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第四章 放課後
あの後、藤川君の顔は全く見られなかった。
放課後、私は1人、日誌に向かっていた。
ペン先が震えているのが分かる。
あまりにも震えているので、日誌の余白は全く埋まらない。
ただでさえ日誌を書くのが苦手なのに、こんな状態じゃいつまで経っても終わりが見えない。
ペンを置き、天を仰いだ。
あの時、言った瞬間、後悔はなかった。
でも今思い返せば、なぜあんなことを言ってしまったのか。
あんな大胆なことがよくできたものだと、悶え、叫びたくなった。
藤川
誰もいない放課後の教室に覚えのあるような声が響いた。
藤川君だった。
藤川君がそばにやってきて、近くのイスに座った。
私は何が起こっているのか、これは現実なのか夢の中なのか、理解が出来なかった。
思わずメガネを外した。
藤川
藤川君は私の顔をのぞき込み、笑いながら言う。
友菜
藤川
私は顔を上げた。
藤川君の顔が思いの外、近くにあった。
これだけ近いと、いくら視力が悪くても、顔立ちがよく分かる。
恥ずかしさで、ちょっと泣きそうだった。
友菜
私はまた目を伏せた。
藤川
友菜
自分の声が震えているのがよく分かった。
友菜
藤川
友菜
藤川君は大きく息を吸い、そして吐いた。
藤川
友菜
藤川
私は何も言えなかったし、顔を上げることができなかった。
藤川
藤川君の声も微かに震えていた。
先生
職員室に日誌を持っていくと、担任の先生はそう言った。
先生は日誌をパラパラとめくり、「でも、時間をかけたせいか、よく書けているな」と言った。
友菜
先生の言う通りだという自覚があった。
今日の日誌には素敵な言葉や表現が溢れていると思うし、最後に書き込んだ日付には、いつも以上に力が入っていた。
特別な日になったから。
日誌を提出し、校門を出ると藤川君が待っていてくれた。
私たちは散り散りになった桜並木を、並んで歩いていた。
閑散とした桜並木のように、二人の間にも会話はなかった。
普段は饒舌な藤川君も、恥ずかしそうに、上を向いたりするばかりだった。
間が持たないな…
私がまたメガネを外そうとすると、藤川君が
藤川
と笑った。
それでも私はメガネを外した。
藤川
と藤川君はため息を漏らした。
友菜
藤川
友菜
藤川
私は藤川君の親指をそっと握った。
友菜
藤川君は何も言わなかった。
何も言わず、ゆっくりと私の手を握り返し、緑色に変わった桜並木を照れくさそうに見上げていた。
END…