望月舞姫
相変わらず、質素な家ね。
男
あはは……それで、舞姫ちゃん。
一体全体なんの用でここに来たんだい?
望月舞姫
…………叔母さんと、叔母さんと
「ばいばい」して来たの。
男
ほう……独り立ちって事かい?
望月舞姫
世間一般から見ればね。まぁ、
あそこに戻るつもりもないけどね。
男
へぇ………それで、今日は
「そういう事」目的でうちに来たの?
望月舞姫
さぁ?どうでしょうね。けど
貴方に言いたい事があって来たの。
男
えっ、私に?それは一体なんだい?
望月舞姫
ふふっ、内緒よ。
望月舞姫
………どうしよう、言おうかな~。
うーん、うーん………っふふ。
私は男の方に背を向けて、少しばかり
考えるような素振りを見せた後
虫の声の様な小さな小さな笑い声を零した。
男
………早く言っておくれよ、
望月舞姫
そうね、じゃあ言うわ。
私は男の方に振り向いて
これ以上無い程の満面の笑みを浮かべた。
男はまるで蛇に睨まれた兎の様だ。
望月舞姫
私、もうそう言う事辞めたんです。
だから貴方の家にも、もう来ません。
男
それは、どうして……?
望月舞姫
どうしてって………
望月舞姫
好きな人に好かれたいからです。
再度、男に背を向けていた私はまた
振り返ってそう静かに微笑んだ。
そう、私はやっと…やっと見つけ出したのだ。
正しく、天使と呼べる存在を。
望月舞姫
天使みたいに可愛い男の子で……あぁ
でも、男の子って言っても私より5歳も
年上なんだけどね…でも凄い可愛くってさ!
望月舞姫
でも、ちょっと色々困ってたみたいだから、
私の衣食住が整ったら迎えに行くの。
幸せいっぱいの甘いお城での生活……そう!
ハッピーシュガーライフを始めるの!
望月舞姫
その為には、どんな事もやってのける。
あの天使の為なら、例え殺人だって犯すわ。
愛を偽らなければ何をしたって許される。
望月舞姫
貴方も、そう思わない?
男
…………っ!
男
(なんだ、あの満足げな顔は。今までに見た事のない表情。あぁ、そうか。私は……どこか不完全で、欠落していた彼女が好きだったんだ。)
男
………………
望月舞姫
何かしら?
男
クソッ……不完全じゃない、
どこも欠落していない君なんて………
男
要らない。
男は、フラフラと台所へ歩いていった。
数秒後、男は包丁を持って再び
私の元へ戻って来た。あーあ、面倒くさいな。
男
要らない要らない要らない要らない
死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ
望月舞姫
………私の天使様を侮辱するの?
男
あぁそうさ!君には私だけで十分なんだ!両親や親族にも頼れず身寄りのない、どこか不完全で欠落していた君が私は好きなんだ!
望月舞姫
そう……私の天使様を
否定するって事は……
望月舞姫
貴方が死んでも文句はないのよね?
私は、リビングに立て掛けられていた
木製のイーゼルを持ち上げ、
男の頭上に勢い良くそれを振り落とす。
望月舞姫
……………
少しだけ血に濡れた手を水で
綺麗さっぱり洗い流し、携帯電話の
液晶画面をポチポチと触る。
望月舞姫
……あー、もしもし?うらたさん?
あのさ、ちょっと助けてくんない?
うん……うん……人一人殺しちゃってさ。
望月舞姫
うらたさんで良いよ来るのは。だって、
うらたさんが一番裏と繋がってるし?
お願い!姪っ子の我儘くらい聞いてよ!
望月舞姫
犯罪の片棒担がされるのは勘弁………
って!うらたさんだって人くらい
散々ぶっ殺してきてるじゃん!
望月舞姫
え?いいの?ほんとのほんとに!?
やったぁ、ありがとう嬉しい!
うん、駅前のアパートの3階の端っこ。
望月舞姫
うん、うん……ありがとう。やっぱ
頼りになるのはうらたさんだけだよ。
うん、分かった。じゃあ待ってるね。
望月舞姫
ありがとう、またあとでね。
電話を切る。うらたさんは私の唯一の家族。
うらたさんから見れば、私は姪っ子。
でも、私のとってのうらたさんは
何にも変えられない大事な大事な家族だ。
望月舞姫
さて、今日は寒いから
ココアでも飲みたいな。
ポツリと零した独り言は、
誰にも拾われる事はなかった。