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4 - 第4話 『また、普通の話をしよう』 『照明後の冒険』

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2025年08月02日

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part4 また、普通の話をしよう

図書室からの帰り道、エレベーター前で彼女が立ち止まった。

🍫

ねぇ、ちょっと寄ってく?

🌷

どこに?

🍫

私の病室

不意に言われて、少し戸惑った。  でも、すぐに「いいの?」と聞くと、えとさんは小さく頷いた。

病室のドアを開けると、そこにはえとさんの世界があった。 窓際には小さな観葉植物。ベッドの脇にはお気に入りらしいぬいぐるみがちょこんと置かれている。

彼女はベッドに腰かけて、こちらを見上げた。

🍫

はい、そこ。遠慮しないで椅子に座って

僕は言われるままに椅子に腰かけた。

🌷

なんか変な感じだよ。こうやって病室で話すの…

🍫

そう?わたし、けっこう楽しいよ

彼女はにこっと笑った。

🍫

ねぇ、学校ってどんな感じ?

🌷

学校?

🍫

小さい頃から入院してるから、よくわからなくて。だから……教えて?

少し考えてから、僕は話し始めた。 昼休みに友だちと食べるお菓子の話。 授業中にノートがぐちゃぐちゃになること。 美術の時間、鉛筆の木炭が手について真っ黒になったこと。

どれも、なんてことのない、普通の話。

でも彼女は目を輝かせながら「へぇ~」「それで?」と笑ってくれる。 それが、なんだか嬉しかった

🍫

ねえ

🌷

ん?

🍫

病室にいてもね、こうして誰かと話してると、“ここじゃないどこか”にいるみたいな気がするんだよね

🌷

うん

🍫

……だから、また来てね。ふつうの話、もっと聞かせて?

🌷

うん。いっぱい話すよ。まだ話してないこと、たくさんあるから

その日、彼女の病室からの帰り道、僕の中で何かが少しずつ変わっていくのを感じた。 “あと一年”じゃなくて、“この1日”が大切だと思えた。

『消灯後の冒険』

🌷

なぁ、えとさん。今日の夜、ちょっと抜け出さない?

🍫

……は?なに言ってんの、ここ病院だよ?

🌷

だからいいんじゃん。夜の病院、探検したことある?一回くらい、してみたくない?

🍫

いやいやいや……怒られるし、こわいし、看護師さんいるし……

🌷

お。ちょっと興味ある顔したね。今、“ちょっとだけなら…”って思ったでしょ?

🍫

…っ思ってない!

その夜、23時すぎ。 静まり返った廊下に、足音がゆっくり響いた。

🍫

ほんとに来たし…

🌷

えとさん、そっち足音うるさい。もっとスパイっぽく歩いて!

🍫

私、スパイ向いてないの!ていうかなおきりさん、これが初デートってどういうセンスしてんの?

🌷

夜の病院を一緒に歩くとか、ドラマチックでいいじゃん。

🌷

次は“誰もいない中庭で手をつなぐ”っていうルートが控えてます

🍫

採用されません!

ふたりはエレベーターを避けて非常階段を下る。 点灯していない廊下は、窓からの月明かりが頼りだった。

🍫

しずか…

🌷

なぁ、こっち来てみ

なおきりが案内したのは、少児科フロアの前。

壁に描かれたカラフルな動物たち、貼りだされた子供たちの絵。

🌷

……ここ、昼間は賑やかなんだよな

🍫

うん。なんか、さみしいような、落ち着くような

えとが壁のキリンをじっと見つめる。

🍫

なおきりさん

🌷

ん?

🍫

わたしたち、こんなことして、バカみたいだけど……でもちょっと、楽しいね

🌷

ちょっとだけ?

🍫

……まぁ、けっこう

🌷

素直なえとさん、レア。録音しとけばよかった

🍫

やっぱ帰る!

🌷

うそうそ、こっちこっち、まだ見せたいとこあるんだ

ふたりは、夜の病院の奥へとゆっくり歩いていく。 大人たちも看護師もしらない、ふたりだけの冒険。

照明の落ちた廊下の先に、いつもとは違う世界が広がっていた。

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