テラーノベルの小説コンテスト第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

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第1話 - あ

2023年10月08日

#スカッと

タナカトシキ

アユム

お前にはがっかりしたよ、チヨ

チヨ

え、どうして？私何かした？

アユム

わからないのかよ。まさかお前の姉が、水商売をしてたなんてな

チヨ

えぇ。確かにそういう仕事をしてるけど…

アユム

まったく騙されたよ。両親を事故で亡くし、進学を諦めて働きながら年の離れた妹を育てた姉、

アユム

という所だけ聞いて立派な人物だと思い、お前にも同情して結婚してやることにしたのに、

アユム

まさかその仕事が水商売なんてな

チヨ

黙ってたのはごめんなさい

チヨ

だけど、お姉ちゃんは高卒で働いて、私を大学まで出してくれたの

チヨ

それを恥ずかしいなんて思ってないよ。だから、職業で差別しないでほしい

アユム

綺麗事言ってんじゃねぇよ

アユム

じゃあ何で黙ってた。水商売に就く姉を恥ずかしいと思ってたからなんじゃないのか？

チヨ

そんなこと…

アユム

水商売が恥ずかしくないなら、お前も水商売で働いて平気なのか？

アユム

自分の子供を水商売で働かせて平気なのかよ

チヨ

それとこれとは別じゃない！

アユム

ほらな、結局それが答えだ

アユム

勿論俺だって、お前や自分の身内に水商売で働いてほしくなんかない

アユム

水商売は恥ずかしい。汚れた底辺の仕事。これが世間一般の考えだ

チヨ

そんな…

アユム

それだけに言い出しにくかったのはわかるよ。だからチヨのことも許そう

アユム

だけど、婚約破棄されたくないなら、姉とは縁を切れよ

チヨ

え？そんな、どうして？

アユム

決まってるじゃないか。水商売女と身内になるなんて、

アユム

まっぴらごめんなんだよ。うちの家柄や会社に傷がつく

チヨ

酷い…お姉ちゃんは自分を犠牲にして私を育ててくれた、大事な家族なんだよ

チヨ

絶縁するなんてできない！

アユム

あのさぁ、ここは賢く損得で判断しろよ

チヨ

損得？

アユム

そう。水商売の姉なんかといつまでも仲良くしてたら、

アユム

お前だって同類の水商売女だと思われるんだぞ

アユム

そうなったらまともな奴は結婚なんかしてくれない

アユム

まして、社長息子で次期社長の、俺みたいな好条件の男が

アユム

結婚してくれるチャンスなんて二度と訪れないんだぞ

チヨ

だけど…

アユム

ま、せいぜい考えな

アユム

社長としては、切るべき人間を切ることも大事なんだ

アユム

社長夫人になるつもりなら、わかってもらわないと困る

アユム

チヨが正しい判断のできる女だと信じてるよ

～数日後～

コヨミ

チヨ、なんだか思い悩んでるみたいだけどどうしたの？

コヨミ

アユムさんと婚約が決まったはずだけど、上手くいってないの？

コヨミ

何でもお姉ちゃんに話してみて

チヨ

実は…アユムさん、結婚してほしければお姉ちゃんと縁を切れって

コヨミ

えぇっ！？私、何か失礼なことしたかしら？

チヨ

お姉ちゃんは悪くないよ！

チヨ

ただ…

コヨミ

もしかして、私が水商売をしているから？

チヨ

うん…彼、水商売に凄く偏見があるみたい。どうにかわかってもらいたいんだけど…

コヨミ

そう…アユムさんは社長息子だし、立派な家柄だものね

コヨミ

いいよ、絶縁しても

チヨ

えっ！？

チヨ

そんなあっさり…お姉ちゃんわかってるの！？絶縁の意味！！

コヨミ

わかってるわ。私だって悲しいし寂しい

コヨミ

だけどね、私はずーっと、チヨの幸せのためを思って生きてきたの

コヨミ

せっかくチヨが社長息子の御曹司と結婚が決まって喜んでたのに、

コヨミ

私の存在のせいでチヨの幸せが妨げられることになったら、こんなに悲しいことはないわ

チヨ

そんな…嫌だよそんなの絶対に！

チヨ

お姉ちゃんと絶縁して、それを喜ぶ人と結婚して、幸せになんかなれない！

コヨミ

チヨ、でも…

チヨ

