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お嬢
7
HISAKI𓃠
4
31
光が消え、何度も訪れる最初の暗闇
戻ってきた俺は、前回のヒロとの別れを思い出し、涙の滲む目で自分の体を見つめていた
太ももから腰、そしてお尻のあたりまで、彼の体はサラサラとした金色の粒子になって消えてしまっている
それでも俺は、まだ残っている胸に手を当て、優しく微笑んだ
ゆあんくん
ゆあんくん
そんな俺の頭の上から、小さな男の子の天使がフワリと降りてきて、小首をかしげた
天使
天使
ゆあんくん
ゆあんくん
天使
天使
天使が指を鳴らし、世界が光に包まれる
次の瞬間、景色は甘い香りが漂うシェアハウスのキッチンへと切り替わっていた
そこには、俺が好きだったクッキーの型を前にして、手が震えて何も手につかなくなっているのあさんの姿があった
いつもみんなを優しく見守るお母さんのようなのあさんが、涙をポロポロとこぼしている
それを見た俺は、ふと、生前ののあさんとの「あるルール」を思い出した
ゆあんくん
いつもつまみ食いばかりするゆあんのために、のあさんが用意してくれた『ゆあんくん専用皿』
そこに載っていないと、いつも俺は椅子をぎこぎこと鳴らしながら、お皿をツンツンとつついたものだ
俺は懐かしい思い出に浸りながら、スッといつもの椅子へと座り、生前と全く同じように、触れられないはずの手でお皿をツンツンとつついた
すると――
ぎこぎこ、カタカタッ、ツンツン……
奇跡なのか、俺の体は確かに椅子に座り、お皿に触れて音を立てていた
だが、本人は思い出に浸りすぎていて、自分が椅子に座れていることにすら気づいていない
ゆあんくん
いつものように、呑気な声でそう上げた
その瞬間、キッチンに彼がそこにいるかのような優しい風がふわりと吹き抜ける
お皿の音と、風の気配
のあさんはハッとして涙を溜めた目のまま、誰もいないはずのゆあんくんの指定席を振り返った
のあさんには、俺の姿は見えていない
けれど、確かにそこに『わんぱくな弟』が座っている気配を感じて、のあさんは涙をこぼしながらも、クスッと優しく笑った
のあ
ゆあんくん
天使
のあさんのまさかの返しに、俺は唖然として目を見開いた
隣に浮かぶ天使も、自分は何も手助けをしていないのに起きた奇跡に、口をぽかんと開けて唖然としている
のあさんは愛おしそうに目を細め、オーブンから取り出したばかりの、甘い香りがする焼きたてのクッキーを、俺の専用皿の上にそっと乗せた
のあ
のあ
目の前に置かれた、温かいクッキー
俺は涙を堪えながら、そのクッキーを掴もうと手を伸ばした
実体は消え、正確にはクッキーを掴むことはできなかったけれど、俺は何も掴んでいない手で、クッキーを口に入れる仕草をした
口の中に、のあの優しいクッキーの味が広まったような
そんな気がした
俺はのあさんに向かって、満面のひまわりのような笑顔を浮かべる
ゆあんくん
ゆあんくん
感謝を伝えたその瞬間
俺の身体は、今度はお腹のあたりまでキラキラと金色の粒子になって、サラサラと消え始める
それを見た天使がハッとして「あ……戻るよ!」と指を鳴らした
姿は見えなくても、いつものように優しく笑ってクッキーを焼いてくれた、大好きなお母さんの姿を目に焼き付けながら
俺は温かい気持ちのまま、再びあの最初の暗闇へと引き戻されていった
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