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街中に広がるクリスマスムード。

イルミネーションにツリー。

その光景を見て、俺は

もう一年か...

と呟く。

去年のクリスマス、弟の橙は俺の目の前から消えた。

お兄ちゃん!

明日はクリスマスだねえ!

そうだなぁ

サンタさんも来るかもな!

そう言って目を輝かせていた橙。

なかなか寝てくれなくて、プレゼントを置くのにも苦労したっけ。

気づけば、次の日になっていたことを思い出す。

お兄ちゃん!

プレゼント、あった!

しかもね、俺のほしいって言ってたタブレット!

よかったなあ!

それさえ持ってれば、安心だな!

俺たちの親は、数年前に亡くなった。

 それから俺と橙は二人暮らしをしている。

俺はバイトで夜遅くなってしまうことが多く、橙を1人で待たせてしまうことも多かった。

心配だったので、何か連絡できるものを、と思い、スマホも考えたけど、まだいらないような気がして、小6になる前のクリスマスにタブレットをプレゼントすることにした。

一緒に設定するか!

うん!

目をキラキラさせながら新しいタブレットを大切に抱きしめる橙。

かわいいなあ...

ん?お兄ちゃん、なんか言った?

ん、ああ、何も言ってないよ

そんなことより、大切にしないと、サンタさんがまた持って帰っちゃうからな!

うん!大切にする!

ねえ、今日、パーティーなんでしょ?

そうだよ!

でもお兄ちゃん、夕方までお仕事入っちゃってるんだ

だから良い子で待ってられるか?

うん!

このタブレットがあれば怖くないよ!

よし!

じゃあお仕事行ってきます!

夜、ちゃんと帰ってくるからな!

なんかあったらそれで連絡してね

わかった!

行ってらっしゃい!

バイトを終えた俺は、橙に一言「今から帰る」とだけ送り、帰路に着いた。

帰る途中でケーキ屋を発見したので、奮発してケーキを買い、急ぎ足で帰った。

ようやくついた家。

玄関のドアを開け、

ただいま!

と言ったが返事はない。 いつもなら、

おかえり!

と迎えに来るはずなのに。

橙?

いる?

橙?

橙?

いないか...

家中探したが、橙はいなかった。

さっき送ったLINEを見ても、既読すらついていなかった。

何を送っても既読にならず、俺はただただ帰りを待った。

せっかく買ったケーキも食べる気にはならず、ただずっと、待つことしかできなかった。

でも、いくら待っても橙が帰ってくることはなかった。

次の日には警察に捜索願を出したが、年が明けても、橙は見つからない。

俺は後悔した。

あの時、バイトに行かなければ。

あの時、一緒にいれば。

橙ともっと遊んでやればよかった。

でも、何度後悔しても、過去の自分を憎んでも橙が帰ってくることはなかった。

もう一年か...

気づけば、一年が経とうとしていた。

通話終了

通話
00:00

イルミネーションの光に照らされながら、夜道を一人歩く。

誰だろう、と思いながら電話に出る。

...もしもし

警察官

私、もみの木交番の森と申します

警察官

橙さんのお兄さんで間違いないですか

そう...ですが...

警察官

橙さんだと思われる方をお預かりしております

...え?

本当に...橙なんですか?

警察官

おそらく、そうだと思います

警察官

今、もみの木交番でお預かりしております

すぐ行きます!

その言葉と共に電話を切り、俺は走り出した。

早く橙に会いたい。その想いだけで走り続けた。

はあ...はあ...

ようやくついた交番。

息を整えながらドアに手をかける。

橙...!

そこには、少しだけ大人になった橙がいた。

お兄ちゃん...?

...そうだよ!

少し声も変わったな、などと思っていると、森さんに声をかけられた。

警察官

お兄さん、少しお話いいですか

はい...

警察官

端的に言うと、橙さんは誘拐にあっていました

誘拐...!?

警察官

はい...

警察官

誘拐、というより、違う家で暮らしていたんです

違う家で...暮らす...

警察官

「橙くんはもともとうちの子だった」と一種の洗脳のような形になっていたようです

誰が...そんなことを...

警察官

桃さんの、お兄さんです

兄ちゃん...?

警察官

紫さん、ですよね

はい...

でも、兄は俺と橙を置いて家を出ていったはずですが...

兄ちゃんは、俺たちを1人で育てることに疲れて、4年前に出ていった。

それきり、兄ちゃんがどこで何をしているかさえわからず、俺たちは兄ちゃんをなかったことにして、過ごしてきた。

その兄ちゃんが、今さら橙を...?

