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瑠花
そう言って笑う瑠花の声は、朝の食堂に花を咲かせるように響いた。
柔らかな白銀の髪が揺れ、瞳の奥に浮かぶ虹色が、どこか儚くも美しい。
輝
輝は優しく微笑みながら、彼女の横に腰を下ろす。
目立つその姿に、周囲の視線が集まるのはいつものことだった
寮の食堂は、朝のざわめきに包まれている。
皿の音、会話、笑い声――すべてが「平和な日常」の音だった。
でも、輝にとっては違う。
──内臓が、焼けるように痛む。
瑠花
輝
瑠花
妹の無邪気な笑顔に、胸が締め付けられる。
──守らなきゃ。
この子だけは、絶対に守り切る。
輝
胃の奥からこみ上げる鈍痛。目の奥の重さ。
昨夜は、結局3回吐いた。薬も効かなくなってきている。
それでも、食べる。
笑顔で「美味しい」と言う。
輝
瑠花
本当は、味なんてわからない。
喉を通すたびに、吐き気を抑えるのが精一杯だった。
午前の授業中。
黒板の文字が霞んで見える。ペンを持つ手が微かに震える。
生徒A
生徒B
輝
輝は表情を変えず、いつも通りノートを取り続けた。
講師の声は遠く、耳鳴りがしていた。
輝
ポケットに忍ばせた胃薬をこっそり口に含み、水なしで飲み下す。
それでも、吐き気はおさまらなかった。
昼休み、生徒会室。
窓際に座りながら、輝はパソコンで予算書を打ち込んでいた。
生徒会長の指示で、文化祭関連の経費を見直す作業だ。
生徒会長
輝
生徒会長
輝
輝
輝はすぐに微笑みを作った。完璧な、演技。
生徒会長
輝
輝
――吐き気が、襲う。
輝
生徒会長
階段裏。人気のない場所。
しゃがみ込み、喉を押さえ、輝はまた吐いた。
――ゲホッ、カハッ、ビチャ……!
胃液が地面に広がり、喉が焼けるように熱い。
視界が揺れ、耳鳴りがして、思考が断絶しそうになる。
輝
ふと、妹の笑顔が浮かぶ。耀のあの無邪気な笑い声も。
輝
輝はふらつく足で立ち上がり、 ポケットからミントガムを取り出して口に含む。
吐いた後の口臭と苦味を誤魔化すための、いつもの習慣。
放課後。
輝
耀
そう言って笑う弟の声は、本当に希望に満ちていた。
輝はその眩しさに、ほんの少しだけ、心が救われるのを感じた。
輝
耀
それだけで、今夜も吐いて、泣いて、耐える意味ができる。
夜、寮の部屋。
シャワーの音が止み、瑠花が髪を拭きながら部屋に戻ってくる。
瑠花
輝
瑠花
輝
瑠花
彼女が寝静まった後、輝は音を立てないようにトイレへ向かった。
ドアを静かに閉め、便器に手をつく。
輝
喉に指を入れる。何度も、何度も。
ゲホッ、ビチャッ……!
胃の中をすべて吐き出すようにして、輝は膝を抱えて座り込んだ。
胸が締めつけられるように痛い。
涙が、頬を伝う。
輝
──全部、守れなかった。
それでもまだ、仮面を被り続ける。
誰にも見せないまま、夜桜輝の「優等生」は、明日も生きる。