テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
俺たちは、神が絶対的存在だと、ずっとそう教えられて生きてきた。 毎日神を崇め、神中心の生活を送る。 こんな世界で、神を貶したものがどうなるのかなんて、たかがしれていた。
クラスのお調子者が、 ふざけて、口を滑らしたように、 神なんているわけないよな!そう声に出した。その途端、周りの視線が鋭く冷たいものへ変わった。お調子者の男児は、しまったと顔を強ばらせ、今にも泣き出しそうな顔をしたのをよく覚えている。自分はそれを見て、内心「ばかだなぁ。」なんて他人事の様に考えた。実際彼は同じクラスメイトってだけで所詮はただの他人だ。自分には少しも関係ない。
その男児は、助けを求める様周りを見渡すが、顔を強ばらした先生に連れられ、教室を後にした。 そこから彼の姿を見たものは、俺含め一人もいない。それところか、誰も彼のことは口に出さない。神に逆らった者は、人間としては認めて貰えないから。
俺も心の奥底では神なんて信じていない。 それでも鍛え上げられたポーカーフェイスで己の心の底は必ず見せない。周りの人間全てが、神を信じ信仰する敵だ。そうずっと警戒し続ける。哀れみはある。幼く、純粋な幼児時代に、あの子達は徹底的に教えこまれるのだ。神のすばらしさ、神の絶対的存在、幼子は全てを吸収し成長する。そうなるとどうなるか。
それは神を信じないものが異端者となる。 俺みたいに、純粋すぎる心を持っていない人間に、神についてはちっとも響かなかったけれど。
蘇枋
今日もなんともない、ただの1日を過ごす。にっこりと嘘くさい笑顔を貼り付けて。人あたりの言いよう、色んな人に話しかける。自分は異端者じゃないと、君達と同じ思想の持ち主だと。
クラスメイト達は、蘇枋の顔をみるなり笑顔で話しかける。女子は頬を赤らめながら、男子は腕を肩にかけてきながら。 蘇枋は顔がいい。それは自分でもよくわかっている。自身の顔で、にっこり優しく女の子たちに笑いかけると、黄色い歓声が聞こえてくるほどだ。
蘇枋はその器用さ故に上手くこの世界に溶け込んでいた。神を信じ、神を崇め、称える。そんな面白みも何も無い世界に。
あぁ、また今日も髪を崇拝する時間が来る。この世界では毎朝神に祈りを捧げる。まるで協会のシスターにでもなったようだ。両手を合わせ、目を瞑る。 この暗闇を、神が照らすと、そう信じ、人々は祈りを捧げた。
何の変哲もない学校帰り。 鳥のさえずりを聞き、 当たりをうろつく野良猫を長め、 しっかりと整備された道を歩く。
その時に、出会ってしまったんだ。 自分の世界を、180度変えてしまう。そんな存在に。
蘇枋の歩く道は、 しっかりと整備された道以外に、まともに歩ける場所はない。 両側に木々や草が生い茂り、とてもじゃないがあるけそうにない場所だ。
そんな場所から、1人の青年が蘇枋の目の前に飛び出した。 坂上になった道を下るため、ジャンプしたのか、足が地面から浮いている。 時間が止まってしまったかと思った。 その綺麗な琥珀糖の様にキラキラと輝く左目に、黒曜石の様に深く黒い右目、その双眸と蘇枋の片目が眼帯で隠された赤い隻眼とがばちりと音が鳴ったかの様に目が合った。
蘇枋
スピードを出して走ってきた青年と、 危うくぶつかりそうになってまうが、既のところで2人して避けた。
慌てた様に青年は謝った。 あんな道がないような場所を走ってくるほどだ。息も少し荒いし、額には汗が滲んでいる。言われなくても急いでるんだなとは思った。
いや、今はそんなことどうでもいいか。 今1番気になるのは、蘇枋が目を奪われてしまうほどの、白と黒に別れた柔らかそうな髪に、先程目が合った両目で色の違う双眸。 神なんてちっとも信じていなかったが、 あぁ、彼が神か。なんてらしくもなく思ってしまった。
蘇枋
蘇枋
その見た目に反して、根はとても優しいのか、ぶつかりそうになってしまったことをずっと気にして、こちらを伺う様にみつめてきていた。 よく見ると、目はカラコンでは無さそうだ。髪も、染めているにしても少しもいたんでいないし、頭部の辺りが黒くなっていないことから、地毛のようだ。これは天然物だ。なんて気づくのに、そう時間はかからなかった。
蘇枋
蘇枋
先程までの態度はどこへやら。 威勢が良い返事に、蘇枋はにっこり優しい笑みをかえした。
