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放課後の教室は、ゆっくりと熱を失っていく時間だった。 昼間の騒つきが抜けて、残った空気は少しぬるくて、何処か気の抜けた静けさが広がっている。 窓際のカーテンが風に揺れて、その影が机の上をゆっくり滑る度に、時間がやけにゆっくり進んでいる様に感じる。 そんな中で、夢主の声だけが妙に耳に残った。 笑っている。 何気ない話で、特別な事じゃないはずなのに、その笑い方や声の高さがやけに印象に残る。 視線を向けると、隣に同じクラスの男子がいるのが見えた。二人で何かを見ながら話していて、時々肩が触れるくらいの距離に自然と収まっている。その距離感はぎこちなさもなく、寧ろ慣れている様に見えた。 それが、ほんの少しだけ引っかかる。 たっつんは、頬杖をついたまま動かない。 顔には出ていないつもりだった。いつもと同じ様に、何も考えていない風を装って、ただぼんやり時間を潰しているだけに見える様に。 けれど、視線は無意識に固定されていた。 夢主が笑う度に、ほんの少しだけ胸の奥が騒つく。 その隣の男子が距離を詰める度に、理由な分からない引っかかりが残る。 気づかないふりをしても、何度も同じ所に目がいく。 机の端を指先で軽く謎る。 さっきから同じ動きを繰り返している事に、途中でやっと気づく。 落ち着かない。
たっつん
心の中でボソッと呟く。 理由は分かっているはずなのに、ちゃんと認めるのが妙に面倒で、わざと曖昧にしている。 ただ気に入らないだけ、と自分に言い聞かせる。 それで終わるはずなのに、どうしても終わらない。 やがて男子が席を立ち、軽く手を振って教室を出ていく。 夢主もそれに応えて笑う。 その瞬間、胸の奥に溜まっていた何かが、少しだけ解ける。 完全には消えないけど、さっきよりはマシになる。 それを見届けてから、漸く身体を起こす。 鞄を背負いながら、わざとタイミングをズラして声を掛ける。
たっつん
夢主が振り返る。
夢主
たっつん
自然な流れで出た言葉だった。
夢主
その一言で、妙に安心する。 理由はハッキリしないのに、さっきまで引っかかっていたものが少しだけ軽くなる。
帰り道は、教室よりもずっと空気が軽かった。 夕方の風が少し冷んやりしていて、肌に触れる度に余計な熱が抜けていく気がする。 二人で並んで歩く距離は、特別近い訳でも遠い訳でもなく、普段と変わらないはずなのに、今日は少しだけ意識してしまう。 たっつんは何度か言葉を探す。 何でもない話を振ればいいのに、どうしてかそれが出来ない。 代わりに出てきたのは、ずっと引っかかっていた事だった。
たっつん
夢主が視線を向ける。
夢主
たっつん
短い問い。
夢主
あっさりした答え。
たっつん
それ以上広げない。 でも、引っかかりは消えない。 数歩進んで、また言葉を探す。
たっつん
今度は少しだけ踏み込む。 夢主は少し考えてから答える。
夢主
その曖昧さが、余計に気になる。
たっつん
思ったよりも早く言葉が出る。 少しだけ強くなっているのが自分でも分かる。 夢主が少し驚いた顔をする。
夢主
たっつん
それだけ返す。 でも、納得はしていない。
たっつん
自分でも分かってる癖に、まだ曖昧にしている。 少しだけ歩く速度が変わる。 夢主はそれに気づいて、隣を見上げる。
夢主
たっつん
即答。 けれど、その言い方が素っ気ない。 夢主は少しだけ黙ってから、また口を開く。
夢主
その言葉で足が止まりかける。 踏みとどまって、そのまま歩き続ける。
たっつん
完全な否定。 でも、声に微妙なズレがある。 夢主はそれを見逃さない。
夢主
軽く言われて、少しだけ眉が寄る。
たっつん
夢主
言い方は柔らかいのに、核心を突かれている。 一瞬だけ言葉が止まる。 逃げるか、認めるか。 その間が出来る。
たっつん
結局、誤魔化すのをやめる。
たっつん
夢主が足を止める。
夢主
振り返る。
たっつん
視線は逸らしたまま。 夢主は数秒考えて、それから少しだけ笑う。
夢主
その瞬間、思考が一瞬止まる。
たっつん
否定はする。 でも、反応が遅れる。
たっつん
言い切る。 けれど、耳の奥がじわっと熱くなる。 顔に出ていないか気になって、余計に視線を合わせられない。 夢主はその様子を見て、小さく息を吐く。
夢主
ぽつりと落ちる言葉。
たっつん
思わず聞き返す。
夢主
その一言が、思っていたよりも真っ直ぐに刺さる。 たっつんは言葉を失う。 気にしている。 それはもう否定出来ない。 けれど、それをどう扱えばいいのか分からない。
たっつん
気づけば口が動いてる。
たっつん
言った瞬間、頭が追いつく。
たっつん
急に現実に引き戻されて、一気に恥ずかしさが込み上げる。 視線を逸らす。 首の後ろに手をやって、落ち着かないまま指先が動く。
たっつん
取り繕う様に付け足す。 でも、それも余計で。
たっつん
小さく言う。 その時、夢主が一歩近づく。 距離が急に縮まる。 さっき教室で見た距離と同じくらい。 でも、感じ方がまるで違う。 近い。 息がかかりそうな距離。
夢主
静かに聞かれる。 距離が合う。 逃げられない。 心臓の音が少しだけ速くなる。 言葉が直ぐに出てこない。 でも、ここで逸らしたくないと思う。
たっつん
短く答える。 それだけで精一杯。 夢主が少しだけ笑う。
夢主
たっつん
まだ少し顔は見れない。 でも、足は止まったまま。 少しだけ、自分から距離を詰める。 ほんの僅かに。 さっきまで気にしていた距離を、自分で埋める。
たっつん
小さく付け足す。 照れ隠しのつもりだった。 けれど、その言葉はちゃんと本音で。 その距離も、その空気も。 もう前と同じには戻らないと、何となく分かっていた。