南野絵理
プリント作成…?
教師♂︎
作成っちゅうかホチキス止めやな
南野絵理
あぁ…
学級委員になって2日目。
机に積まれたプリントの山は、
夕焼けに照らされて 長い影を作っていた。
教師♂︎
今日は2人共部活休みやろ?
教師♂︎
今日中に纏めて明日には配ってくれ
教師♂︎
よろしゅうな〜
南野絵理
( 担任め、また逃げやがった )
北信介
なにしてん、早う始めんで
閉められた教室の扉を 睨んでいると、
そんな声が耳を通る。
横を見ると イスに座った北くんが
ホチキスを手に取っていた。
南野絵理
( やるしかないか )
南野絵理
ごめんごめん、今やる
私は腹を括って 北くんの向かいのイスに座った。
パチンパチンと ホチキスの音だけが教室に響く。
南野絵理
( 早う片付けて絵描きたいわ )
なんて呑気に考える。
ふと目線だけ上げると、
向き合うように座った 北くんの長いまつ毛が見えた。
伏せられた ライトブラウンの瞳に、
白に近いグレーのまつ毛が、
夕焼けの赤い光に 縁取られている。
南野絵理
綺麗やなぁ
北信介
ん?
南野絵理
……あ
心の声がぼそりと 自分の口からこぼれる。
決して声量は 大きくなかったけど、
静まり返った教室には やけに大きく響いた。
北信介
何が?
南野絵理
あ、いや、夕日が綺麗やなぁって…
あははと笑って誤魔化す。
北くんは瞬きしながら 窓の外に目を向けると、
もう一度 私の目を見て言った。
北信介
浸る余裕あんならプリント作りに集中しぃや
南野絵理
ご、ごめん
南野絵理
( あぶない!北くんが純粋で命拾いしたわ… )
バクバクと激しく 収縮を繰り返す心臓。
私は至って平静を装って プリントに向き直った。
南野絵理
( そういえば北くんの声ちゃんと聞いたの初めてやな… )
低くて落ち着いた声量。
けれどよく耳に通る 心地良い声だ。
南野絵理
( いやいや何考えてるんや私は )
南野絵理
( 我ながらだいぶキモイわ )
南野絵理
( 集中しよ、うん )
そう自分に言い聞かせ、
私はひたすら ホチキスを押した。
北くんが私に心を開くまで あと50minutes.