警察官

そのことも、お兄さんから聞いています

警察官

自分の家族であることは間違いない、と仰っていました

なんで、俺に黙って...

警察官

実は、今紫さん、いらしてるんですよ

え...?

俺に考える間もなく、彼は現れた。

スラっと細くて、綺麗な紫色の髪。

それは紛れもなく“紫ーくん”だった。

紫ー...くん...?

桃くん。ごめんね。

そう静かに言う紫ーくん。

俺はどうしたら良いのかわからなかった。

4年ぶりに話す、大好きな、大切な、たった1人の弟を奪った人。

何と声をかければ良いのか、返事さえわからなかった。

なんで...こんなこと、したの...?

俺が、どれだけ心配したか...わかってるの?

1年間、どんな思いで過ごしてたと思うの...?

抑えきれない様々な感情と共に出ていく言葉。

紫ーくんは俯きながら

...ごめん

と小さく言った。

俺は、謝ってほしいんじゃない

理由を聞いてるんだよ...

そう伝えると、ポツリポツリと話し出した。

俺、疲れちゃったんだ。

突然親がいなくなって、3人分稼がないといけなくなって、やりたいこともできなくなって。

まだ小学生になったばかりの弟と、これからお金のかかる、もうすぐ高校生の弟を一人で育てていく自信なんてなくて、俺は、逃げ出した。

1人になって、自由度が上がって、困ることもそんなになくて、呑気に暮らしてた。

だけど、寂しかった。
ただただ、寂しかった。

生きているだけで何の目標もなくて。

周りは就職とかしだして。

俺って何やってるんだろう、って思うようになった。

あるとき、突然桃くんと橙くんのことを思い出した。

弟がいれば、生き甲斐ができる。

“弟のために頑張ってる”って自信になるって思った。

そう思っていたクリスマスのあの日、たまたま桃くんの家の近くを通った。

今だ、って思った。

きっと、“また一緒に暮らしたい”なんて面と向かって言えば、桃くんは嫌がるだろう、って思ってたから、橙くんだけ呼び出して、俺の家に連れていった。

本当はすぐ家に帰そうって思ってた。

だけど、また生き甲斐がなくなってしまうのが怖くて、嫌で、帰すのを先延ばしにしていて、気づけば、一年も経ってた。

本当にごめんなさい。

自分のことしか考えてなかった。

桃くんの気持ちも、橙くんの気持ちも考えてあげられてなかった。

本当にごめん。

俺は悩んだ末、こう答えた。

紫ーくんが俺たちを置いていったことは怒らない。

もちろん、それで苦労したことだってたくさんあったし、嫌な思いもたくさんした。

だけど、それよりも、勝手な理由で、勝手な思いで、橙を連れていったのは許さない。

どれだけ謝られても、この一年が帰ってくることはないから。

...もう二度と、俺と橙の前に現れないでください。

 こんなこと、言いたくなかった。

でも、言うしかなかった。 橙を守るために。

...わかった。

本当にごめん。大好きだよ。

紫ーくんは小さな声でそう言うと、交番から出ていった。

お兄ちゃん...?

紫にいはどこに行っちゃったの...?

...紫ーくんは、遠くに行ったよ

そう...なんだ...

橙は寂しそうな顔をしてドアの向こうを眺めている。

...橙

...また俺と一緒に暮らそう

俺は少し怖かった。

紫ーくんが良い、と言いかねなかったから。

でも、そんな心配はいらなかった。

...うん!

俺、お兄ちゃん大好きだから!

橙はとびきりの笑顔でそう言った。

気を使うやつだから、本当は嫌だと思っているのかもしれない。

それでも、嬉しかった。

 

警察官

捜索願は、取り下げておきます

ありがとうございます

警察官

気をつけてお帰りくださいね

じゃあ橙、帰ろっか!

...うん!

一年越しに橙と迎えるクリスマス。

一年前、守れなかった約束。

ささやかではあるが、パーティーを 開くことにした。

ただケーキを食べる“だけ” なんだけど。

おいしい!!

 帰り道に買ったケーキを本当に美味しそうな顔で食べる橙。

そんな橙を見て、俺まで幸せになる。

...俺が、橙を守るからな

一年前奪われた幸せを噛み締めるように、そう呟いた。

そんな彼が、 “弟のためにパティシエになる” と決めたのはまた別のお話。

_____ 一年越しのクリスマス  Fin.

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