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くらげとめんだこ。(くらげ垢)
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1件

主
主
主
主
俺は、この部屋の温度に慣れているはずだった。
寒いのが当たり前で、息が白くなるのも普通で、それがずっと続くものだと思っていた。
ソ連
低い声が背後から落ちてくる。
振り返らなくてもわかる。兄貴だ。
ロシア
そう答えると、足音が近づいてくる。
規則的で、迷いのない歩き方。
ソ連
すぐ後ろで止まる気配。
視線だけで縛られているような感覚になる。
ソ連
ロシア
言葉は短いが、それで終わることは少ない。
俺はそれを知っている。
案の定、肩に手が置かれる。
強くはないが、逃がさない力だ。
ソ連
不意に、そんなことを聞かれる。
少しだけ間が空く。
ロシア
本当は寒い。
だが、そう答える理由はない。
ソ連
即座に返ってくる。
手の力が、ほんのわずかだけ強くなる。
ソ連
兄貴の声は、感情があるのかないのか判別しにくい。
だが、すべて見透かされているようで落ち着かない。
ソ連
短い命令。
俺は逆らわない。
逆らう理由も、意味もないからだ。
一歩近づくと、そのまま引き寄せられる。
距離が消える。
ソ連
淡々とした声。
抱き寄せられているのに、温もりとは少し違う。
管理されているような、そんな感覚だ。
ロシア
ソ連
ロシア
言ったあとで、遅いと思った。
だが、もう引き返せない。
ソ連
ロシア
沈黙が落ちる。
数秒か、それ以上か。
時間の感覚が鈍る。
ソ連
返答は、あまりにも簡単だった。
ソ連
ロシア
知っている。
ずっと前から。
ソ連
その言葉に、わずかに違和感を覚える。
ロシア
ソ連
迷いのない肯定。
そこに優しさがあるのかどうか、俺には判断できない。
ただ一つわかるのは——
ロシア
自分でも止められなかった。
ロシア
兄貴の手が、一瞬だけ止まる。
それから、ゆっくりと動いた。
さっきより、わずかに強く。
ソ連
声が低くなる。
少しだけ、冷える。
ソ連
それがすべてだと言うように。
ソ連
俺は、何も言わなかった。
言えなかった、の方が正しいかもしれない。
ただ、離れようとは思わなかった。
思えなかった。
この距離が、嫌なのかどうかもわからない。
ロシア
それだけを返す。
それで十分だと、知っているからだ。
兄貴の手は、最後まで離れなかった。
まるで、本当に壊れることを恐れているみたいに。
ロシア
呼ばれて、俺は顔を上げた。
そこにいるのは、いつもと同じロシアのはずだった。
ソ連
ロシア
その一言で、空気が止まる。
ソ連
即答だった。
考えるまでもないことのように。
ロシア
ロシアはそれ以上何も言わない。
いつも通りだ。
逆らわない。食い下がらない。諦める。
それが正しい。
そうしてきたはずだ。
なのに——
ソ連
気づけば、呼び止めていた。
ロシアが振り返る。
その目は、静かだ。
何も映していないようで、何かを諦めている目だ。
ロシア
ソ連
ロシア
ソ連
問い詰めるような声になる。
自分でもわかる。
ロシア
淡々とした返答。
その言葉に、わずかに苛立ちが混じる。
ソ連
ソ連
ソ連
言いながら、違和感が広がる。
これは、確認ではない。
言い聞かせている。
誰に向けてなのかは、わかっている。
ロシア
ロシアはうなずく。
否定しない。
いつも通りだ。
だが——
ソ連
そう言って、視線を外した。
その瞬間、胸の奥がわずかに軋む。
ソ連
言葉が、勝手に出た。
ロシアがまたこちらを見る。
今度は、ほんの少しだけ感情が揺れた。
ロシア
ソ連
ロシア
俺は答えられなかった。
自分でもわかっていない。
ただ一つだけ、はっきりしていることがある。
ソ連
それでも、出てくるのは同じ言葉だ。
変えられない。
変える方法を知らない。
ソ連
命令。
いつもと同じ。
だが、その言葉が今はやけに重い。
ロシアは、少しだけ黙ったあと——
ロシア
そう聞いた。
ソ連
一瞬の迷いのあと、肯定する。
それ以外の答えを持っていない。
ロシア
ロシアはそれだけ言った。
それ以上は何も言わない。
怒りも、拒絶もない。
ただ、静かに受け入れる。
それが、逆に不自然だった。
ソ連
名前を呼ぶ。
返事はない。
ただ立っているだけだ。
ソ連
気づけば、そう言っていた。
命令ではない言葉。
初めてかもしれない。
ロシアの肩が、わずかに揺れる。
ロシア
ソ連
