テラーノベル
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ずっと一緒にいようね。
...なんて。
無理だって、もう、わかっていた癖に。
”....ナチ。” ”ナチ、もう朝だよ。起きて。”
イオは優しげな口調でそういう。 すると、君はぱちっと目を開ける。イオはそんなナチの背中に手を滑り込ませ、肩を優しくつかんで、起き上がる手助けをしてやる。
僕
イオが微笑みながらそう言うと、君も微笑んだ。 太陽の光か君の笑顔なのかわからないが、イオはとにかくまぶしかった。
ナチ
君のその声に以前の君は残っていなかった。 あったのは”赤ちゃん”の君。 もう、ナチス・ドイツの威厳とか、独裁とか、大人びた口調も、何もなかった。でもイオはそれでもよかった。
僕
ナチ
まだまだ拙いその喋り方。それさえも、イオには愛おしく感じた。 つまり、イオはそれでもよかった。
イオはナチスを優しく抱えてダイニングテーブルの椅子に座らせ、イオも隣に座る。優しいパンとバターのかおりがふわっと場を包み、自然と笑みが零れる。
イオはバターを手に取り、バターナイフでひとすくいしてナチのパンに乗せた。
そのパンをナチの顔の前にやると、ナチは口を開けてそのパンにかじりつく。イオはそれを恍惚とした表情で眺めていた。
僕
ナチ
イオは”よかった”と呟いて自分のパンにもバターを塗った。 ナチは未だに弱い歯と弱い顎でもぐもぐとパンを噛みしめている。そんなナチをみると、やっぱりイオが守らなければならないという謎の使命感がふつふつと湧いてくる。
朝ごはんを食べ終わると、イオはお皿を片付けようとする。 ...そこに、ナチが、イオの名前を呼んだ。
ナチ
僕
イオは、返事をした。
イオはあの後、闇市でナチが売られていることを知って、すぐにナチを買って家へ連れて帰った。
枢軸の皆はイオの手によって雲の上へ行ってしまった。フィンランドもだ。 ソ連は知らないけど、きっと森の中とかで死んでいるのだろう。知らないけど。
イオはすぐにナチに暖かい恰好をさせ、風呂に入らせ手当てをし、なんとか話をしようと試みた。
でも、イオは遅かった。そう、遅かったんだ。
ナチはもうソ連しか認識していなかった。 イオの事を思い出してはくれず、イオの事を怖がるばかりだった。
いや、そんなことはどうでもいい。
イオが本当に許せなかったのは、 ”ナチがソ連を望んでいる” ことだった。
ナチをこんな苦しい目に遭わせて、イオ達もぶっ壊して、何もかもの悪役はソ連なんだ。それは事実であって、ソ連自体も自重していたはずだ。それにも関わらず、ソ連がナチを軟禁していくうえでナチがソ連を望むようになったのが何より許せなかった。
洗脳があった可能性もある。 だけど、ナチのソ連に対する感情が生々しすぎて、イオは”自然にイオを忘れてしまったんだ”と察した。 生々しい、というのは、 ”酷いことをされているかもしれないけど、俺はもうソ連じゃないと駄目。だってソ連じゃないだれかが俺を見たら逃げていっちゃうと思うから”...みたいな感じだ。 イオはあまりの切なさに吐きそうになった。
ナチは取り戻した。 なんだか知らないけど上手くいって、イオはナチと二人になることが出来た。 もうここには連合国もイオ以外の枢軸も居ない。
勿論ソ連も居ない。 だけど、ナチはソ連だけを望んでいた。 そのソ連を本気で否定したら、ナチは本当に死んでしまう。イオに残された選択肢は一つしかなかった。いや、もっといい方法があったかもしれないけど、イオの小さい頭ではもうそれしか考えられなかった。 ナチみたいな頭脳があったり、また枢軸でふざけた会議でも開けば”もっといい方法”が見つかっただろう。なんてうわごとも考えたが、その道を断ったのはイオ自身だ。だから、イオはイオの考えに忠実になることにした。
そう、ナチがソ連を望んでいるなら。
イオがソ連になればいい。
そうすれば、ナチはイオを望んでくれる。
イオはイオを捨てた。 イオは、”僕”になった。
イオは、それでもよかった!
