TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

また同じ夢を見た。

ある意味クラスに欠かせない存在だった僕の学生時代の夢。

僕はみんなのおもちゃだった。

クラスの片隅に一人座る僕に

誰かがゲーム感覚で二言三言話しかけ、僕の受け答えを笑いながら仲間のところに戻っていく。

ノートを机に入れたまま教室を離れたら

悪趣味なアートがいつのまにか追加されて雑に引き出しに戻されている。

定期的に始まるヒーローごっこ。

悪役はいつも僕がやらされる。

陽太

…っ!!!

陽太

陽太

はあ、はあ…

何度見たかわからない夢。

それでも毎回冷や汗が寝起きの顔を不快なほど濡らす。

悪ふざけで階段から突き落とされ、全身打撲で病院に通う羽目になってから

学校に行こうと制服に着替えるだけで吐き気がするようになり

そのまま僕は引きこもってしまった。

母さん

母さん

…陽太、おはよう

母さん

朝ごはんいる?

おずおずとドアをノックして母さんが言う。

陽太

陽太

いらない

母さん

…そう…

パタパタとスリッパを履いた足音が遠ざかっていった。

陽太

…悪夢見て食欲どころじゃないな

陽太

ゲームして忘れよう…

画面の中の世界はいい。

現実のどうしようもない自分を忘れさせてくれる。

パーティー仲間

ナイスアシスト!

パーティー仲間

これで勝つる!

陽太

お互い様だよ!

陽太

さあ、もう一息!

ドンドンドン

陽太

(…なんだよ、うるさいなあ…)

兄さん

おい、いつまでこんなことしてるつもりなんだよ!

兄さん

いい加減にしろ!

兄さん

飯の時くらい出てこいよ!

陽太

要らないって言ってるだろ!

陽太

食欲ないんだよ!

パーティー仲間

おいどうしたんだよ!

パーティー仲間

レア魔物逃げちまうぞ!

陽太

ごめんごめん家族がうるさくて…

兄さん

うるさいってなんだよ!

兄さん

ゲームなんかやめて出てこい!

陽太

兄さんにはわからないさ!

陽太

かっこよくて勉強も運動もできて

陽太

いつも友達に囲まれて

陽太

彼女だっている!

陽太

そんな兄さんに僕の気持ちなんてわかるもんか!

兄さん

兄さん

あのな、確かにお前は悲惨な目にあったかもしれない

兄さん

でもいつまでもこのままでいいと思ってんのか?

陽太

兄さん

こんなこと言いたくないけど

兄さん

お前が今でも嫌ってるいじめグループの連中も

兄さん

傍観者たちも今は心を入れ替えて働いてるんだ

兄さん

いつまでも昔のことを引きずってどうする

気がついたら手元にあったペットボトルを部屋のドアに投げつけていた。

兄さん

っ…!!

兄さん

いい加減にしないか!!!

陽太

ああ、そうだろうねえ!!

陽太

僕をいじめてストレス解消してて

陽太

さぞやみんなは受験勉強に集中出来たろうねえ!

陽太

顔も頭脳もなにもない僕はこうやって引きこもるしかないんだ!!

兄さん

過去に囚われるなっつってんだよ!!

兄さん

物に当たってキレてる暇があったらバイトくらいしろ!!!

兄さん

兄さん

ああもういいよ

兄さん

ジジイになるまで引きこもってろ!!!

ドンドン、と威嚇するように大きな音を立てて階段を降りていって…

兄さん

母さん!!?

兄さん

どうしたんだようずくまって!!!

陽太

…!!?

母さんは救急車で運ばれていった。

陽太

全く、人騒がせな…

陽太

ただのぎっくり腰だって?

兄さん

そんな言い草はないだろう

兄さん

一週間は安静が必要らしい

母さん

ごめんよ月斗、陽太…

兄さん

いいっていいって

兄さん

アイツの浮気で離婚してから無理しすぎだったんだよ

兄さん

…ということで陽太

陽太

…なんだよ

兄さん

当分家事はお前がするように

陽太

…はあ!?

兄さん

俺も手伝えることは手伝う

兄さん

仕事してない心身ともに健康なお前が家事をするのは当たり前だろうが

陽太

兄さん

なんだよその目は

兄さん

兄さん

…さっきは言い過ぎた、悪い

兄さん

とりあえず一週間、よろしくな

渋々僕はうなずいた。

洗濯

兄さん

なんだこのシワシワに乾いた洗濯物は…

兄さん

干す前にシワを伸ばさないからこうなる

母さん

月斗、言い過ぎだよ

母さん

今度からちゃんとしようね

料理

兄さん

…また焼きそばか?

陽太

…文句あるなら食うな

兄さん

…悪かったよ

母さん

初心者だから一品料理になっちゃうよね

母さん

お浸しとか副菜はスーパーで買おうか

兄さん

…そろそろ冷蔵庫が空になるな

兄さん

陽太、買い物頼む

陽太

陽太

嫌だ

兄さん

陽太…

兄さん

これがいい機会なんじゃないのか?

兄さん

俺も付いて行くからさ

兄さん

近所のスーパーまででいい!

陽太

僕だってわかってる。

このまま母さんに依存した生活をしてはいけないと。

…しかも僕は

母さんが倒れたあの時、母さんの心配よりも

…今後の家事の心配をしてしまったのだ。

陽太

(我ながら自分がこんなにクズだったなんてな…)

陽太

(このままじゃいつかダメになる)

陽太

(変わらなきゃいけないのに…)

陽太

(…)

陽太

わかった、行く

歩いて10分のスーパーに向かう。

陽太

(…ビクビク)

???

