悪役令嬢イギリスの華麗な危機回避

私の名はイングランド

普通の男子高校生です

運動は苦手ですが、せっせと走って家を目指さなくてはならない理由があるのです

あまりに急いでいたからでしょう、周りを見ることをすっかり忘れていました

キキィィィーーーッッ！！！！

タイヤとアスファルトが擦れる耳障りな音に気がついた時には、目の前に大きなトラックが迫ってきていました

ドンッッッ

あぁ、なんてこと

こんなしょうもないことで命を落としてしまうなんて

家族やお世話になった方々に、お礼一つ伝えられていないというのに

確実に私の不注意が原因です

あぁ…まだやりたいことはたくさんありましたのに…

イングランドは後悔しながら、ゆっくりその意識は落ちていった

奥様…？おめでとう…？

もしかして私、助かったのでしょうか

体が痛くない…

あれ、でも、動きもしない？

女の子…？？？

もしこれが走馬灯だとしても、私は男性のはずではありませんか…？

なになになに？誰ですか？

知らない方…それにこんなに簡単に私を抱き上げるなんて！？

これでも男子高校生…

ま、まさか、四肢を失った…？

で、でも、この“奥様”と呼ばれている女性は知らない方です…

だ、誰のことですか…？！？！

もしかして、私…

赤ん坊に！？

なんだか2人の間でどんどん話が進んでおりますが…

私は一体、どうなってしまっているのです？！

混乱と本能で泣き続ける、イングランド改めイギリスを慰めながら、母親らしき女性は優しく微笑んでいる

これはいわゆる、転生というものであった

イングランドはトラックに轢かれて死んでしまったが

イギリスとして、新たに生を受けたのだ

そんなこんなでこの世に産まれ、早5年

イングランドもとい、わたくしイギリスは貴族の娘でした

綺麗な部屋でメイドに世話をされ、

母と父に愛を注がれ、

前世以上の日々を、ありがたく送らせていただいております

5年も過ごせば、なんとかお嬢様も板につくというものです

性別が異なっているので、違和感は拭えませんが…

しかし、もう乳飲子ですらないのですから、それなりに楽になりました

メイドに持って来させた全身鏡の前に立ち、己の姿を確認する

家門を象徴するような赤くふんわりとしたドレスは、イギリスの幼い顔にもよく似合っていた

私の名前、この容姿…

私が前世で大大大好きだったゲームのキャラクターにそっくり…

というか、全く同じ…！！！

イギリスは部屋にいたメイドに全員外へ出てもらい、改めて自分の姿を眺め回す

まだまだ幼いが、かわいらしく整った顔に、家門を象徴する赤い薔薇の髪飾り、そして薔薇の意匠が凝らされた赤いドレス

まさしく、この世界は私が好きだった乙女ゲーム…

「星の魔法ノート学園日記」の世界！

このゲームの続きがしたくって急いで帰宅していましたのに、まさか転生先がゲームの中だなんて…

それに私は、主人公をいじめる悪役令嬢イギリス・ランカスターに他ならない！

処刑されてしまう！？