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1
すず
2,230
どれくらい経ったのか分からない頃
下の階から誰かの笑い声が響いた
現実の音
〇〇はゆっくり瞬きをする
踊り場の鏡に目が入る
そこに映る自分の顔
いつものメイクに表情
でも
少しだけ硬い
○○
何もなかったみたいに、階段を降り始める
一段
また一段と
日常に戻るみたいに
階段を降りきったところで
菅原
菅原
聞きなれた声
○○
菅原がたっていた
菅原
○○
○○
手に持ったペンを軽く見せる
菅原
○○
菅原
菅原
菅原
○○
菅原
菅原
菅原
○○
菅原
○○
菅原
少しの沈黙
並んで歩く足音
菅原はふと横を見る
菅原
○○
即答
○○
○○
くるっと腕を曲げて力こぶを作る
○○
○○
菅原
○○
菅原
〇〇は笑う
軽く
軽く
菅原は少しだけ間を置いて言う
菅原
菅原
○○
被せるように言う
○○
○○
菅原
○○は顎に手を当て、考えるふり
○○
○○
菅原
〇〇は声を上げて笑う
○○
菅原
○○
菅原
笑いながら、○○は後ろ向きに手を振る
○○
菅原
○○
軽やかに去っていく背中
菅原はそれを見送りながら
少し心配そうな顔をした
菅原
菅原
小さく呟く声は
〇〇には届かなかった
2人とご飯を食べて別れたあと
〇〇は電車に揺られていた
つり革が揺れる。
窓に映る自分の顔
車内アナウンス
ぼんやりと流れる景色
次の駅でドアが開いた瞬間
ホームの広告が目に入る
大きなポスター
洗礼されなモノトーン
静かな眼差し
そこに写っているのは
佐上恭弥
雑誌のビジュアル
俳優の顔
学校で見た姿とは違う
「作品」のような
そんな存在
〇〇は視線を止める
そしてすぐ逸らす
電車は静かに走り出す
胸の奥にあるザラつきを
言葉にすることはない
家の前
玄関の灯りが付いている
○○
靴は1足多い
〇〇は小さく息を吐く
こういう日に限って帰ってくるとか
タイミング悪すぎ...
静かにドアを開ける
キッチンから食器の触れる音
父親が振り向く
一瞬目が合う
何も言わない
食卓には湯気の残る皿
オムライス
〇〇の好物
父が口を開く
悠仁
悠仁
○○
悠仁
そう言って父はオムライスを下げた
○○
○○
それだけ言って、○○は廊下を歩く
足音だけが響く
父も何も言わない
〇〇も振り返らない
部屋のドアを閉め
ベッドに倒れ込む
天井を見つめてさっきのポスターを思い出す
全部が混ざって
自分を離さない
父と上手く話せなくなった理由
あれは中学二年生の頃だった
祖母の葬式の日
線香の匂いと
音が漂う控え室で
〇〇は一人別室に立っていた
襖の向こうから
親戚たちの声が聞こえた
時間が止まった
自分のことを言っていると
理解するまでに時間がかかった
胸の奥がぞわりと粟立つ
それ以降の会話は聞こえなかった
その夜、○○は震える指で名前を検索した
表示された人物
息が止まる
輪郭
目元
笑った時の口元
鏡の中の自分と似ている
さらに調べていくうちに辿り着いた名前
神楽凛
彼女が自分の母親だった
○○は、不倫でできた子供だった
父との間にできたが
出産直後に恭弥の父に知られ
騒ぎが大きくなる前に金で揉み消された
そして○○は、今の父に引き取られた
望まれてはいない
押し付けられるかのように
それが
現実だった
それ以前から、○○は絵を描くのが好きだった
服のデザインを考える時間が、何より楽しかった
だが
母があの人だと知った瞬間
自分の好きなことさえ
借り物に見えてしまった
その夜
父に問いただした
○○
父は静かに答えた
悠仁
悠仁
○○
声が震えた
○○
○○
○○
悠仁
○○
言葉が喉につまる
○○
○○
父は何も言わなかった
その沈黙が、答えのように感じた
それ以来、二人の間に会話はほとんどなくなった
父は海外出張が増え
高校に入る頃には
ほとんど家に帰ってこなくなっていた
広い家に1人
誰かがいなくなることにも
最初からいないことにも
慣れていった
期待しなければ、傷つかない
踏み込まなければ、失わない
近づきすぎず、深入りもしない
困ったら笑って誤魔化す
それが当たり前になっていた
だから恋愛も同じだった
好きになりすぎない
依存しない
終わってもいい様に
距離を保つ
今までが本気じゃない訳ではなく
本気にならないようにしていた
それを自分を守る
1番の方法だってわかっているから
そして今
久しぶりに帰宅した日に
佐上恭弥が現れた
タイミングが悪い
考え終わった頃には
夜中の3時を迎えていた
言おう
父に、佐上恭弥が同じクラスに来たことを
その事実を、自分の口で
○○はゆっくりと部屋を出て
寝室の扉をそっと開けた
暗い室内
規則正しい寝息
父は既に眠っていた
少しだけ立ち尽くした
○○
○○
扉を静かに閉めた
翌朝
食卓は整ったまま、手つかずで
人の気配はなかった
玄関に父の靴はない
○○はしばらく立ったまま
何もない空間を見つめる
○○
○○
○○
そう言い聞かせるように呟いて
オムライスを電子レンジに入れた
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