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蘭side
急がず、丁寧に。
呪文のように口の中で唱えながら 私は一心不乱に手を動かし続ける。
やがて短針と長針が 重なる音と同時に手にしていた トーンカッターを手放した。
桃瀬らん
よくやく全ての作業を終え ベッドに倒れ込む。
肩も腕も連日の酷使に悲鳴を 上げているが開放感を前にしては 痛みも霞むらしい。
疲労感さえ不思議と心地よく 感じるほどだった。
首だけ動かし壁にかかっている 時計を見やる。
感覚では12時くらいかと 思っていたけれど予想よりも 更に2時間回っていた。
桃瀬らん
時間の速さに驚きつつ 自分の集中力に感動する。
本当にやりたいことをやって 自分に自信をつける。
そう心に誓ったものの実行に移すのは 思っていた以上に大変だった。
こうして完走することが出来たのは 美琴や恋醒、そして奈唯心くんの 応援があったからだ。
特に奈唯心くんには実際に 原稿を読んでもらっていた。
普段から漫画を読み込んでいる だけあってアドバイスは どれも的確だった。
何よりまるで自分のことのように 親身になって励まし続けてくれた ことでへこたれずに描き抜くことが 出来たのだと思っている。
桃瀬らん
どうやって報告しようかと考えながら 脳裏にもう1人の顔が浮かぶ。
桃瀬らん
放課後の教室で私が予行練習に 付き合ったのはコンクールの 結果発表前日だったから 既に2週間が経過している。
10月も残り数日となった今でも 澄絺が誰かに告白をした 様子はなかった。
桃瀬らん
練習とはいえこんなに 勇気が必要だったのかと 驚いていた幼馴染の顔を思い出すと もしかしたら最後の一歩が 踏み出せずにいる可能性も 捨てがたかった。
桃瀬らん
そうなれば感謝されて少しは 扱いも良くなるだろうか。
いや、「ありがとね」と 苦笑されるのがオチだ。
一向にクールダウンしない頭には 取り留めのないことばかり 思い浮かんでくるらしい。
私はブランケットの上を転がり うつ伏せから仰向けの体勢になる。
桃瀬らん
何だか無性に気になって そっと窓際に駆け寄った。
物音に注意しながらカーテンを開け 向かいの家の様子を窺う。
威榴真はまだ勉強しているらしく 2階の角部屋からは 仄かに灯りがもれていた。
桃瀬らん
以前ならLINEでそう 伝えたところだが今は 1人で呟くだけだ。
夏の一件で生まれた見えない壁は 未だに2人の間に聳え立っていた。
桃瀬らん
見えない壁を蹴り倒し威榴真の 顔を見に行くと決めていた。
そして予行練習ではなく 今度こそ告白するのだ。
桃瀬らん
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