。

よく言われる

それにしても、こんな顔をする橙を、誰が想像できただろう。

モンブランを大事そうに食べる姿。

膝に乗せた猫を、優しく撫でる指先。

窓から差し込む夕陽が、彼女の横顔をオレンジに染めて_

なんだか、目が離せなかった。

緑 。

この店、いつから来てたの?

橙 。

……春から。

橙 。

誰にも会わなそうな場所、探してたら見つけた

緑 。

それ、俺が来て台無しだったかもな

橙 。

そうだね

即答かよ、と笑いかけた瞬間。

橙の口元が、ふっとほころんだ。

その笑顔は、たぶん誰も見たことがない。

俺だけが、偶然手に入れた"秘密"。

甘いものも、猫と、優しい笑顔。

その全部が、橙の"本当"なんだと思った。

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