白と黒の髪を持つ青年は、後ろを気にする様子を見せるが、何も無いことを確認してホッとした表情をみせた。 ポツリ小さく、追いかけてきてねぇか。 と、呟いたあと、時間が出来たのか何があったのか簡単に話してくれた。
蘇枋
もういい!!っと揶揄いすぎた所為か、名も知らない青年はここから立ち去ろうと蘇枋に背を向けた。
蘇枋
思わず掴んだのは制服の襟部分で、 ぐえっ、という潰れたカエルの様な声が聞こえてきた。
蘇枋
じたばたと暴れる青年の襟元を決して蘇枋は、離そうとしない。今ここで別れてしまえば、もうずっと、永遠に会えなくなってしまうと思ったから。
蘇枋の頑固さに観念したのか、 それとも首が限界を感じたのか、 名前を教えると言われ、手を離した蘇枋に、はぁ、と溜息をつきながらか首元を抑えていた。
蘇枋
蘇枋
肩や腕についてしまった草木を払ったあとに、青年は大きく息を吸い込んだ。
桜
桜遥君。この子が俺の神様か。 人々が神を信仰する理由が、少しわかった気がする。 ずっとずっと、この薄汚れた世界に未来を、前を見すえていて、誰よりも綺麗で輝かしい。
蘇枋
お近づきの印に、握手をと右手を桜へ差し出すが、辺りをすごい勢いで見回した後に、自分に人差し指を向け、俺?と不思議そうな顔をした。
蘇枋
彼の表情はとても豊かで、新鮮なものを見つめる小さな子供の様に可愛らしい。 まだ何も知らない、世界の醜さも、汚れた目もしていない
桜
蘇枋
蘇枋
桜
なにか恥ずかしいことでもあったのか、 桜の頬がほんのり赤く染まる。 唇をとんがらせて、 蘇枋から目線をはずした。 綺麗な瞳が自分を見てくれないのは少し残念だが、握手をしてくれただけでも良しとしよう。
蘇枋
桜
何に使うんだよ。と、ポッケからスマホを取りだし、無防備にも蘇枋に手渡した。 スマホをスクロールすると、パスワードを設定していないのか、すぐにロック画面からホーム画面へと、画面が切り替わった。
画面を見る限り、ゲームも入ってなければ、アプリをなにか入れた形跡すらない。 本当に持っているだけっぽい。 蘇枋は迷わず電話アプリを開き、 そこに自分の連絡先を登録した。 彼の連絡先には、天気と書かれた項目しか入っておらず、彼がどんな生活を送っているのか少し気になってしまう。
蘇枋
桜
蘇枋
蘇枋は逃がさないと、笑みを深くして桜に笑いかける。
蘇枋
桜
蘇枋
神様、そんなことをただの人間に言ってしまえば、きっと重い罪が待っている。絶対的存在である神を、人間と同じ品格だと言っているようなものだからだ。それでも、蘇枋はこの青年へこれが言いたかった。きっと彼も、髪を信じてはいないから。その瞳が、真っ直ぐで、少しもにごっていない瞳が、全てを証明しているから。
桜
蘇枋
このくすんだ世界に神という存在がいるのなら、それはきっと、君のことだ。 俺はそれ以外信じない。 これが、彼との出会いだった。
蘇枋
桜
桜
蘇枋
少し薄暗路地裏に、 頬に赤い返り血を付けた桜が、 ちょうど喧嘩が終わったところに声をかけてきた蘇枋の方へ振り返った。 危ないから近寄るな。と何度注意しても、それを聞きいれられたことは1度もない。
蘇枋
桜
何度も言うがこの世界は神中心の世界。そこにいる異端者がどうなるのか。 それは想像を絶するほどひどい仕打ちが待っているだろう。 きっと彼が喧嘩をした理由は、異端者を助けるためだろう。だが辺りにはそれらしき人物はいない。桜をお取りにでもして逃げたのか。
桜
蘇枋個人としては、桜がこうして異端者を助けたと知られれば、彼もひどい仕打ちをされるだろう。だからこういうことは控えて欲しいのだが、俺の神様はこれくらいで止まってくれる程無慈悲ではなかった。
蘇枋
自分の神を崇める様、蘇枋は桜を全肯定する。桜が何をしても、蘇枋は桜が絶対的存在だからだ。
桜
蘇枋
桜
彼と関わるうちに、何となくわかったことがある。彼が世間を何も知らないのは、 神を信仰していないのは、その見た目ゆえ、育児放棄をされていたからだ。 この世界は異端者を嫌う傾向があるから。神に背いていなくとも、その見た目ゆえ、彼は人から避けられて生きてきたのだろう。異端者へと罰はないものの、彼の中では、これはきっと、大きな罰となっていただろう。
蘇枋
桜
好きだよ。尊敬する人として。自分の生きる意味として、彼の表情も、行動も、全て。
