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三日月 乃愛
無愛想に返事をした彼とは対照的に、探偵風の男は嬉しそうに隣に座った。トレイに乗った白いカップの中でコーヒーが白い息を吐いて揺れている。
???
そう笑う男の言葉に適当に相槌をうってから辺りを見渡した。窓際の席もフロアの席もそのほとんどが人で溢れていた。中には、4人席で隣の席に荷物を置き、下品な笑い声を響かせながらしょうもない話をする奴らもいた。そんな厚顔無恥な奴らの話は一生理解できない。ああいう奴らはきっとしょうもない結婚をして、何となくで子供を産んで無気力な人生を送るんだろう。……独身である彼にとっては結婚できるだけで羨ましい限りだが。
三日月 乃愛
心の空白を埋めるように紅茶を飲み込んだ。水以外の飲み物を飲んだのはいつぶりだったか。鼻の奥の熱さを隠すようにシュガートーストを一口齧る。砂糖のジャリッとした音と舌が痛くなるほど甘い味がたまらなかった。麻薬的な甘さが今の彼にとっては心地よい。
羽霧 実
普通、初対面の人物にましてやクマがある不健康そうなヒョロ男相手にこんなに話を広げようとはしないだろう。そういう奴もいるのかもしれないが、こういう変人を見たのは初めてだったため対応の最適解が分からない。とりあえず名乗るかと紅茶を一口飲んでから呟く。
三日月 乃愛
羽霧 実
三日月 乃愛
羽霧 実
満面の笑みで言った男が馬鹿らしかったのもあるが、今まで選択肢に入れていた「先輩」という呼び方でないことに笑いが込み上げてきて、クスッと笑う。不意にでた笑いだった。
三日月 乃愛
久しぶりの『人間』との会話は楽しかった。無機質な話し方じゃないし、煽らないし、何よりこの自分を肯定してくれたようで嬉しい。そんな男を観察するのは気が引けたが、もしかしたら会社からの忠誠心を試す刺客では?と最悪の想像が頭を過ったため、違和感のない程度に観察した。
羽霧 実
羽霧 実
三日月 乃愛
男は話している間、足を品よく揃えて笑うときも控えめに笑っていたため、どこかいいとこの育ちなんだろうと悟る。どうしてこんなところで働いているのだろうか。金には困らないだろうに。……そんなに他人の心配ができるほど彼自身の貯金残高と睡眠時間には余裕がないのが事実だったが。
そんなことを言ったのは男がサンドイッチを食べ終えた頃、トレイを持ちながら彼は微笑んだ。
三日月 乃愛
控えめに手を振っておいた。もしも友達がいたら、こんな感じだったのだろうかと思わずにはいられなかった。
………そんな束の間の休息が終わったのは、場に合わない腑抜けたチャイム音が鳴り響いた頃のことだ。食堂の入り口付近に確かスピーカーがあった。そこから聞こえているのだろう。
『こちら監視室A、監視員の三日月さん!シュガートーストを食べ終えた頃だよね?食べ終わったなら1人で監視するのは寂しいので来てくださーい!食べてる途中なら少女漫画みたいにパン咥えてイケメンとぶつかってきな!』
食堂にいる全ての人の視線が自分に集まるのを感じた。悪い妄想だと自分に言い聞かせて冷や汗を拭う。ジュリエだというのはすぐに分かった。正直、気は進まなかったが上司の機嫌をとるのも部下の務めだという言葉に則り、動こうと思う。それに彼を救ってくれた張本人の願いだ。断らずして何があるのだろうか。
三日月 乃愛
麻薬のような甘味を唾液と一緒に飲み込んだ。食堂の喧騒に掻き消された独り言を吐き出して監視員は立ち上がり、再び地獄へ一歩を踏み出していった。