幻影のアルカディア

この世界は死んでいる。

………なんて、

“あの惨状”を見た人しか 信じないとは思うけど。

特別警察組織、“RED”。

世界の終わり＿＿＿ いわゆる、“クロノス”。

システムのバグにより訪れた、 アルカディア崩壊の日である。

ちょうどその後に、

建物崩壊により地区外から侵入して来た “幻影”から残された人々を守り、

アルカディア脱出の突破口を模索し、

そして、最も被害が大きい4区の清掃を行う。

そんな組織だ。

第0部隊〜第5部隊より成る、

戦闘特化型警察である。

第0部隊宛 ・第4区Cエリア ・幻影発生過多地につき、 発生要因を塞ぎ直ちに帰還すること

毎日、昼夜問わずこんな通知が届く。

………そこはさすがに、 特別警察組織を唄うだけあるブラックだ。

通知が来たら、 その瞬間任務に飛んでかなければならない。

だから、隊長であるアイツが、 通知が来る度に6人全員を集める。

呼ばれたので行ってみれば、 そのテーブルには4人もう既に座っていた。

………4人？

らん含め4人。1人足りない。

みことと俺、らんを除く2人が駄々をこねる。

まぁ見慣れた光景だ。

すちは仕事は1級品だがすぐ寝るし、 こさめはずっと所構わずゲームしかしない。

らんの地獄の一言が すちとこさめに突き刺さる。

本来、2人でも事足りるような内容である。

だから、すちとこさめ2人で向かわせたとしても何ら問題は無いだろう。

…。

前言撤回。

すちとこさめ、ではなく “すちとこさめと俺”だったらしい。

みことが申し訳なさげにこちらを見てきた。

めんどくさいとか、 行きたくないというのも、

指定地区の敵が雑魚しかいないからであって。

そりゃ、 警察学校で準首席だった俺からしてみれば 準備体操にすらならない。

そんなのの為に遠くまで赴くのが、 心底めんどくさいのだ。

ただ、

このアルカディアの…… “RED”で、「行ってらっしゃい」は 大きな意味を持つ。

1区外から遠ざかるにつれ、 増す危険度と増える幻影。

“あの時”、無事に帰って来れなかった 大切な人を想って、

次こそは誰も死なせたくないと、

そう願って。

手が冷たい。

冷や汗が頬を伝う。

いくら経っても慣れることはないこの緊張感で、 いつも少しだけ、心臓が苦しくなった。

毎日止まない司令と要請。

……こんな多忙な日常でも、

俺らにとっては、

あの頃に比べれば“平和”なのだ。