そんなのでも、よかったんだ!
ナチ
僕
僕はテレビの電源を付け、ニュース番組を避けて適当なチャンネルに合わせた。
ナチはテレビをなんとも言えない表情で眺めていた。 いつもそうだ。 ナチは結構な頻度でテレビを見たがるけど、面白がるような表情をみせない。 まるで、習慣かのように、 過去の暮らしを思い出すように、 ナチはテレビを見ている。
ナチ
僕
僕
僕はふっと笑うけど、ナチはいつもより真剣な面でテレビを見ながら言う。
ナチ
ナチ
ナチ
僕の心にぴしっとひびがはいったような気がした。
ナチ
ナチ
ナチは切ない笑みを浮かべてそう言った。 僕は申し訳なさそうな顔をしながら、言った。
僕
僕
無責任な言葉だ。 僕もそう思う。 だけど、僕は約束するまでもなく、一生をナチと共にすると誓える。 ナチも、イオさえ騙したとしても、僕は絶対にナチから離れない。 僕もナチも、それ以外に生きる道がないからだ。
スイス
ある病院の一室。 スイスは真剣な面持ちで、米英に視線を向けた。
アメリカ
アメリカはそうあしらって、ベッドに横たわる屍に目を向ける。
見覚えのある肌にコートにロシア帽。 所々腐っていて、所々虫に食われている。 首を掻き切った跡があり、それが死因だと予測できる。だけど、他の外傷も認識出来た。
スイス
イギリス
イギリス
アメリカ
スイスは目の前の惨状に眼をそむけたくなるも、じっくりとソ連の死体を見ていた。スイスは”僕の招いた悲劇である”とわかりながら、感情を落ち着かせて冷静に自分を保った。
アメリカ
スイス
アメリカ
アメリカ
イタリア王国、...。 スイスはあの間抜け面をそっと思い出した。
イギリス
イギリス
スイス
スイス
アメリカ
アメリカ
スイスは目を逸らしながら言った。
スイス
スイス
アメリカ
僕は一応そういったけど、そんなに簡単に忘れ去られることではない、と心の中ではわかっていた。
しばらく沈黙が続いた後、アメリカが口を開いた。
アメリカ
スイス
イギリス
アメリカ
米英はそんなことを言いながら挨拶もなしに病室から出て行った。僕はベッドに残されたソ連の死体を再度眺めた。 すぐに連合国の人達がやってきて死体を回収しに来るだろう。僕は最後にソ連の死に様を目に焼き付けることにした。
...ナチスが寝たことを確認して、僕はそっとベッドから起きて、机に向かう。
蝋燭の淡い光を頼りに、僕は万年筆を動かして日記をつける。
僕
ナチスは好きだ。大好きだ。 だから、ナチスを取り戻した。
だけど、僕は心の片隅に残っている以前の”彼”を未だ忘れられずにいる。
卍
卍
卍
ぐしゃっ、と紙を強く握った。
...ぽた、ぽた、と、涙が手に落ちる。
僕
僕
出演
ソビエト連邦 大日本帝国 満洲国 イタリア社会共和国 ヴィシーフランス セルビア救国政府 クロアチア独立国 ハンガリー王国 ハンガリー国民統一政府 ブルガリア王国 ルーマニア王国 ベーメン・メーレン保護領 ナチ占領下オーストリア イタリア保護領アルバニア ナチス・ドイツ イタリア王国 アメリカ イギリス スイス
主
主
主
主
主
主
主
主
主
P.S. 1話から題名の頭文字を辿っていくと??
コメント
24件
ナチがイタリア王国にソ連って言った瞬間涙がぶわって出てきちゃったよ…
「P.S.壊れちゃった君へ」が、ソ連からの言葉ともイタ王からの言葉とも読める最後なの、すごい…なんだろう…感傷的な気持ちになって好き