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瑠花
瑠花が笑顔で手を伸ばしてくる。
その横で耀も嬉しそうに拳を握っていた。
耀
輝
耀
──その笑顔が、今の輝には一番の薬だった。
外出申請はすでに通してある。
制服のままではなく、私服で並んで歩く兄妹三人。
夕暮れの街並みに、賑やかな笑い声が溶けていく。
焼き肉店のテーブル席。
網の上でじゅうじゅうと肉が焼け、香ばしい匂いが立ちのぼる。
耀はタレをつけすぎてむせ、瑠花はそれを笑いながらフォローする。
輝は笑って見守る。
──ほんの少しだけ、幸せだと思えた。
耀
テーブルに広げられた答案用紙。確かに、すべて正解していた。
輝
耀
輝
喉の奥が詰まる感覚。
焼きたてのカルビを口に運ぶが、味はほとんど感じなかった。
輝
自分は“特級能力者”と認定され、エリートとして学園の表舞台に立っている。
でもその裏で、家族を守れなかった。身体は蝕まれていく一方。
それでも、耀は輝の背中を追い続ける。
瑠花
輝
ふと、指先が微かに震えていることに気づく。
──薬が、もう切れてる。
だがそれを悟られぬように、口元をタオルで拭きながら自然な笑顔を作る。
輝
瑠花
耀
帰り道、夜風が心地よく吹く。
三人で並んで歩く帰り道は、まるで何もかもが平穏に見えた。
耀
輝
その「きっと」に、自信なんてなかった。
輝
見えない毒。
原因もわからず、治療法もない。
時間が経つごとに、吐血の回数が増え、発作の間隔が短くなっている。
でも、今この瞬間だけは。
せめて、兄として、二人の“家”でいたかった。
夜。寮の部屋。
シャワーを浴び終えた後、輝はベッドに横になるが、 目を閉じても眠れなかった。
天井を見つめながら、頭の中で問いかける。
輝
過去の記憶が、断片的に蘇る。
柚華の微笑み。美麗が怒っていたときの声。煇が背中を向けていた最後の姿。
死んだ家族の幻影が、毎晩現れては彼を縛る。
輝
静かに毛布を払い、ベッドを抜け出す。トイレへと向かう足取りは重い。
鏡を見る。そこには、自分とは思えないほど青白い顔。
そして突然、込み上げてくる胃の痛み。
――オエェッ……カハッ……ッ!!
便器に顔を突っ込むようにして、喉の奥から血の混じった胃液を吐き出す。
輝
歯を食いしばる。
握った拳に爪が食い込み、血が滲む。
すべてを押し殺して、輝は静かに口をすすぎ、 吐いたことを隠すように部屋へ戻った。
瑠花と耀はすでに寝息を立てている。
輝
この世界で唯一守るべきもの。
それが、彼の命を繋ぎ止める理由だった。
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