ロシア
即答だった。
迷いはなかった。
その言葉が、こんなにもはっきり返ってくるのは初めてだった。
ロシア
静かな声。
だが、確実に距離ができている。
ロシア
試すように言う。
俺は、動けなかった。
止めればいい。
いつも通りに、力で従わせればいい。
それなのに——
できない。
ソ連
口から出たのは、それだった。
ロシアは何も言わず、扉に手をかける。
その背中を見て、ようやく理解する。
これは、ただの管理じゃない。
手放したくないと思っている。
ここにいさせたいと思っている。
それは——
ソ連
言葉にできない。
してはいけない気がした。
扉が開く。
冷たい空気が流れ込む。
ロシア
ロシアが、最後に振り返る。
ロシア
静かに言う。
ロシア
ソ連
それしか返せない。
ロシア
少しだけ間を置いて、
ロシア
そう言った。
扉が閉まる。
音は、小さかった。
それなのに、やけに響いた。
部屋には、何も残らない。
寒さだけが、元に戻る。
ソ連
一人でつぶやく。
理解したときには、もう遅い。
やり方を変えられなかった時点で、決まっていた。
ソ連
続きは出てこなかった。
必要な言葉なのに、今さらすぎて意味がない。
ただ、手だけが宙に残る。
さっきまで、そこにいたはずのものを探すみたいに。
ソ連
命令は、もう届かない。
最初から、届いていなかったのかもしれない。
部屋は静かだ。
静かすぎて、ようやく気づく。
あれは、従っていたんじゃない。
ただ、諦めていただけだ。
そして今——
それすら、なくなった。
俺は、何も持っていない。
外の空気は、思っていたより冷たくなかった。
むしろ、少しだけ軽い。
ロシア
誰に言うでもなく、俺はつぶやいた。
もっと違うものを想像していた。
苦しいとか、怖いとか、あるいは何も感じないとか。
だが、どれでもない。
ただ、静かだ。
足を止める。
振り返れば、あの建物がまだ見える。
離れたはずなのに、距離がある気がしない。
ロシア
はっきりしている。
あそこにいれば、壊れる。
自分で言ったことだ。
間違っていない。
それなのに——
ロシア
視線を外せない。
扉はもう閉まっているはずなのに、
今でも、開けば兄貴がいる気がする。
ロシア
名前を呼ぶ。
当然、返事はない。
わかっている。
それでも、口に出る。
ロシア
あのとき。
いつもなら、力ででも止めただろう。
そういう人間だ。
それなのに、あのときは違った。
ロシア
考えても、答えは出ない。
ただ、一つだけ引っかかる。
最後の言葉。
『行くな』
命令じゃなかった。
初めて、そうじゃなかった。
ロシア
思わず、そう漏れる。
自分でも驚くくらい、感情が乗っていた。
ロシア
もっと前に言えばよかった。
やり方なんて、どうでもよかった。
あの人が、あの形じゃなくていいと言えば、
俺は——
ロシア
そこで止まる。
その先を考えるのを、やめる。
意味がない。
もう終わったことだ。
風が吹く。
少しだけ強くなって、体温を奪っていく。
なのに、不思議とあの部屋より寒く感じない。
ロシア
あそこは、守られていたはずだ。
寒さも、危険も、全部。
それでも、ここより息がしにくかった。
ロシア
口にしてみる。
実感は、まだ薄い。
どこへ行ってもいい。
何をしてもいい。
そういう状態のはずなのに——
ロシア
わからない。
今まで考える必要がなかった。
考えさせてもらえなかった。
どちらでも同じことだ。
しばらく、その場に立ち尽くす。
進むでもなく、戻るでもなく。
ただ、立っている。
ロシア
ようやく足を動かす。
一歩、前へ。
それだけで、少しだけ距離が開く。
もう振り返らない。
そう決めて、歩き出す。
けれど——
数歩進んだところで、足が止まる。
ロシア
小さくつぶやく。
誰にも聞かれない声で。
ロシア
はっきりとした事実だった。
あのやり方は間違っている。
あそこに戻ることはない。
それでも——
全部を否定できるほど、単純じゃない。
ロシア
短く息を吐く。
それで少しだけ、前が見える気がした。
ロシア
また歩き出す。
今度は止まらない。
後ろは見ない。
見なくても、消えるわけじゃないと知っているからだ。
だったら、抱えたままでいい。
ロシア
そう決めて、俺は前を向く。
風は冷たいままだが、
さっきより、少しだけ軽く感じた。
人の流れの中を歩くのは、まだ慣れない。
ぶつからないように、視線を落として、一定の速さで進む。
それだけのことなのに、少しだけ意識が必要だ。
ロシア
足音とざわめきが混ざる中で、
ふと、違和感が混じった。
