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インドア派な俺でも時には外に繰り出したくなる時がある。 いくらなんでもずっと家にいるのは息苦しいというもの。
仕事に必要な物をバッグに入れて家を出る。 久しぶりにカフェにでも、と。
ジョングクのクローゼットから拝借した黒いバケットハットを被って。 臭くないか確認したら、ジョングク愛用のシャンプーかトリートメントかの匂いで安心した。
カフェと言っても家から歩いて10分圏内。 俺と同じようにパソコンを広げて仕事なのか勉強なのか、まぁ兎に角同じ様な人が店内には既に何人もいる。
ブラックコーヒーのLサイズとプレーンドーナツが届いた後でパソコンを開く イヤホンをノイズキャンセリングに設定すれば好きな音楽以外の音が消えて集中力が上がる。
ドーナツをひと齧りした後で新しい記事の執筆に取りかかった。
女
記事がもう少しで完成という所まで進んだ時、極々小さな声でそう聞こえた。 極々小さな声だったのはノイズキャンセリングのせい。
女
ホソク
女
何か俺が落としたとか、俺のイヤホンの音漏れがうるさいとか、そんな事かと思った。
女
女
全く予想してなかった展開に目が点とはこの事だ。
真っ黒なバケットハット被って、化粧もしてない、Tシャツにデニム姿でただ黙々とキーボードに指を走らせていただけの男に。 連絡先を聞くとは。
多少驚いたがどうしたものかと考える。 別に減るもんじゃない、とは思うけれど
ホソク
嘘をついた。
彼女を作る事より今はあの家でくだらない時間を過ごす方が有意義な気がするし、俺に必要な事だ。
女
記事が完成する頃には斜め前の席は空席になっていた。 俺の飲んでいたコーヒーも残り僅かで、ドーナツが乗っていた皿は空だ。
イヤホンを外すと急に世界の音が全て鮮明に聞こえ出す。 誰かがカップを置く音も、キーボードを叩く音も。
ジミン
事情を知る唐突な声かけも。
見上げると俺と同じ黒いバケットハットを、俺より目深に被って隣の椅子に腰を下ろした人。 長い脚を軽く組んで。
ホソク
ジミン
見てたところで何も困る物はないのだけれど、いざ指摘されると何だか気まずい。
パソコンを閉じてバッグに入れるという行為で気まずさを紛らわせてみる。
ジミン
ジミン
"それなりに"ね。
ホソク
ストレートではないけれど"それなり"という言葉は些か棘のある単語ではないだろうか。 そこにジミンの真意が見え隠れしてる気がした。
ジミン
ジミン
ジミン
その言葉選びにもその口調にもジミンの妙々たる狡さがあって、引くどころかゾクッと感じた。 良い意味での身震いの様な。
ホソク
そうとだけ返してコーヒーを飲み干す。
ホソク
振り回されて落とされない様にジミンには少し自信過剰に振る舞わないと。 そのつもりで聞いた言葉なのにバケットハットを少し上にずらしたジミンが肯定して
ジミン
ホソク
ホソク
ジミン
ジミンの桃色の舌が厚い唇を一瞬すくう。
ジミン
ジミン
ホソク
ジミン
そう言われてしまっては仕方がない。 どんな理由であれジミンがここまで来たのは紛れもない事実。
それに結局コーヒーとスコーンを買ってもらってしまっては、尚更家に上げない理由もなくなるというもの。 しかもコーヒーは2個。 ジミンと俺の分。
家主のいない家に他人を連れ込むのは道理的ではないけれど、ジミンはそういうのじゃないからセーフだろう。 ジョングクが良く知る人物でもあるし。
ソファにジミンを先に座らせて自室にバッグを置いて、バケットハットをジョングクのクローゼットに戻す。
ジミン
ホソク
その筈だったが、急に背後から声がして戻しかけたバケットハットを落としてしまった。
ジミン
ソファに座ってたはずのジミンが笑いながらそれを拾って、バケットハットがあった定位置に戻した。 心臓がバクバクと騒がしいのを呼吸で落ち着かせる。
ホソク
多少落ち着いたところで、今さっき知った事を息を吐き出しながら言った。
ジミン
ホソク
ジミン
ホソク
ホソク
人差し指を口元に当てて見せる。 今ジョングクがいる訳でもないのに、こうするのはおかしいかもしれないけど
眉間を寄せて言い寄ったのに、ジミンは自分のバケットハットを脱いで少し乱暴に赤い髪を掻き乱すと
ジミン
と、俺にそれを差し出した。 "わざわざ?"なんて頭の中に浮かんだ時にはジミンの瞳がクローゼットの灯りを反射して光って
ジミン
聞いたくせに俺から答えを聞く前に、さっさとその"何か"を自分から奪いに来た。 俺の唇がそれだったらしい。
ホソク
ジミンの唇は予想と違って少し苦い気がしたのは、さっきまで飲んでたコーヒーのせいだろうか。