あれ、あそこにいるの陽太くん?

???

…中3から五年くらい引きこもってた?

???

まだ生きてたんだ

周りの人達が僕のことを悪くいってる気がしてならない。

視線が怖い。

陽太

僕、やっぱ帰る…

兄さん

大丈夫だって…

兄さん

ほら、着いたぞ

兄さん

カレーだったら人参と玉ねぎと…

兄さん

惣菜も買わなきゃな

兄さん

あとは…

兄さん

兄さん

よし、こんなもんか

兄さん

あとは会計するだけ…

ピリリリリ、と兄さんの携帯が鳴った。

兄さん

会社からだ

兄さん

はい、もしもし…

兄さん

兄さん

わかりました、向かいます

兄さん

…悪い陽太

兄さん

仕事で会社に行かなければいけない

兄さん

一人で帰れるか?

陽太

ええ…?

兄さん

緊急の仕事なんだよ

兄さん

頼んだぞ!

兄さんは僕をおいて行ってしまった。

陽太

そりゃないよ…

陽太

陽太

会計だけ、会計だけ…

陽太

後は帰ればいいんだから…

行列に並び、店員にカゴを渡す。

店員

お会計、〇〇円になりま…

陽太

…!!!

店員

…陽太、お前…

その店員は…

僕をいじめていた主犯だった。

堪らなくなり、スーパーの外へと逃げて行く。

店員

待ってくれよ!

陽太

ぜえ、はあ…

5年間引きこもっていたせいもあって体が鈍りきっており、すぐにへたり込んでしまった。

店員

待ってくれよ陽太…

陽太

話しかけるな!

陽太

お前のせいで僕は…

こいつと顔を合わせたくない、今すぐここから逃げ出したい。

這いつくばって逃げようとする。

店員

5年前は悪かった!

陽太

陽太

遅いよ

陽太

もう顔を見たくない

店員

店員

少し待っててくれ

主犯の子は近くの自販機でジュースを二人分買ってきた。

店員

ほら、お前の分ここに置いとくから…

そう言ってベンチに腰掛け、自分のジュースの封を開ける。

陽太

僕は抗議も込めて、ベンチの端に顔を見なくてもいいように横向きに座った。

店員

…高校に上がってから俺の親父が倒れてな

店員

医者を目指すはずが中退してスーパーでバイトしなきゃいけなくなっちまった

店員

…世間って冷たいよな

店員

高校中退ってだけで偏見で見て、遊んでるって決めつける奴もいる

店員

…自分が差別される側になって初めて自分のやってきたことに気づいた

店員

笑えるだろ?

陽太

店員

…とりあえず会計して帰ろうぜ

店員

俺もこれ以上サボってたら店長に怒られちまう

陽太

…うん

店員

店長に適当な理由付けて早退させてもらったから

店員

家まで送ってやるよ

陽太

数歩離れてそいつが着いてくる。

店員

…陽太、一つだけ聞いてほしい

陽太

…何?

店員

仕事してきて気づいたんだけどな…

店員

周囲は過去は見えてないってことだ

陽太

…?

店員

酷い言い方になるけれど…

店員

「過去に何があろうが知ったこっちゃない」ってことだ

店員

大事なのは今ってこと

陽太

…自分の正当化?

店員

いや、そうじゃない

店員

…陽太の気が済まないなら一生許されなくてもいい

店員

そうじゃなくって

店員

自分の過去、スペックを言い訳にしてても何も始まらないってことだ

陽太

…そんなこと言ったって

陽太

忘れられるわけないよ

店員

うーん…

店員

忘れるのが無理だとしたら…

店員

「一旦置いておく」

店員

それで変えていけばいいんじゃないか?

店員

俺んとこのスーパー、まだバイト募集してたから

店員

あ、俺と顔合わせなくて済む倉庫作業な

店員

もしそれでいいならいつか来て欲しい

それだけ行ってそいつは帰って行った。

陽太

過去に囚われ、スペックを呪い努力せず、5年前のまま止まっていたのは僕だけだった。

それがアイツに言われて初めて分かったのは悔しいけれど…

近所の人

やあ陽太くん、買い物かい?

陽太

ひあっ!?

陽太

陽太

こ、ここ…

陽太

こんに…ちは…

近所の人

うん、少し顔色が悪いけれど元気そうでよかった

近所の人

心配してたんだよ?

陽太

あ…

陽太

ありがとう…ございます…

近所の人

忙しいだろうからこれで失礼するね

近所の人

陽太

(…意外とあっさり返してくれた…)

陽太

(壁を作っていたのは僕だったんだな)

陽太

陽太

母さんが治っても

陽太

ゴミ出しくらいなら始めてみよう…かな

過去に囚われず、一旦置いておいて今日を生きる。

それを繰り返して…

そして大人になってゆく。

この作品はいかがでしたか?

590

コメント

16

ユーザー

誰にでも起こり得そうなことですが「一旦置いておく」そして人は成長するんですね! とても素敵なお話でした。 心が温まりました。ありがとうございます。

ユーザー

あかいとまとさんのビブリオテラーからやって来ました! 人が少しずつ変わる姿いいですね!

ユーザー

あかいとまとさん 彼もきっと立ち直れますよね…!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