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教室に帰ってからも相変わらずクラスメイトの視線は痛かったけれど、教室に入るまで自然と繋がれたままだった蜂楽くんの手に安心感を覚えて、なんとか午後の授業も乗り切ることができた。
蜂楽くんの席は私の斜め前方、少し離れたところにあるから授業中はこっそり後ろ姿を盗み見たりしていた。眠そうにしてるなぁとか、ちゃんとノート取ってるのかなぁとか、上の空で彼のことばかり考えてしまう。
お昼休みに初めて見た彼のプレーのすごさや、私の話を瞳を輝かせながら聞いてくれたのが嬉しくて、何度も何度も繰り返し思い出していた。
時間にすればたった数十分だったけれど、それまでの憂鬱な気分なんて全部吹っ飛んでしまうほど、私にとっては夢のような時間だった。
今日のレッスンも、明日の学校も頑張れそう。
単純過ぎると笑われてしまうかもしれないけど、確かに私の活力になっていた。
────はずだったのに。
次の日
すれ違う先生に挨拶しつつ、いつものように下駄箱へ。
自分の名前が記された下駄箱の扉を開けて、思わず目を見開いた。
?
あなた
後ろから声が聞こえて思わず後ろ手で扉を閉め振り返る。
蜂楽廻
そこには少し息を切らした蜂楽くん。いつもと同じ、ボールと一緒だ。
あなた
蜂楽廻
あなた
そう言って蜂楽くんが職員室へ向かうのを見送って、改めて下駄箱と向き合う。
あなた
下駄箱の中には「キモい」、「○ね」、その他罵詈雑言の数々が書かれた紙とゴミのようなものが詰め込まれていた。
ドラマで見たことあるやつだ…なんて呑気なことを考える余裕があるくらいには冷静な自分に内心驚いていた。ゴミをまとめて掴み、近くに置いてあったゴミ箱の中に突っ込む。
そして、何事も無かったかのように上履きに履き替えて教室へ向かった。
恐る恐る教室に入ると、恐らく主犯であろう例のクラスメイトの女の子達が井戸端会議よろしく教室の後方に集まっていた。
私のぎこちない表情を見て察したのか、クスクス笑いながら何やら話している。
クラスメイト
なにも日本を出て行きたくて頑張ってるんじゃないのに。と、心の中で小さく反論しつつ席に着く。
すると、職員室から戻ってきた蜂楽くんが教室に入って来る。
蜂楽廻
そして、私の名前を呼び嬉しそうな表情でこちらへ向かって来た。
あなた
蜂楽廻
そういえば先週の授業の時にそんなこと言ってたような…やけに嬉しそうなのはそのせいだったんだ。
あなた
蜂楽廻
あれ、って…昼休みにやったあれのことかな。
あなた
蜂楽廻
また、蜂楽くんが瞳を輝かせながらそんなことを言うから、少し体温が上がるのを感じて。照れくさくて、でも嬉しくて、私は笑って頷く。
あなた
そんな言葉を交わしているとあっという間にホームルームの時間。さっきまで噂話を楽しんでいた女の子たちも席に着いて、いつも通り授業が始まった。
そして4限目の授業。体育の時間。
昼休み前でお腹が空くけど、そんなことよりも、また蜂楽くんのサッカーが見られると思うと楽しみで仕方がなかった。
思わずにやけてしまいそうになりながらジャージに着替える。…つもりだったのに。
あなた
確かに鞄に入れておいたはずのジャージと体操着がない。
嫌な予感がした。
例のクラスメイトたちがヒソヒソ笑う声が聞こえた。やっぱりだ。
教室をキョロキョロと見渡す。すると、さらに嫌な予感は的中した。
教室の隅、ゴミ箱の中に無造作に突っ込まれた私のジャージ。
最悪だ…
ゴミ箱の中からそれを取り出すと、びしょびしょに濡らされてしまっていた。
仕方ない、先生には忘れたって言おう…
適当なビニール袋に濡れたジャージを入れて隠すように鞄の中へ。その様子を眺めながら、クラスメイト達はまだ笑っていた。
体育の先生に体操着を忘れてしまったことを言いに行くと、制服では見学させられないとのことで、私は一人教室で自習することになってしまった。
窓の外からはグラウンドが見える。楽しそうに走り回る蜂楽くんが見えて、机に頬杖をつきながらそれをぼんやり眺めていた。
もっと近くで見たかったな…
ゴールキーパーがいて、チームメイトがいて、ちゃんとしたサッカーの試合をする彼は昨日よりも輝いて見えた。
嫌がらせを受けたことよりも、そんな彼を間近で見ることが出来ないことの方がずっとずっとショックで悲しかった。
男子の試合が終わると今度は女子の試合が始まった。そろそろ自習に戻らないと…と渋々ペンを執る。出された課題を淡々とこなしていく。
蜂楽廻
あなた
さっきまでグラウンドでボールを蹴っていたはずの彼の声に驚いて振り返る。私の隣の席に腰掛けて、少し上目遣いで心配そうに私を見つめる。
蜂楽廻
あなた
蜂楽廻
あなた
あなた
…と、思わずぼそりと呟いてしまった。
蜂楽廻
あなた
蜂楽廻
あなた
蜂楽廻
私の的はずれだったらしい質問に地団駄を踏む彼はなんだか子供みたいだ。私がそれでもキョトンとしていると、
蜂楽廻
あなた
頭上にハテナをいくつも浮かべる私に彼はきらきらした笑顔で頷いて見せた。
蜂楽廻
自信満々にそう言う彼の言葉を、私は疑うことは無かった。蜂楽くんならプロだって夢じゃない。サッカーのことなんて何も知らない私ですらそう思わされる程、彼の実力は明らかだった。
あなた
蜂楽廻
彼の言葉に頷くと同時に授業終了のチャイムが鳴り響く。
あなた
蜂楽廻
どこまでもマイペースで呑気な彼に、思わず笑ってしまった。
蜂楽廻
どこか安心した様子の彼に、私は再び疑問符を浮かべる。昼休みになり、教室の外は先程と打って変わって騒がしくなっていく。
蜂楽廻
あなた
彼は私の手を握り、ついでに二人の鞄も手に取り教室を飛び出した。行き先は、なんとなく分かる。
あなた
蜂楽廻
授業を終えて教室に戻ってくるクラスメイトとすれ違い、グラウンドの方へと走って行く。思えば出会ってすぐの頃から彼は強引で。
それなのに、なんだかワクワクするのだ。まだ私が知らない楽しいことを一緒に見つけてくれるんじゃないかって。
私の手を引く彼の背中を見つめ、密かに笑みが溢れた。