理由はわからない。
ただ、一瞬だけ呼吸がずれる。
前から誰かが来る。
それだけのことだ。
特別なはずはない。
ソ連
すれ違う。
視線は上げない。
上げる必要はない。
知らない誰かだ。
そういうことにしておく。
肩が、わずかに触れるか触れないかの距離。
その瞬間——
ソ連
低い声が、落ちた。
足が止まる。
遅れて、意味が追いつく。
ソ連
続いた言葉は、静かだった。
命令でも、評価でもない。
ただの事実みたいに、淡々と。
ロシア
振り返る。
人の流れは変わらない。
同じような背中がいくつもあって、
どれがそれだったのか、もうわからない。
ロシア
声を出そうとして、やめる。
呼べば、何かが変わる気がした。
だが——
変わったところで、どうなる。
ロシア
結局、小さくつぶやくだけになる。
当然、返事はない。
さっきの声が、本当に聞こえたのかさえ曖昧になる。
ただ、胸の奥に残っている。
ロシア
言葉を続けるか迷って、少しだけ息を吐く。
ロシア
そう言ったはずなのに、
なぜか、否定しきれない。
さっきの一言が、妙に引っかかる。
ロシア
繰り返してみる。
誰にも言われたことのない言葉だった。
少なくとも、あの人からは。
ロシア
そこまで言って、止まる。
言い訳みたいになるのが、少しだけ嫌だった。
ロシア
短く区切る。
もう一度、前を向く。
さっきまでと同じ人の流れ。
同じ音。
同じ空気。
なのに、少しだけ違う。
ロシア
思わず、そんなことを口にする。
あり得ないとは言い切れないのが厄介だ。
ロシア
ほんの少しだけ、口元が緩む。
自分でも気づかないくらいに。
ロシア
誰に聞かせるでもなく、そう言った。
歩き出す。
今度は、迷わない。
振り返らない。
振り返っても、もういないと知っているからだ。
それでも——
さっきの声だけは、しばらく消えなかった。
人混みは、好きではない。
視界が狭まる。音が多い。無駄が多すぎる。
それでも、歩く理由はある。
立ち止まる理由が、もうないからだ。
ソ連
一定の速さで進む。
周囲に意識を割く必要はない。
誰も、俺に干渉しない。
それでいい。
そのはずだった。
——違和感が走る。
一瞬だけ、足を止めかける。
だが止めない。
その程度のことで、動きを乱すべきではない。
前から、誰かが来る。
ただの一人だ。
特別なはずがない。
ソ連
すれ違う直前、
視界の端に、見覚えのある輪郭が入る。
否定はしない。
間違えるはずがない。
ソ連
呼ばない。
名前は、口の中で消す。
すれ違う。
距離は一瞬で消えて、すぐに離れる。
それで終わりにできる。
そうするべきだ。
ソ連
足は止めない。
振り返らない。
それでいい。
それが、正しい。
ソ連
それでも、言葉が残る。
ずっと前から、出せなかった言葉が。
今さら出す意味はない。
理解している。
理解しているが——
ソ連
気づけば、口にしていた。
声は抑えた。
届くかどうかは、どうでもいい。
ソ連
続ける。
評価ではない。
命令でもない。
ただ、事実として見えたものを、そのまま。
それだけだ。
それだけで、十分だ。
ソ連
返事はない。
当然だ。
聞こえていない可能性の方が高い。
それでいい。
むしろ、その方がいい。
足を止める理由にはならない。
そのまま、歩く。
速度は変えない。
呼び止められても、振り返らないと決めている。
ロシア
呼ばれない。
予想通りだ。
少しだけ、間を置く。
それでも、何もない。
ソ連
小さくつぶやく。
聞こえるはずもない声で。
気づかなかったのか、
気づいて無視したのか、
どちらでもいい。
どちらであっても、結論は同じだ。
ソ連
あれは、もう外にいる。
俺の外に。
それでいい。
そうしなければならなかった。
ソ連
一度だけ、足を緩める。
振り返るためではない。
ただ、確認するように。
だが、結局そのまま前を向く。
振り返れば、意味が変わる。
あの言葉の意味まで、歪む。
それは避けるべきだ。
ソ連
はっきりと言う。
誰に対してでもなく。
自分に対してだ。
あれは壊れていない。
外に出ても、立っている。
なら——
それ以上は、不要だ。
ソ連
それだけ言って、歩き続ける。
人の流れに紛れていく。
足を止める理由は、もうない。
それでも、
ほんの一瞬だけ、
背後に気配を感じた気がした。
振り返らない。
確認もしない。
その必要はない。
ソ連
代わりに、わずかに目を閉じる。
それで終わりにする。
あれは、やれている。
それが事実だ。
それだけで——
十分だ。
主
主
主
主
主
主