そまは俺のもの

打ち合わせのために 会社に行った帰り道

遅くまで話し込んでいたみたいで、 あたりはすでに暗くなっていた

この日はひどく雨が降っていた

スクランブル交差点の信号が 赤から青へと変わる。

仕事終わりのサラリーマンや 小洒落た男女、様々な人が 信号を渡ろうと行き交いする。

その中にふとっ、目を引く人がいた。

その人はとても綺麗で、 だけど、少しでも目を離せば どこかに消えてしまいそうな 儚さがある。

目が離せずずっと視線で追いかける。その人は交差点途中で フラッと車の前へと進んでいく。

俺はつい駆けつけて、 その人を抱え安全な場所へと 移動する。

しゆんの家に到着する

俺はまず冷えきったしゆんを お風呂に入れて、 その間に暖かい料理を作る。

野菜を切ろうといつもの場所から包丁を取る

包丁を探そうと辺りを見回すと部屋の中に違和感を覚える

前はもっと物で溢れていたのに。

何もなかったかのように 雑然としている

棚の中から2人分のコップを出して、ちょうど湧いたお茶を注ぐ。 ダイニングテーブルの前に座っているしゆんの元へ持っていく。

向かい合わせになるように俺も座ると床が少しジャリついている

お互い無言のままお茶を啜る

いつもだったら仕事のことからくだらないプライベートな話までずっと話しているのに

今日は会話が続かない

空気が重い

こんなこと思うことは初めてだ

意外なことに初めに声を発したのは しゆんの方だった。