静かな室内に鳴り響く、 インターホンの音。
JUNGKOOK
JUNGKOOK
テヒョニヒョンの家なのに、 どうしてインターホンを押す必要があるのか。
そんな疑問も浮かぶ暇がないほど、 一刻も早く、 テヒョニヒョンの顔が見たかった。
ただいまって言って、 この胸騒ぎを、 吹き飛ばしてほしかった。
何も疑うことなく玄関へ向かいドアノブに手をかける。
力を入れて下に下げ、 扉を勢いよく開けた。
……その先に、 愛しい人の姿はなかった。
JUNGKOOK
代わりに、 見覚えがありすぎる2人の人物が、 僕の視界を支配する。
声が、 でない。
息が、 詰まる。
『どうして』
その言葉が、 頭の中を占領した。
必死に混乱する頭を整理する僕とは裏腹に、 目の前の人物は笑顔で口を開く。
グクの父
グクの父
メガネをかけた男性が、 微笑みながら僕を見た。
完全に "初めて会う人" を見るような目で。
僕は一瞬で、 理解した。
_この人は僕を忘れたのだと。
僕の存在など、 なかったことにして生きているのだと。
呆然と立ち尽くす僕をよそに、 もう1人の人物が何やら嬉しそうに尋ねてきた。
テヒョンの母
テヒョンの母
テヒョンの母
グクの父
グクの父
僕のことを『可愛い男の子』と呼ぶこの人たちが悪魔のように見えて、 次第に体が震え始めた。
そっか、 さっきまでの胸騒ぎはこれか。
頭の片隅に、 冷静にそんなことを思う僕がいた。
テヒョンの母
テヒョンの母
テヒョンの母
グクの父
グクの父
グクの父
そう言って嬉しそうに自己紹介をした、 目の前の2人に、 思わず叫びそうになった。
『助けて』と。
誰か、 この場から僕を連れ出して。
お願いだから…っ、 誰か…
V
マンションの廊下に、 怒鳴り声が響いた。
横を見れば、 焦った顔でこちらに向かい走ってくる、 待ち望んでいた人の姿。
この人はどうして…。
…いつも助けを求めた時に、 来てくれるんだろう。
V
怒りと焦りに満ちた表情のテヒョニヒョンは、 僕を背中に隠し、 2人にそう言い放った。
テヒョンの母
テヒョンの母
テヒョンの母
グクの父
口調からして、 少しからかうような2人。
テヒョニヒョンがいったいどんな顔をしているのかは、 背中に隠されているボクには見えないけれど… それでも…。
V
震えているその声が、 すべてを物語っているようだった。
この状況の恐ろしさをわかっていないのは、 どうやらこの夫婦だけのようだ。
テヒョンの母
グクの父
グクの父
V
V
__もうダメだ。
JUNGKOOK
テヒョニヒョンに、 惨めなやつって思われたに違いない。
でもこの場にいることがもう限界で、 風邪で体がダルいのも忘れるくらい、 全速力で廊下を走った。
僕を呼び止めるテヒョニヒョンの声が聞こえたけれど、 無視して階段を駆けおりる。
_________
マンションから出ると、 いつの間に本格的に降り始めていた雨の中、 お構い無しに見知らぬ道を駆け抜けた。
テヒョニヒョンのお母さんの隣で、 微笑むあの人の笑顔が焼き付いて離れない。
グクの父
グクの父
グクの父
グクの父
あの人は僕のことを忘れたらしいけど、 僕は覚えている。
忘れるわけが、 ない。
いや、 忘れられるわけがない。
JUNGKOOK
JUNGKOOK
名前は?だなんて… 自分がつけた名前なのに。
JUNGKOOK
JUNGKOOK
そんな僕の小さな呟きは、 雨音にかき消された。
まさか、 こんなところで会うなんて…。
再婚したって… そんなの、 いつ…?
どうして… テヒョニヒョンの家に?
テヒョニヒョンは、 2人が再婚したことを知ってたの?
いつから? どうして? テヒョニヒョンだけ…?
わからないことが多すぎて、 1度にいろいろな情報が入り頭が痛くなる。
一つ一つ理解していこうにも、 僕には想像もつかないことばかりで、 考えること自体が無駄なのだと気づいた。
すると走ってきたからか、 混乱しているせいか、 息が切れて立ちどまり、 頭を押さえてその場にしゃがみこむ。
V
騒がしい雨音の中、 背後から鮮明に聞こえたのは、 テヒョニヒョンの声だった。
JUNGKOOK
こんな状況ですら、 『グガ』と名前を呼んだくれたことに喜んでしまう。
けれど、 振り返ることができない。
今いちばん、 テヒョニヒョンには会いたくなかったから。
JUNGKOOK
JUNGKOOK
完全に哀れだ。
僕は今、 とてつもなく惨めったらしい表情をしているに違いない。
せめて泣くな、 笑うんだ僕。
必死に笑顔を作ろうにも、 口角が上がってくれない。
下唇を噛む強さに力が入っていく一方だった。
JUNGKOOK
JUNGKOOK
グクの母
グクの母
どうして、 今、 母さんの言葉を思い出すんだろう。
JUNGKOOK
心が潰れてしまいそうだった。
僕が壊してしまったものたちが波のように押し寄せて、 僕を責め立てているようで…。
全部、 僕のせい。
僕がいなければ、 こんなことにはならなかった。
JUNGKOOK
V
V
V
しゃがみこむ僕の肩に、 テヒョニヒョンが自分のジャケットをかけてくれる。
その優しさが今は鋭い矢のように心臓に突き刺さって、 消えてしまいたくなった。
…頭が、 グラグラする。
JUNGKOOK
JUNGKOOK
JUNGKOOK
V
JUNGKOOK
V
JUNGKOOK
V
JUNGKOOK
V
JUNGKOOK
ゆっくりと、 俯いていた顔を上げる。
テヒョニヒョン。
僕、 今、 どんな顔してる…?
JUNGKOOK
僕の言葉に、 テヒョニヒョンが眉をひそめ、 すごく悲しそうな顔をする。
JUNGKOOK
…っテヒョニヒョン…。
JUNGKOOK
V
JUNGKOOK
いったい何に対して謝ればいいのか、 どれだけ謝罪すればいいのかは、 もう僕にはわからなかった。
何度言ったって、 許されるはずがないこともわかっていた。
心臓が引きちぎれるように痛くて、 息をするのも苦しくなってくる。
突然だった。
雨のせいで冷たいはずなのに、 ひどく温かい体温に包まれたのは。
JUNGKOOK
JUNGKOOK
疑問がまた、 一つ増える。
僕を強く抱きしめながら、 テヒョニヒョンは耳元で囁いた。
V
__嘘だ。
テヒョニヒョンの言葉でも、 それだけは信じられなかった。
だったらどうして… 僕の前からいなくなったの?
大切な人はみんな、 いなくなった。
それは… 僕が悪い子だから、 でしょ…?
雨がやむどころか激しさを増し、 僕とテヒョニヒョンへと降りかかる。
泣くことしかできないダメな僕を、 テヒョニヒョンは黙って抱きしめてくれた。
V
雨の音にかき消され、 テヒョニヒョン消えそうな声は、 僕に届くことはなかった。
コメント
18件
泣いた ありがとうございます
待って最高! このかいで、テテがなんでグクを避けてたのか全部辻褄が合った。すご
やばい!