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カチカチカチ…
キーボードを叩く音が、 深夜の部屋に軽快に響く。
モニターの明かりだけが、 暗い部屋の中を照らしていた。
黒木馬 隼人
黒木馬 隼人
興奮気味に叫びながら、俺── くろきば はやとは、 画面に映る戦績を見てニヤつく。
プレイしているのは、 戦略型異世界ファンタジーゲーム──
《ノクティリス》
プレイヤーが“魔王”となり、自分の配下を各階層に配置して城を防衛しつつ、
他プレイヤーの城を攻め落とすというPvP中心の超高難度ゲームだ。
特筆すべきはその戦略性と個性的な配下キャラたち。
スピネル。アラクネという蜘蛛の魔物。 軍の情報網で戦闘スタイルは暗殺特化型。
アスフォデル。堕天使ラファエルの娘。 畏怖の戦姫。軍の絶対的戦力。戦闘スタイルはスピードと威力の特化型接近戦。
ルシエル。アスフォデルの双子の弟。 戦闘スタイルは、悲願の祈りと呪い系の精神魔法を使う。
そこで俺は【ヴィオレイア・ネラフィム】 通称【レイア】という ユーザーネームでプレイしている。
黒木馬 隼人
黒木馬 隼人
俺は彼らの動きひとつひとつを理解し尽くし、組み合わせ、 最適解を導き出してきた。
そして今、俺は この《ノクティリス》において、 俺はユーザーランキング1位の座を、 一年以上守り続けている。
黒木馬 隼人
歓喜の中、不意に通知音が鳴った。
画面右上に表示されたのは、 なんと運営からの“直メッセージ”。
ポチッと開くと、 メッセージにはこう書かれていた。
年間ユーザーランキング 連続1位おめでとうございます!
記念として“特別な贈り物”を BOXにお送りしました!
黒木馬 隼人
黒木馬 隼人
わくわくしながら俺は即座にゲーム内の プレゼントBOXを開く。
すると、そこには金色に光る 謎のアイコンがひとつだけ──
黒木馬 隼人
開封ボタンを押した瞬間、 画面が一瞬、白く染まった。
黒木馬 隼人
──貴方を
ノクティリス城の “主”として、認めます──
心臓の鼓動が、ドクン、と 一拍だけ重く跳ねる。
視界がぐにゃりと歪む。
黒木馬 隼人
黒木馬 隼人
世界が反転し、意識が、深く、深く、 闇に沈んでいった。
──気がつくと、 俺はベッドの上で寝ていた。
レイア
記憶が曖昧だ。
頭の奥に、まばゆい光と重い心臓の鼓動だけが残っている。
まるで深い水底に 引きずり込まれたような感覚──
ぼんやりとした意識をこすりながら、 ゆっくり身体を起こす。
レイア
レイア
見渡した景色は、 自分の部屋のものじゃなかった。
分厚い木の梁、装飾のある壁、 豪奢なカーテン…… どう見ても“洋館”だ。
レイア
レイア
レイア
驚いて飛び起きた瞬間、視界の隅に動く影
壁に掛けられた大きな鏡。
そこに映っていたのは──
長く、なめらかな白銀の髪。
切れ長の目元、紫に輝く瞳。
白磁のように整った顔立ちの、 美しすぎる女性。
レイア
見た瞬間、俺は反射的に叫んだ。
既視感のある姿。
レイア
レイア
そう、間違いない。
この顔、この髪、この瞳──
長年寄り添ってきた 自身のアバターそのものだった。
レイア
鏡に映るその姿が、俺の動きに合わせて同じように手を上げ、目を瞬かせる。
レイア
レイア
レイア
思考が混乱し、 焦燥と驚きだけが頭を埋め尽くしていく。
レイア
最後の記憶を辿る。
画面に浮かんだ、あの謎のメッセージ。
──貴方を、 ノクティリス城の“主”として、 認めます──
レイア
レイア
胸の奥が、ざらりと冷たくなる。
その時
──コン、コン。
レイア
びくりと身体が跳ねる。
部屋の扉が軽くノックされた。
俺は恐る恐る扉の方に視線を向けた。
ガチャ
ラメリス
ドアを開けて入ってきたのは、 羊の角を生やした、 元気なふわふわ金髪の少女だった。
レイア
ここが本当にノクティリスの 世界だとしたら……
レイア
思わず名前を口にすると、少女は小首をかしげてにっこりと笑った。
ラメリス
ラメリス。
《ノクティリス》の城の管理者で、ゲーム内でプレイヤーをサポートしてくれる“案内人”的なキャラだ。
レイア
ラメリス
ラメリス
レイア
何だかんだで俺は目が覚めてから、 流れの赴くままに行動した。
案内されたのは重々しくも、 アンティークな雰囲気を漂わせる広間。
長くて、やたら豪華な食卓テーブル。
椅子は整然と並んでいるのに、 座っているのは俺ひとり。
レイア
レイア
そんなことを考えながら、 俺は指定された席に腰を下ろした。
しばらくして、 ぬっと横から人影が現れる。
レイア
B
全身ぐるぐるに包帯を巻いた、 燕尾服姿の人物……
レイア
顔の半分下から体中を包帯で覆っていて、ただでさえ異様なのに動きは妙に滑らか。
そいつは無言のまま、俺の前に銀のドーム型の蓋が乗った皿を置く。
カチッ。
蓋の取っ手を持ち上げると、 中から、レア気味に仕上げられた 分厚いステーキが現れた。
レイア
背後から明るい声が飛んできた。
ラメリス
ラメリス
羊の角を揺らしながら、 にこにことラメリスが言う。
レイア
ラメリスの言い方が気になるも、俺は目の前の肉汁と食欲を刺激する香りに抗えずナイフとフォークを手に取った。
ステーキを一口サイズにカットして、 恐る恐る口に運ぶ。
肉の柔らかさと、香草のほのかな香りが鼻を抜けた瞬間──
レイア
口の中で肉汁が爆発する。
レイア
思わず素の声が漏れた。
じゅわっと口の中に溢れる肉汁。
俺は自他ともに認める“よく焼き派”だ。
焼肉屋では「そこまで焼く!?」と突っ込まれるほど、表面がカリカリになるまで焼かないと箸を伸ばさないタイプだった。
───そんな俺が。
レイア
レアステーキを、しかも得体の知れない異世界の肉を 「美味い」と感じているだなんて……。
戸惑いを隠しきれないまま、ナイフとフォークを持つ手が止まらない。
レイア
ラメリスは首を傾げ答える。
ラメリス
レイア
ラメリス
ラメリス
レイア
魔物の森やダンジョンに現れる 獣型モンスター──“マナデヴォウラー”。
ゲーム時代に、進化素材の1つとして使われていた“あの肉”。
倒すとごく稀にドロップする高級素材で、魔力を豊富に含んだその肉は、配下たちの限界突破に用いられる超希少な品だった。
俺もゲーム内では、配下たちを強化するためにこの肉を振る舞ったことがある。
レイア
レイア
レイア
実際にこの肉が、あの生きた“マナデヴォウラー”の一部だとわかっていたら…… 絶対に口にはしていなかった。
あの獣の、牙と目と、うねるような毛並み。何度も戦って、その姿を目にしている。あの肉体を自ら食べているだなんて、想像しただけで背筋がぞわっとする。
レイア
冷静さを保つため、深く息を吐いてナイフを再び手に取る。
俺はまだこの世界の住人じゃない。だけど、徐々に感覚が、この“異世界”に染まってきている気がした。