本当はね、アユムさんと結婚しようとしたの、お姉ちゃんの為でもあるんだ

コヨミ

え？

チヨ

アユムさん自身を愛していたのもあったよ。でもね、

チヨ

お金持ちの人と結婚して、結婚後も働いて、

チヨ

お姉ちゃんに沢山仕送りしてあげられたら、

チヨ

お姉ちゃんももう頑張って働かなくて良くなるし、

チヨ

水商売だって辞められるかもしれないって思ったの

コヨミ

チヨ…

チヨ

お姉ちゃんはずっと私のために自分の人生を犠牲にしてきたから、

チヨ

これからは楽をさせてあげたかったし、自分の人生を生きてほしかったの

チヨ

なのに、絶縁しちゃったら意味ないよ…

コヨミ

バカねぇ、チヨ

コヨミ

私は自分の人生が犠牲になったなんて思ってないし、

コヨミ

水商売の仕事だって、やめたいと思ってないよ

コヨミ

だってこの仕事について、チヨを育ててあげられたんだもの

コヨミ

誰が何と言おうと、私はこの仕事に誇りを持ってるよ

チヨ

お姉ちゃん…

コヨミ

それに、私チヨの仕送りがなくたって十分に稼いでるよ

コヨミ

だから心配しないで

チヨ

うん…ごめんねお姉ちゃん

チヨ

私もう悩まないから

～翌日～

チヨ

アユムさん、私どうするか決めたよ

アユム

やっと決まったか

アユム

勿論、俺と結婚するために姉と絶縁するんだろうな

チヨ

私、あなたとは結婚しない

アユム

へ？

チヨ

誰が何と言おうと、私は優しいお姉ちゃんを誇りに思ってるの

チヨ

それを職業で差別する人とは価値観が合わないし、愛せない

チヨ

アユムさん自身を愛せないのにお金や地位目当てで結婚するのは、

チヨ

それこそアユムさんに失礼だもの

チヨ

だから、あなたとは結婚できない。ごめんなさい

アユム

なんだよそれ…チヨは俺より、水商売女なんかを選ぶのかよ！

アユム

ふざけんな！そんな女のためにこの俺を振るなんて…！

チヨ

やめて！これ以上お姉ちゃんを侮辱しないで！

アユム

ふん、お前は正しい判断ができる女だと思ってたのに…

チヨ

私はこれを、正しい判断だと思ってるよ

アユム

笑わせる。お前も所詮、水商売女と姉妹なだけあって同類なんだな

アユム

情に流されて、せっかくのビッグチャンスを不意にするなんて、とことんバカな女だよ

アユム

お前はこの先、碌な奴と結婚できないだろうな

アユム

お前には俺じゃなくて、水商売女にホイホイ誘われるような

アユム

底辺男がお似合いだよｗ

チヨ

酷い、そんな言い方…

アユム

いいか？俺は次期社長なんだ

アユム

そうなったら俺次第で、いつでもお前をクビに出来る

アユム

そしたらお前はどうなるかな？ｗ

アユム

姉と同じ、水商売で稼ぐしかなくなるかもなぁｗｗ

チヨ

酷いよ！こんな人と結婚しなくて良かった…

アユム

おいおいなんだよそれｗいいじゃないか。大好きなお姉ちゃんと一緒に働けるんだからｗ

チヨ

これで私達、終わりね

チヨ

でもある人が、アユムさんと話したがってるよ

アユム

へ？

（【トモ】が追加されました）

トモ

アユム、お前には失望した

アユム

げっ！父さん…！？

アユム

おい、なんで社長である父さんのLINEなんか追加するんだよ！！

トモ

実は俺は、チヨさんのお姉さん、コヨミさんの上客でもあったんだ

トモ

この度は息子の無礼をチヨさんとコヨミさんに謝罪しに来たんだよ

アユム

えっ、嘘だろ…

トモ

水商売女にホイホイ誘われる底辺男で悪かったな

アユム

べ、別にそんなつもりで言ったんじゃ…

トモ

まぁ、水商売とはいっても大人の社交場でもあるんだがね

トモ

母さんを連れてきたこともあったし、コヨミさんは母さんとも顔見知りだぞ

アユム

母さんまで…？

トモ

お前は何も知らなかったんだな

アユム

で、でもなんだかんだいって、水商売女と親戚になるなんて嫌だろ！

アユム

事実として、世間にそういう目で見られる職業なんだ！

トモ

世間？

トモ

コヨミさんの職業を恥ずかしいもの扱いしているのは、世間ではなくお前だろう

トモ

親戚になるのが嫌なのは、他でもないお前だろう

アユム

違う！俺は常識的なことを言ってるんだ！

トモ

