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みずはあや短編集

第1話 - ヒトミさん

13,390

2018年11月05日

#ホラー

#ドラマ

みずはあや

ヒトミ

はじめまして、わたしはヒトミ

野崎

…は？なんだ、これ…夢か？

野崎

真っ暗で何も見えないんだけど

ヒトミ

ここよ

野崎

うわ！！

野崎

び、びっくりした…いきなり後ろにいるんだもんな…

野崎

（きれいな女の人だけど、なんかきれいすぎて怖いな）

野崎

（特に目が…ずっと見てると吸い込まれそうだ）

ヒトミ

わたしはヒトミ

ヒトミ

あなたは善人で、正義感が強く、他人のために一生懸命になれるひと。だからご褒美をあげにきたの

野崎

ご褒美…？

ヒトミ

ええ。真実を視ることができる、特別な眼

ヒトミ

過去に起こったことならば、まるでその場面を実際に視ているかのように教えてくれる

野崎

ちょ、ちょっと待って！何のことだか…

ヒトミ

ただ、約束してほしいの

ヒトミ

この眼を正しく使うって

野崎

正しく…

ヒトミ

あなたなら、きっと正しく使えると信じているわ

ヒトミ

約束、忘れないでね

朝　高校前

野崎

（変な夢だったなぁ。妙にリアルっていうか。真実を視る眼、か…）

生徒A

なー、聞いた？

生徒B

何を

生徒A

ヒトミさんの噂！

野崎

（ヒトミさん？確か、夢に出てきた女の人もヒトミって名乗ってたな）

生徒B

あぁ、日頃の行いがいいと夢に出てきて特別な力を与えてくれる…とかなんとか

生徒A

実際に夢見たやつもいるって話でさぁ。どんな力を与えてくれるのか気になるよな！

生徒B

夢に出てくる女にそんな力があるわけねーだろ？寝言は寝てから言えよ

野崎

特別な力…か…

理奈

野崎くん、おはよ。難しい顔してどうしたの？

野崎

あぁ、おはよ。何でもないよ

野崎

理奈こそ、ちょっと元気なさそうだけど

理奈

えっ、うーん、わかっちゃった？

野崎

これでも彼氏だからな

野崎

どうした？

理奈

実は今朝、私が一番最後に家を出たんだけど。鍵をかけたかどうか不安で…どうしても思い出せないんだよね

野崎

（理奈が玄関の鍵をかけたかどうか、か。過去に起きたことなら視えるって言ってたけど、まさかな…）

野崎

──って、え？！

理奈

どうしたの？

野崎

（今の…なんだ？）

野崎

（目にピリッと静電気みたいなのが走ったと思ったら急に──理奈が家の鍵をかけてるのが視えた…？）

理奈

野崎くん！

野崎

あ！わ、悪い！ちゃんと鍵かけてたよ

理奈

え～？見てたわけじゃないでしょ？

野崎

そうだけど、断言する！理奈は絶対に家の鍵をかけた！

理奈

そこまで断言されちゃうと、そんな気になってくるから不思議だね

理奈

うん、大丈夫。ちゃんとかけたよね！

野崎

理奈はそうやって笑ってるのが一番いいよ

堂島

朝から見せつけてくれるよなぁ、相棒

野崎

あぁ、堂島。おはよ

堂島

独り身の俺をあんまり刺激しないでくれよ～

野崎

お前モテるんだから、すぐ彼女できるだろ？

堂島

モテるのと、大事なひとを見つけられるのとはイコールじゃないだろ？

堂島

ねー、理奈ちゃん

理奈

堂島くん、いいこと言う！

理奈

あ、そうだ…例の件だけど

堂島

ああ、考えとくよ

野崎

例の件って？

理奈

わ！何でもない！ほら、早く行かないと遅刻しちゃうよ！

野崎

あ、うん…

昇降口

笹井

…はぁ

堂島

笹井じゃないか。暗い顔してどうした？

笹井

あ、堂島先輩と野崎先輩。おはようございます

理奈

野崎くんの後輩？

野崎

ああ、バスケ部のな。

野崎

何かあったのか？力になれるかはわかんないけど、とりあえず言ってみろよ

笹井

僕の上履きが見つからなくて…

堂島

高校生にもなって上履き隠すなんてガキくせぇことする奴、本当にいるんだな

笹井

いつものことです。もう慣れました…

野崎

（笹井、いじめられてるのか？何とかして上履きだけでも見つけてやりたいけど…）

野崎

──うっ！

理奈

どうしたの？野崎くん

野崎

ちょっと待ってろよ！

堂島

なんだあいつ、急に走り出して…

野崎

お待たせ！お前の上履きってこれだろ？

笹井

あ！これです！ありがとうございます！

野崎

犯人にも心当たりあるから、俺から話してみるよ。こんなことに負けるなよ、笹井！

笹井

…はい！僕、がんばります！失礼します！

堂島

…………

堂島

後輩が元気になったのはいいが、どうして上履きの隠し場所や犯人の目星がついたんだよ？

野崎

え？あー…まぁ、勘っていうか

野崎

とにかく、笹井が少しでも元気になったんだ。結果オーライだろ！

野崎

（すごいぞ…この力、本物だ）

野崎

（俺は本当に…真実を視る眼を手に入れたんだ…！）

数日後

野崎

