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え、え、え、え、え!? 最後のりゅうちゃんの言葉……。澪ちゃんのこと覚えてるってこと……?でも、何で!? 続き書いて欲しい……!!って思ったら連載だった……!?続き楽しみにしてるね✨
遠い遠い日のこと。
初めての家族旅行の日に
旅館で出会った 一人の男の子と交わした、
たった一つの、 小さな小さな約束。
そんな幼い頃の約束を 未だに覚えている私は
やっぱり、バカなんだろうな…
時は巡り、
私以外の友達は、 みんな彼氏が出来て
青春を謳歌していた 中学生時代。
修学旅行での 恋話トークで一人だけ、
私は周りのみんなに ついていけなくて。
初恋の相手を今もなお 一途に想い続けている私は
みんなの笑い者にされた。
「えーまだ想い続けてんの?」
「そんなんだから澪は 彼氏出来ないんだよ〜」
「いい加減諦めたら?」
次々と迫る言葉の刃に
私の心はズタズタに 引き裂かれた。
それでも。
どれだけ傷付こうと、私の心は何一つ変わらない。
『…澪。』
『気が向いたら、さ。』
『…また、おいで。』
『…好きだ。』
あの日の、その声は 今もまだ私の耳に残って_
離れない。
忘れられない。
…あぁ、会いたい。
どうしようもなく、 ただあなたに会いたい。
…そうだ。
「私が20歳になったら__」
明日が、約束の日。
明日は大学を休んで 君に会いに行く。
果たして彼は、私の事を 覚えているのだろうか__
期待と不安が複雑に絡み合い、
私の睡眠時間を次々と 奪って行く。
…中々寝付けないから、 不意に窓から外を眺めていた。
…その夜は、新月だった。
月が見えない代わりに、
小さな星々が 皆一生懸命に輝いていた。
翌朝。
夜明けの光が窓から入り込み、 私の瞼を照らす。
その強い眩しさに 私はふと、眼を覚ます。
昨夜は、夜空を 見上げているうちに
突然の睡魔に襲われて…
午前10時36分_____
目覚まし時計を見て、 思わず絶句した。
大切な約束の日なのに。
大遅刻、だ…。
私は急いで乱雑に 髪を櫛で梳かして、
さっと束ねてお気に入りの 紅い髪紐で結ぶ。
よし、準備は万端。
朝食は…時間がないから 今日は良いや。
「行ってきます。」
私しかいない部屋で、 寂しさを紛らわすために
透明人間に向かって言う、 毎日の挨拶。
もっとも、透明人間からの
「行ってらっしゃい。」
の挨拶は、私の耳には 届かないけれど。
手に入れた切符。
それは、君と会うために必要な チケットのようなもの。
電車はすでに満員。
私は仕方なく、近くにあった 手すりを掴んで
静かに窓から外を眺めていた。
…ここに来ると、懐かしい 思い出が何度も蘇る。
家族との思い出、
美味しかった料理の思い出。
そして_
旅館で迷子になった思い出、
そんな時、君が 助けてくれた思い出__
好きだった。
でも…。
君との距離は、遠かった。
会いたかった。
会えなかった。
…もどかしかった。
やがて電車が 君の居る街に着くと、
私の鼓動は どくどくと高鳴った。
この道をまっすぐ進めば、 君に会える_
たった一つの真実が、 私を強く走らせる。
呼吸が苦しくなる。
それでも私は走り続けた。
ただただ、走った。
はぁっ、はぁっ…
苦し紛れに呼吸をし、
私の足は一つの 古ぼけた旅館の前へ。
昔、君と来た 旅館の小さな桜の下。
…そこで今、一つの人影が 微かに、そっと動いた。
…私は覚悟を決めて、
呼吸を整えながら ゆっくりと彼に歩み寄った。
澪
澪
彼の声に、心臓が鋭く跳ねる。
澪
澪
彼は、驚いたように眼を瞬く。
りゅうちゃんは、私のことを 覚えているのかな?
そんな淡い期待は、次の瞬間で 一瞬にして崩れ落ちる。
澪
澪
え…?
りゅうちゃんは…。
…小学四年生で、事故に?
考えただけでヒヤッとする。
今、目の前に りゅうちゃんがいる。
それは、奇跡なんだって。
それは、当たり前のこと じゃなかったんだと感じた。
その時、風がひゅうっと吹き 彼の髪を靡かせる。
…その風で髪が揺れ、 隠れていた痛々しい傷跡が
突然浮き彫りとなる。
彼と私が出会ったのは確か、 小学四年生の夏。
…それなら、覚えていないのも 当たり前だ。
澪
澪
澪
『君は覚えて、 いなかった。』
痺れるほどの 安堵感に浸りながら
たった一つのその真実が
ぐるぐると頭の中を 巡って行くうちに
段々と体の力が抜けていって
ふらふらと身体が勝手に動いて
視界も、頭の中も、 真っ白になった。
最後の彼のその言葉は、
失神中の私の耳に 届くことはなかった。