お前が水商売にどんな偏見を持っていようがいい

トモ

だが、愛する人を育ててくれた人を尊重できなくてどうする

トモ

ましてや、大事な家族と簡単に絶縁するよう迫るなんて…

トモ

その上、自分の思い通りにならなかったからといって、

トモ

婚約者だったチヨさんを脅し、侮辱するなんて…

トモ

お前をそんな風に育てたことが何より、俺は恥ずかしい

アユム

な、なんだよ！俺は次期社長だぞ！！

アユム

引退間近の老いぼれは引っ込んでろ！！

トモ

引退間近？俺はまだまだ社長を続けるが

トモ

それに、お前を次期社長の候補から外すことに決まった

アユム

へ？

アユム

おい嘘だろ…こんなことでか！？

アユム

俺が候補から外れたら、誰が次期社長になるんだよ！会社は終わりだぞ！

トモ

自惚れるな！！お前の代わりなどいくらでもいる！！

トモ

むしろお前は実力不足で社長の器ではないと前から思っていたよ

トモ

やはり世襲制には問題があったな。この際見直して、

トモ

適性のある社員を次期社長に選ぶことにするよ

アユム

そんな！俺は会社のイメージに傷がつかないようにやったのに！！

トモ

会社のイメージ？お前が個人的に水商売従事者を気に入らなかっただけだろう！

トモ

すり替えるな！！

アユム

ひっ…

トモ

確かに、社長としては切るべき人間を切ることも大事だ

トモ

だが、切るべきでない人間を見極め、厚遇することも必要なんだ

トモ

お前はその見極めを間違えたんだよ

トモ

だから、俺はお前を社長の器ではないとみなして、切ることにした

アユム

そんな…

アユム

わかった。チヨと結婚すりゃいいんだろ！

アユム

それで時期社長と認めてくれるんだろ！

アユム

おいチヨ！！水商売女と絶縁しなくていいから、結婚してやる！！

アユム

どうだ、嬉しいだろう！！

チヨ

やめて

チヨ

あなたという人が良く分かった

チヨ

こんな時ですら、その上から目線をやめないんだね

チヨ

あなたにはきっと、金や地位目当ての女しか寄ってこないでしょうね

チヨ

次期社長じゃなくなるんだから、そんな女すら寄ってくるかどうか…

アユム

ふざけんな！！この俺を見下しやがって！！

トモ

チヨさんと結婚したら次期社長と認められる？

トモ

そういう問題じゃないんだよ

アユム

じゃあどうすりゃいいんだよ！！

トモ

今まで社長息子、次期社長という地位がお前を付けあがらせてしまったんだな

トモ

だからもう、お前とは絶縁するよ。これからは一人の社員としてしか接しない

アユム

父さん、そんな！こんなことで実の息子を見捨てるのかよ！！

トモ

家族に絶縁されるのはつらいだろう。それが、お前がチヨさんに迫ったことだ

トモ

これからは御曹司でも次期社長でもない、お前自身として生きていきなさい

～後日談～

チヨ

その後、アユムさんが次期社長候補から外れたという事実は、

チヨ

その理由と共にあっという間に社内で広まり、

チヨ

アユムさんは社内で白い目で見られるようになりました

チヨ

そのせいか仕事でミスも増え、その度に容赦なく叱責されるようになり、

チヨ

プライドの高いアユムさんはそれに耐えきれず、

チヨ

自ら会社を辞めてしまいました

チヨ

しかし、社長息子としてのプライドの高さ、絶縁された噂が祟って、

チヨ

どこの会社にも中々雇ってもらえないのだそうです

チヨ

そしてなんと、お姉ちゃんが社長の計らいで、同じ会社で働くことになりました！

チヨ

お姉ちゃんは

チヨ

『水商売の仕事を恥じてはいなかったけど、年々指名が厳しくなっていたから丁度良かった』

チヨ

『こんな私を雇ってくださった社長には感謝しかない』と笑っています

チヨ

お姉ちゃんは会社で次々と成果を上げており、私も驚いています

チヨ

『大好きなお姉ちゃんと一緒に働ける』という彼の言葉は、

チヨ

結果として予言的中となりました（笑）

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タナカトシキ

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