───よく、風俗で女の子に 説教するおじさんがいる
それは、まさしく俺の事だ
もちろん、女の子が傷ついて 事も分かっている ダサい行為をしている事も 分かっている
なら、なぜそんな事をするのか?
それには、ちゃんとした 理由がある
俺は30歳のサラリーマンだ 普段は事務をしている…が
仕事が1年以上続いた事がなく
22歳で社会に出てから10回以上 は転職している
原因は人間関係だ
どうも俺は人間関係の 築き方が人より下手らしい
そのため、職場で煙たがれ 居場所を無くして
逃げるように転職していく人生を 送っている
どうやら人に気を使い 過ぎてしまう性格のようだ 同じ空間に人間がいるだけで 疲れる
おまけに怒られるのが怖い だから仕事で分からない事も聞けない 仕事も早く覚えられない
同僚の事務の女性 からは「仕事が遅い」と呆れられ
営業の男からは「何で事務くらい 出来ないのか」とバカにされる
同級生が出世していき 結婚し子が生まれ 月収30万貰えるのに対し
俺は月収18万で一日を生きる のでさえ精一杯である もちろん妻子もいない
望んでいた大人とはかけ離れた未来だ
しかし、それでも雇って貰えるだけ ありがたいと思わなければ ならない
会社では仕事が出来ないため 発言権が無く、立場が低い
立場が低ければ、自由に仕事が出来ない 嫌な仕事を押し付けられる
仕事が増えるとミスも増える そして、怒られる 怒られれば萎縮してミスする そして、怒られる
そのループの繰り返しで、嫌になる
ストレスが溜まる
ならば、このストレスは どこに向ける?
後輩か?いや、それでは パワハラになる
恋人か?いや、それも モワハラになる そもそも彼女もいない
それとも…ゲームや釣りをして 解消するか
…そんなものでは全然ダメだ!
人間関係で受けたストレスは 人間関係で解消しないと 気が済まない
歌舞伎を歩いていると…
…いいものを見つけた
「自分より立場の低い女」だ
客と嬢の関係上あいつらは 絶対反撃してこない なぜならお金が発生しているから
ならば反撃しない 女に「性欲」と「ストレス」を ぶつけてやればいい
「説教」という形で 劣等感を解消すれば良い
俺は良い事をしている
なぜなら、パワハラもしないし モワハラもしないし 嬢にだってお金を渡してる
…こうやって 自分を正当化する大義名分を 並べたてれば、俺の心も 痛まないはずだった
苦しい…ストレスを発散してる つもりなのに、嬢が泣くと 俺まで辛い気持ちになってくる
人を傷つけてまで生きらえる 人生に意味があるのか
悩むと眠れなくなってきた すると、嬢から眠れる「薬」を貰った
一生、怒られ煙たがれ続ける 人生に意味があるのか
また眠れない 「薬」の量が増えていく
ずっと夢の中にいたい 目覚めたら、辛い現実が 待っている
もう…ゆっくり寝たい ………おやすみ
今週のお題「目覚めたら」
第一部完
───目覚めたら16時半だった
メイクをして今から出勤する 普段より濃いめのメイクだ
私は、夜職をしている いわゆる風俗嬢だ
20時ごろ出勤して 1日5時間ほど働く
それだけで3〜4万は稼げる
なぜ、夜職を選んだかと言うと 昼間に街を歩けないからだ
街ゆく人みんなが私の 顔を笑っているような気がする
ホントはそんな事ないんだろうけど どうしても人目が気になる
「可愛い」「可愛くない」「可愛い」 「可愛くない」「可愛くない」 「可愛くない」
街に出るだけで評価をされている ような気がする
だから私は夜の闇に紛れて 街を歩く
巷で囁かれてる 「人を見た目で判断するのはやめよう」 は恵まれなかった人への 慰めにしか聞こえない
恵まれてる人には 恵まれなかった人の気持ちなんか 分からない
風俗業は男はヤりたい 女の身体にしか興味ないと 思ったから選んだ
そもそも受付で私を選んだ時点で 私は「まる」を貰っている つまり「可愛い」
あとは出すものだけ出せば終わり 男なんてそんなもの 明日にはすっきりした顔で 働いている
風俗に来るお客さんは性欲の 他に「癒し」を 求めてくる人が多い
今日のお客さんは目の下のクマが凄い 寝れていないのだろうか
喋り方にも覇気がない 見るからに気の弱そうな人だ
上司から仕事を押し付けられても 断れなくて、風俗で 不満を解消しようと思ったのか
まるで、母親に甘えるように 私を求めてきた
この人も限界なんだろうな、と思う
女の横社会と違って男の縦社会も つらいと思う
頼れる人が誰もいない 弱さを見せられない 強くなきゃいけない
だから全部ひとりで抱え込んでしまう ストレスも鬱憤も溜まっていく
もちろん性欲も
男の人のその全てを受け止めるのが 私の仕事
この男が弱さを見せられるのは ここしか無いのだと思うと この仕事にもやりがいが見えてくる
本能のままに腰だけを 振っていて欲しい
このまま私だけを求めていて欲しい
少しの間だけでいいから 現実から離れさせてあげたい
…事が終わった
しかし男の顔は浮かない
説教が始まった
そうか………この人も私と 同じなんだと思った
私と同じで行為だけじゃ 拭えないような 大きな「劣等感」を抱えている
だから、私の事を見下す事で 劣等感を埋めようと している
でも、それは私だって同じ
私の裸を見れば男はみんな 本能のままに腰を振る
私の行為によって男の 行動を変えられる 自分の思い通りに出来る
そうやって男を支配する事で 劣等感を埋めている 優越感で満たされる
男に抱かれているのでない 男を抱いているのだ
ホントはもっと男を支配したい
私無しじゃ生きられない身体に してあげたい
眠れないの?じゃあ 眠れる「薬」をあげる
私(薬)無しじゃ生きられない世界に ……いってらっしゃい
今週のお題「目覚めたら」
第二部完
コメント
7件
男と風俗嬢の、自分が身を置いている居場所での心境が細かく綴られていて、ドラマの始まりみたいにワクワクします!
お客さんと女の子の二人の視点から書いてみました。 男(お客)は女の子を支配したいと思っていたのに女の子にいつの間にか支配されていたんですね。 この作品には意外とお笑いの技術が使われているんですよ。