蘇枋
頬を赤く染める桜から目を離し、床に転がる人の山を見つめる。
桜
桜
コソコソするのはダサいと思っているが、 ただでさえ桜の容姿は目立つ。桜が喧嘩した相手が告げ口をすれば、1発でアウトだろう。 だから自分の姿を見られぬ様、桜なるべく自分の姿が見えにくい場所から敵を狙う。 それでも喧嘩が終わったあとは、やっぱり不服なのか、少し悔しそうな顔をする。
蘇枋
蘇枋
桜
彼が居なくなれば、自分はきっと生きては行けない。 だから俺は違うんだ。俺だけの神を、絶対に守り抜くって。なにがあっても、ぜったいに。
蘇枋
桜
ねぇ、ほら、桜君、言ったでしょ。俺が必ず君を守るって。だからお願い。そんな顔しないでよ。
君が笑ってれば俺はそれでいいんだ
蘇枋
大勢の鋭く冷たい目線に見つめられながら、蘇枋はボロボロになってもただ一点をみつめる。 崇拝する、ただ一人の人間を。
処刑台へ立たされた蘇枋は、 心残りなんてひとつも無い。
桜のやっていることがバレた。 処刑されず、生き残っている異端者を助けて回っている者がいると。 姿は見られていないみたいだが、 純粋で、嘘をつくのが苦手な桜のことだ。 聞かれてしまえばすぐにぼろが出るだろう。
だからその前に、誰よりも早く、自分が手を挙げた。 「おれがやりました。」 そう挙手をして席を立つ。
異端者を助け続けるなど、継続して神を裏切っているも同然。この世界ではすごい重罪だ。 存在がバレてしまえば即死刑になってしまう。
俺がこうして殺されれば、彼は救助活動を辞めてくれるだろうか。 いや、きっとそれはないな。 彼はだれよりも、ずっと優しいから。 俺のために、唇を高くかみ締め、目から溢れるものを見られぬよう下に俯いている。
重罪人、神に背くものを殺す。 俺の処刑に目を向けるものは、1人を除き歓喜に溢れている。
あぁ、この首に刃が落ちるまであの少しの猶予しかない。彼に伝えたいことがあるが、声を出せば、彼との関係がバレてしまうかもしれない。ならば、
蘇枋
蘇枋の唇がゆっくりと動く。 それでもあの優しくて、落ち着いた声を出さずに。唇だけが言葉を形どっていく。
ある一人を除き、観客達は、天を見上げ、手を合わせながら、神へ犯罪者である俺を見つけたと祈りを捧げる。 そして見られていたとしても、この言葉の意味に気づくのは彼だけだ。
1人の青年の首へ、 ぎらりと鈍く光る刃が突き刺さった。
喜びに満ちた人達が、 犯罪者をまた一人減らせたと嬉々として、この場を去っていく。
ただ一人、桜だけをとりのがして。
桜
全部桜が勝手にして、勝手に処刑されるはずだった。なのになんで、 どうして、彼が殺されてしまったのだろうか。
桜
蘇枋は、少しも桜自身を、見てはくれなかったけれど。桜は、蘇枋の優しさが、声が、優しく微笑んでくれるあの顔が、全部が好きだった。
最後まで、蘇枋は桜の事を神として見ていた。
なにがどうして、そうなって、蘇枋に桜がどう見えていたのかは分からないけれど、 自分を好きな人に見て貰えないというのは、こんなに悲しいんだなって、恋をして初めて気づいた。
あぁ、神様、もしいるならば、 自分の好きな人を、 好きな人の心を、返してください。
俺にください。
そう願ってみたけれど、桜は神を信じない。
だって、自分の好きな人の身も心も、一生自分へ返ってくることはないのだから。
『初めまして、俺の神様。』
コメント
5件
タイトルの意味としては30秒で考えたのでそこまで深くはないのですが、 『』が2重なので2人が喋っている意味が含まれています。 蘇枋くんが初めて桜くん似合った場面。そしてもう1つ、それは描かれていないんですが、桜くんは神信じていません。それは好きな人を返してはくれないから。なら、もし、好きな人と会えたのなら。天国か、はたまた地獄で再会できたとすれば、はじめて神を、その時だけは信じるかもですね😌
🫖←🌸のすおさくです。 急いで書いたので、出来栄えが悪いかもです🙇🏻♀️ この世界線は、神を絶対的存在としている世界での、すこしふしぎのお話です。 慣れない新バージョンで書いたので、どこかオカシイところ、気になる点があったらご指摘お願いします。そして新バージョン、幕吏すぎじゃないですか……作品保存ができないのと、タイトルに濁点が付けられないというバグが起きています。(続きます)