ふりむかないあの子(あの子とアイツ...)

つぎの休み時間。

あ〜あ、柴咲さんと話したいな......｡

となりで杉田さんがいろいろ話しかけてくれるんだけど、おれは柴崎さんのことが気になってしょうがない。

テキトーにあった話なんかをしてその場を盛りあげてると、

杉田さんが手をたたいて笑ってくれるから、おれはちょっと自信がつく。

おれの話で柴咲さんも笑ってくれないかな。

杉田さんがそう言ってくれるのも、うれしくないわけじゃないんだけど...｡

あれ......柴咲さん、今こっち見てた？

柴咲さんにはすぐに目をそらされたけど、そんなのヨユウ。おれはいつもみたいに手をふりながら、柴咲さんの席へとむかった。

でも、今日の柴咲さんはなんかちがう。

いつもならちょっとめんどくさそうでも、ちゃんとおれのこと見てくれるのに。なんか、ずっと下をむいたままだ。

もしかして、おれの顔を見るのもイヤとか？

柴咲さんにキツいカンジで、追い返されてしまった。

今日の柴咲さんは、かなりキゲンが悪いみたいだ。

それからすぐにチャイムが鳴ったから、おれは自分の席に戻ったけど、頭の中ではずっと柴咲さんのことを考えてた。

でも、柴咲さんのあんなたいど、今まで見たことない...｡

話すのも、目をあわすのさえもイヤなのかな。

おれのことさけてるのかな。

もしそうだったら、めちゃくちゃショックだな...｡

気になってしょうがなかったおれは、その日の放課後、柴咲さんにいっしょに帰ろうって誘ったんだ。でも、柴咲さんはおこったみたいに赤い顔してて。

心がズキッてした。

でも、それを柴咲さんに気づかれたくなくて、おれはいつもみたいに笑ったんだ。

そしたら、柴咲さんはにげるようにして教室を出て行った。

柴咲さん、おれだってへこむよ。これって本気でキライだってことだよね。

つぎの日から、おれは柴咲さんに話しかけるのをやめることにした。

だって、もうこれ以上きらわれるのはイヤだから...｡

だから目があっても、そこまで。そのあと、しつこく声をかけたりはしない。

ガマン、ガマン...｡うるさくするからきらわれるんだ。

杉田さんが楽しそうにしゃべってるけど、正直、なんの話をしてるのか頭にはいってこなかった。

返事も上の空になってしまうのは、気づくと柴咲さんのほうばかり見てるから。

なぜか杉田さんにバレてる。彼女は心配そうにおれの顔をのぞきこんできた。

そう言ってみたけど、あのときの柴咲さんを思いだすと、また心がズキッとする。

そんなことない。杉田さんには、柴咲さんのいいところがわからないんだ...｡

柴咲さんがじつはすごく優しい子だってこと、おれは知ってる。

問題がとけなかった子に休み時間を使って勉強を教えてあげたり、日直が消し忘れた黒板を、さり気なく消してあげたり。それからみんながめんどくさがる委員会の仕事だって、柴咲さんは自分から立候補してやってくれている。

いつもさり気なく、みんなを気づかってくれてるんだよね。

みんながそのことに気づいてないのは､柴咲さんが自分からそれをわざわざアピールしない子だからなんだ。

1度おれが日直だったときに「ありがとう」って伝えたことがあったんだけど、そしたら柴咲さん、すごくキラキラした笑顔を返してくれたんだ。

あのときの柴咲さんの笑顔、なぜか忘れられなくて...｡

それからおれは、毎日柴咲さんのことを目で追うようになった。するとさらに、あの子のさり気ない優しさを知るようになった。

見てるだけじゃガマンできなくなって、毎日柴咲さんに話しかけるようになってた。

バカなこと言って、あの子を笑わせられると「よっしゃ！」ってガッツポーズしたし。

ちゃんと柴咲さんのこと見てるやつがいるんだって伝えたくて、ついうるさくしてた。

でもさ...それもこれも全部、あの子にいつも笑っていてほしかっただけなんだ。