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威榴真side
始まりは、 2年前の高校1年生の秋。
須智がネットでひっそりと 公開していたショートフィルムが 夏休みの間に、 生徒の間でじわじわと 広がりを見せた。
やがて、噂を聞きつけた 評論家の目に留まり ブログや雑誌で 取り上げられたことで 一層多くの人の目に 触れることになった。
紫龍いるま
紫龍いるま
照れ隠しだったのかも しれないが、 フィルムを見た後では 俺も夏都もどうにかして 次作を撮ってもらおうと 必死になっていた。
須智の映画に すっかりハマって しまったのだ。
勢いで立ち上げた同好会も 翌年には後輩達が加わり 正式に部に昇格。
前後して須智の作品が 賞を獲り、学校から それなりの額の部費も 出るようになった。
環境が整ったことで 須智は益々精力的に 映画を撮っている。
紫龍いるま
ちらりと正面に座る 須智へと視線を送る。
いつもの優しい ふわふわとした 雰囲気とは違い さっきから黙って 腕を組んだまま ピリピリとした緊張を 放っていた。
俺と夏都の会話も耳には 入ってはいるのだろうが 微動だにしない。
紫龍いるま
紫龍いるま
春緑すち
視線に気付いたのか 不意に須智がこちらに 顔を向けた。
紫龍いるま
ホワイトボードの一点を見つめ もごもごと口が 動いている。
次の瞬間須智が 勢い良く立ち上がり 椅子が派手な音と共に倒れた。
春緑すち
春緑すち
歓喜の声をあげる須智に 俺と夏都が揃って 首を傾げる。
赤暇なつ
紫龍いるま
須智は映画が関わってくると 閃いた結果だけを 口にする癖があり 周りの人間は しょっちゅうポカンと させられる。
慣れている2人でも こういう時の須智の 思考回路を辿るのは 至難の業だ。
俺達の質問には答えず 須智が苛立たしげに目を細める。
春緑すち
春緑すち
自分に腹を立てているらしく 溜息をつきながら 額に手を当てた。
芝居がかった言動にも 見えるけど、 計算でも何でもなく 自然と出てしまうのだと いうことを、 俺も夏都も知っている。
それだけ映画作りに集中し 全力を注いでいるのだ。
紫龍いるま
圧倒され、固まった身体を 動かしながら、 俺はアイデアが逃げないうちに メモを手に取る。
紫龍いるま
紫龍いるま
春緑すち
現実に見知っている 相手のように 語ってみせる須智に ボールペンを走らせていた 手が止まる。
どうやら彼の頭の中では 既にヒロインが喋り始めて いるらしい。
須智の案に触発されたように 夏都も興奮気味に話し出す。
赤暇なつ
赤暇なつ
赤暇なつ
春緑すち
春緑すち
紫龍いるま
2人の会話を必死に 纏めながら、 俺は感心する。
以前は才能を 「見せつけられてる」 ような気がして 焦ったこともあったが、
自分には、 彼らのような情熱も才能も ないことを思い知った後では そんな仄暗い思いは 薄まっていった。
綺麗さっぱり 消えたわけではないが 付き合うコツを 会得したのだ。
秘密基地で遊んでいた 時のように何でもかんでも 競わなくていい。
羨ましいと、 素直に認めればいいだけだ。
間違っても 妬ましいなんて 思うようになったら お終いなのだから。