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朝は、静かに始まる。
鳥のさえずりも、風が揺らす木の葉の音も、彼女にとっては少しだけ大きくて。
けれどその喧騒の中で、自分だけが取り残されている気がした。
柚
寝起きの声で呟いたあと、柚は小さく首を振った。
村から少し離れたベンチで、誰にも聞かれない声。
けれど彼女はいつも、そうやって自分に仕事を言い聞かせるようにして一日を始める。
広場に出れば、すでに科学王国の人たちがあちこちで作業をしていた。
「おーい!フランソワー!朝飯まだかーっ!?」
「コハク、そこの岩、もうちょい右に動かせる〜?」
元気な声、笑い声、忙しそうな足音。 その隙間を縫うように、柚は草木の小屋の隅で膝をついていた。
柚
柚
葉を一枚一枚比べ、においを嗅いで、仕分けをしていく。正確で丁寧なその手つきは誰もが認めるものだったけれど——
柚
つい、ぽつりと口癖が出る。
けれどその時だった。
クロム
振り返ると、遠くから手を振るクロム。 よく見ると、何やらガラクタを広げている。
クロム
クロム
柚
クロム
不意にかけられた言葉に、柚の胸が少しだけあたたかくなった。
手は震えていたけれど、足は、自然と彼らのほうへと向かっていた。
柚
柚の指先が、小さな歯車をつまむ。
クロム
クロムの声が響き、後ろでは銀狼が金狼から逃げている姿がちらっと見えた。
柚
クロムが嬉しそうに笑うと、柚は思わず視線を落とした。
クロム
柚
千空
突然、静かな声が割って入った。 振り向けば、そこには白衣姿の千空が立っていた。
その言葉に、柚はピクリと肩を揺らした。 すぐに、俯いて小さく頭を振る。
柚
千空
千空が不思議そうな声を出すのがわかった。
だけど顔を上げられない。 うれしい、なんて言えない。信じられない。自分なんか、ほめられる資格ない。
柚
千空は何も言わなかった。 だけどその沈黙が、なんだか痛かった。
柚
言いながら、胸の奥がギュッと締め付けられる。
せっかく褒めてもらえたのに、またこんなこと言ってる自分が嫌で、情けなくて、何もかも投げ出したくなる。
だけど——
千空
千空の声が静かに響いた。
千空
千空
千空
柚は目を見開いた
冷たい言葉。 だけど、その中に——どこか、柚を拒絶していない温度があった。
それでも、心はついていかない。
柚
柚
声が震えて、手元のネジがぽとりと落ちる。 拾おうとした手が止まった。
すると、千空が言った。
千空
柚
千空
千空
きっぱりと言い放った千空の言葉に、柚は何も言えなかった。
きっと、彼は励まそうとしてくれたんじゃない。 いや、そうかもしれないけど彼は、 ただ、事実を言っただけだった。
——でも、それが今の柚には、どんな言葉よりも、息がしやすくなる気がした。
けれど心は、まだその言葉を受け取るには遠すぎる。
柚は、そっと俯いたまま、小さく呟いた。
柚
それでも、その日も柚の手は、ネジを締め続けた。
“私なんて”と言いながらも——決して、手を止めたりはしなかった。