テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
蘭side
奈唯心くんは公園のベンチに座り 野良猫が戯れあってるのを眺めていた
その穏やかな横顔に少しだけ緊張が 解けたのか自然と明るい声が出た。
桃瀬らん
乾ないこ
慌ててベンチから立ち上がった 奈唯心くんは申し訳なさそうに眉を下げた。
乾ないこ
桃瀬らん
ドクンと心臓が跳ねるのを感じながら 私はぎこちなく頷く。
乾ないこ
乾ないこ
何と答えていいか分からずやはり 黙って首を動かすしかない。
威榴真と奈唯心くんがお互いに 距離をとっているのは明らかだった。
以前から特に親しかった訳では ないけど私を交えて3人で 漫画について話す時は普通に 冗談も飛び交っていた。
それがあの夏の日を境に一変し 今ではクラスメイトとしての会話を しているのかも怪しいくらいだ。
桃瀬らん
桃瀬らん
きっかけがあれば元通りになれると 続けようとして思わず口をつぐむ。
こちらを見つめる奈唯心くんの 瞳が悲しげに揺れていたからだ。
傷付けるようなことを 言ってしまっただろうかだと 考えるが一向に思い当たらない。
戸惑う視線を投げかけると 奈唯心くんは何か呟いた。
乾ないこ
桃瀬らん
乾ないこ
乾ないこ
奈唯心くんの瞳から悲しげな色は消え 今は真剣な光が宿っていた。
深呼吸すれば頭の中が 整理されていく。
桃瀬らん
脳裏に真っ正面から ぶつかってきてくれた 恋醒のことが浮かんでくる。
彼女と比べると肩透かしを 食らったような気分にさえなる。
桃瀬らん
乾ないこ
言葉が続かなくなり奈唯心くんは ついに項垂れてしまう。
しょんぼりと肩を落とした 姿を眺めるうち私の口から 思いがけない言葉が溢れた。
桃瀬らん
自分の方から出たにも関わらず 私は「えっ」と目を見張った。
言われた奈唯心くんも顔をあげ 不思議そうにこちらを見ている。
桃瀬らん
桃瀬らん
頭の中でぐるぐると考えていると 不意に答えに行き着いた。
告白ではなく予行練習をした蘭。
本音を隠し仮定の話で相手の気持ちを 聞き出そうとする奈唯心くん。
2人に共通するのは相手に正面から ぶつかる勇気が足りなかったこと。
そしてそれを誤魔化そうと していることだ。
桃瀬らん
そう前置きして私は 見つけたばかりの答えを口にする。
桃瀬らん
桃瀬らん
奈唯心くんは瞬きも忘れ じっとこちらの話に耳を 傾けてくれている。
その様子に励まされるようにして 私は自分の胸の内を曝け出す。
桃瀬らん
桃瀬らん
桃瀬らん
こうやって言葉にすることで しまい込んでいた本音が 姿を現していく。
鍵をかけていた箱の底に 残っていたのは意外なことに 一筋の光だった。
桃瀬らん
桃瀬らん
桃瀬らん
入賞出来なかったと聞いたとき 作品が評価されなくて 悲しいとは思わなかった。
やっぱり自分はダメなのかと 落胆しただけだ。
コンクールに挑戦したのも結局は 誰からも凄いと言われる 絶対的なものが欲しかった だけなのだろう。
乾ないこ
凪いだ海のように 酷く静かな声だった。
いままでの奈唯心くんのように 一方的に私のことを探ろうとする 雰囲気は感じられない。
純粋に知りたいと そう思ってくれているのが 伝わってきた。
人差し指を唇に当て 私はふわっと笑いかける。
桃瀬らん
桃瀬らん
乾ないこ
奈唯心くんは言葉を選びながら 最後には笑って見せてくれた。
私も頷き返し 生まれたばかりの夢を口にする。
桃瀬らん