定期券をなくしたって？

堂島

参るよなぁ、更新したばっかりなんだぜ？どっかで落としたのかな～

野崎

（それくらいなら、今の俺なら簡単に…）

野崎

（視えてきた、ここは駅前のコンビニだな。あぁ、堂島のやつ財布を取り出したときにパスケースを落としたのか）

野崎

（落としたことに気づいてない…ってことは、このコンビニが預かってくれてる可能性が高いな）

野崎

（ん？誰かと一緒なのか。仲良さげにして、もしかして堂島の新しい彼女だったり…）

野崎

──理奈？！

堂島

うお！どうした？急に彼女の名前叫んだりして

野崎

い、いや、何でもない…

野崎

（一緒にいたの、理奈だったよな）

野崎

（そういえば最近ふたりでコソコソ話してたし…まさか、あいつに限ってあり得ないと思うけど…）

野崎

（堂島と浮気、なんて…）

堂島

おーい？相棒？

野崎

あっ！て、定期券だけど、駅前のコンビニあたりで落としたんじゃないか？

野崎

前に財布とるついでに落としたことあったろ？

堂島

おぉ！それあるな～！コンビニに連絡してみるか！

野崎

それでな、そのとき一緒に…

理奈

野崎くん！

野崎

あ…

理奈

噂聞いたよ！野崎くんが色んなひとを助けて回ってるって！

理奈

ずっと前からいい人だなぁって思ってたけど、こんなにたくさんのひとに感謝されてるなんて、彼女として誇らしいよ！

野崎

いや、俺は当たり前のことしてるだけだし

理奈

その謙虚なところも素敵だよね～。へへ、惚れ直しちゃった！

野崎

（いつもの理奈だ。明るくて、素直で…嘘なんてつけない。俺の親友と浮気なんて、できるはずない…）

堂島

独り身には厳しい空間になってきたから、俺は退散してコンビニに電話でもしてくるわ～

理奈

あ、堂島くん…行っちゃった

野崎

（そうだ、疑ってないで聞いてみればいいんだ。堂島といたからって浮気してるとは限らないじゃないか）

野崎

（理奈は嘘なんてつかない。正直に答えてくれるはずだ）

野崎

そういえば、理奈。昨日の放課後…駅前のあたりにいなかった？

理奈

え…？

理奈

家とは反対方向だし、駅の方には行ってないよ

野崎

そっか…

野崎

（嘘だ）

野崎

（俺は真実の眼で視たんだ。理奈が堂島と一緒に駅前にいたことを）

野崎

（どうして嘘をつくんだ、理奈）

野崎

（どうして…）

自室

野崎

ずっと一緒にバスケをやってきた親友の堂島

野崎

いつも笑顔で、その笑顔を守りたくて大事にしてきた恋人の理奈

野崎

そのふたりが…俺が心から信じてるふたりが、俺を裏切ってるっていうのか？

野崎

そんなはずない。絶対そんなこと、できる奴らじゃ…

野崎

でも、理奈は嘘をついた。これだけは真実だ

野崎

俺に嘘をつかなきゃいけない理由…堂島と一緒にいたことを隠さなきゃいけない理由…

野崎

そうだ…

野崎

そうだよ…俺は、正しいことをしなきゃいけないんだ

野崎

与えられた力を、正しいことに使わなきゃいけない

野崎

もしも堂島と理奈が道を誤っているなら、それを正さなきゃいけないんだ！

野崎

──視えてきた

野崎

また一緒にいるのか？理奈…堂島…

理奈

堂島くん、今日はありがとう。…野崎くんには、バレてないよね？

堂島

俺も気をつけてたし、大丈夫じゃないか

堂島

気になることでもあった？

理奈

うん…はじめて嘘、ついちゃったから…

堂島

野崎は許してくれるよ

堂島

だって全部あいつのためなんだから

理奈

そうかな…。プレゼント、ふたりで一生懸命選んだし、喜んでくれるといいな

堂島

明日が楽しみだな！あいつ絶対びっくりするぜ

理奈

ふふ、そうだね。最高の誕生日パーティにしようね！

野崎

なんだよ…

野崎

なんだよ、ふたりとも…

野崎

俺のこと思って、慣れない嘘までついて

野崎

それなのに俺は何やってんだ

野崎

ふたりを裏切ったのは…間違っていたのは…

野崎

俺の方じゃないか

ヒトミ

約束

野崎

えっ

ヒトミ

約束、したのに

野崎

あ、なんだ…あ、あああ、熱い！

野崎

熱い！熱い！熱い！！目が！！！

野崎

熱い熱いあついあついあつああああああああああああああ！！！！

生徒A

なー、聞いた？

生徒B

何を

生徒A

ヒトミさんの噂！

生徒B

またかよ。夢に出てきて特別な力を与えてくれるんだろ？

生徒A

そうなんだけど、話には続きがあってさ

生徒B

続き？

生徒A

ヒトミさんとの約束を守らないと、恐ろしい目に遭うんだって

生徒B

へぇ～

生徒B

恐ろしいっていえばさ、うちの学年に野崎っているじゃん

生徒A

ああ、すげーいい奴だって評判の？

生徒B

そうそう。なんでも原因不明の奇病とかでさ～

生徒B

突然両目が破裂して、失明したんだってよ

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