テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
威榴真side
疑問と課題で埋まっていく ホワイトボードから 視線を外し 俺は天井を仰ぎ見る。
議題は、卒業制作も兼ねた 新作の映画についてだ。
ヒロインが主人公に 告白しようと思った理由は?
そもそもなんで彼女は 彼を好きになったのか?
赤字で囲まれた文字達は 映画の中の出来事なのに 容赦なく胸に 突き刺さってくる。
昨日からずっと蘭の 「告白」が頭から離れないでいた。
紫龍いるま
予行ということは 本番があると言うことだ。
そして、練習相手である 俺は最初から 本命候補ではない。
考え事をするポーズを とりながら一緒に机を 囲む顔を盗み見る。
紫龍いるま
春緑 須智、赤暇 夏都 ここにはいない紅一点の蘭。
性別を意識する前から 4人でつるんできたし 幼馴染という事実はこの先も ずっとついて回るものだ。
その事に不満はないし 高校に入ったからといって 慌てて距離をとるような 関係でもない。
今更他人行事に 接したりしたら もれなく鳥肌案件だ。
とはいえ染み付いた 身内感覚は 諸刃の刃にもなる。
これまで俺は 冗談半分、照れ半分で 「性別・蘭」などと 揶揄ってきた。
それが今となっては 全部自分に返ってくる。
隣にいるのが当たり前すぎて 蘭にとっても 「性別・威榴真」になって いないだろうか。
告白予行練習の 相手に選ばれた以上 少なくとも男としては 認識されているだろうが 恋人候補にエントリーすら させてもらえなかった のではないかと思う。
紫龍いるま
紫龍いるま
思わず溜息を溢すと 隣に座る夏都が 耳ざとく反応した。
赤暇なつ
赤暇なつ
今考えていた蘭のことを 言い当てられたかのようで ひやりとする。
だが、視界の端に映りこんだ ホワイトボードに、 映画の話だったと思い出す。
動揺を悟られないように、と 祈りながら俺は ゆっくりと口を開く。
紫龍いるま
赤暇なつ
夏都の言うことも一理ある。
俺はハリウッドの大作や コメディ映画が好きで 恋愛ものはいまいち ピンとこない。
対する夏都はジャンルを 問わず幅広く見るタイプで 特に恋愛ものには 目がなかった。
お気に入りの作品は 脚本集やDVDを買い揃える コレクター気質でもある。
須智は2人とは違った。 所謂単館系と呼ばれるような エッジの効いた作品を 好んで観ている。
実際に映画館に足を 運ぶ回数は3人の中では いちばんだった。
顧問に 「3人で一本取ることにしました。」 と報告に行った際も 第一声は、 「大丈夫なの?」 だった。
あまりに深刻な声に 当時は吹き出してしまったけど その気持ちはよく分かる。
事実テーマ決めは難航した。
最終的に恋愛もので いこうと決まったのは 須智の鶴の一声だった。
春緑すち
春緑すち
夏都の意見に 反対していた俺も 須智に言われてしまえば 逆らえない。
何しろ映画研究部を 作った動機が、 彼の才能に惚れ込んでの ことだったのだから。