僕はあの日、病室のカーテンから覗く君の笑顔に恋をした
僕、大宮 悠は病院から出られないほどの重い病にかかってしまった。 それはそれは辛くて、夜が来る度涙を流した 大好きだった陸上も、みんな辞めなければならなかった。
でも君に出逢い、言葉を重ねる度に 僕はここに来てよかったと思うことができる
「今日からここの病室を使って貰うからね」と柔らかい看護師さんの声と共に、僕はある女の子がいる病室に連れて来られた
その女の子は 黒髪で長い綺麗な髪を持っていた。 年は僕と同じ16歳だと言う。彼女も僕と同じ、当分病院の外に出られることはないだろうと言われている病気の患者さんだ
僕はその女の子に親近感が湧き、 勇気を持って話しかけた
「あのさ、君、名前なんて言うの?」
少し間があってから女の子は答えた
「...青山 遥、君は?」
「僕は大宮悠、!長い間一緒にいると思うから、仲良くしてくれると嬉しいな、?」
なんて行き過ぎた挨拶をした
「なんで疑問形なの、こちらこそよろしくね」
彼女の顔は見えないけれど、声のトーン、雰囲気からして微笑んでいるだろう
そこから僕たちは一日に数回、会話をするようになった
「好きな食べ物ってなに?」
「杏仁豆腐かな」
「好きな事は?」
「小説を読むこと。」
「苦手な事は?」
「運動、昔から運動音痴なの」
とありふれた会話をしている時が1番幸せを感じる時間だった
ある日、彼女がこんな質問をしてきた
「悠ってさ、絵、描ける?」
「描けるけど、どうしたの?」
どうやら彼女は自分の事を描いて欲しいとのこと、 何気に彼女の姿をしっかりと見るのは初めてで謎な緊張感に包まれる
シャッと開くカーテンの奥には 綺麗な黒髪に綺麗な青みがかかった瞳、小柄で小動物のような彼女の姿が目に映った
「可愛い...」と一言だけボソッと言っては聞こえていたのか少し赤くなっている彼女が見える
「い、いいから描いて、!」
と焦る彼女に、不思議な気持ちが沸いた まるで、「愛おしい」かのような
描き始めて数分、夜がやって来て、あかりの少ない病院付近は星が目立って綺麗だった
星が輝く夜空と彼女の纏う美しい雰囲気ではこの世のものかと思えないほど綺麗で淡く、儚いものだった
その時気付いたんだ。
「僕は君が好きだ...」
僕は思わずハッとして口を抑える が 遅かったみたいだ。 彼女は頬を赤らめどこか嬉しそうで恥ずかしそうな彼女の顔が見えた
「な、に言ってるの!!」
と怒られてしまった。 思ったことが口に出たと慌てて説明すると少し落ち着いたかのように、 乱れていた息を整える
......
「あのさ」
彼女が口を開いて話始めた
「その好きって気持ちは」 「恋愛的に見て?それとも友達として?」
僕は少し戸惑ったように 「恋愛として...」と答えた
「嬉しい。」
「私も恋愛的な意味で悠が好き。」
彼女の口から発せられた言葉は とても衝撃的な一言
「じ、じゃあ、好き同士って事、?」
「そう言うことになるね」
彼女が見せた笑顔は嬉しそうな、 幸せそうな顔だった
そんな日を越えて、 僕の耳に有難いが寂しくなる知らせが届いた。 その内容は
来月の頭には退院出来るだろうということ
とても喜ばしい事実だが 彼女の元から離れるとなるのはとても苦痛だった。
その知らせを中々彼女に言い出せないまま2週間の日がたった
星空の綺麗な、あの日のような夜
僕はやっと、言えなかった事が言える気がして、彼女に 話しかけた
「あのさ、ちょっと話すことあるんだけど、 聞いてくれる?」
「うん。なぁに」
「僕さ、来月の頭には退院するんだ。」
それを耳にした時の君の顔は忘れられない。 喜ばしいことなのだろうが、素直に喜びきれない、寂しさが残っているなんとも言えないが美しい顔。
「....そっか、!良かったじゃん!」
君が作り笑顔で笑ってるってのは 重々察している。
「無理に笑わなくていいよ」 「寂しいよね、ごめんね伝えるのが遅くなった」
「...う、ん、寂しいよ、!!」 「行かないで、ずっとそばにいて」
初めて聞く泣きじゃくっている声、 その声を聞いていると胸が締め付けられる。 出来ることならこのまま彼女と一緒にいたい
その日は彼女の傍で2人で眠りについた
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どれほど時間が過ぎただろうか。 僕の退院の日になった
その日は雪の降る寒い季節だった 家族の持ってきてくれたダウンを羽織って、できるだけ暖かくして退院の準備をする
その間、彼女の方に目をやると 目が少し赤くなっている。 僕が退院するということを知ってから毎晩泣いているのだろう、どれだけ辛いことか、
起こすような事はしたくないが、 さようならも言えなかったとなると彼女には後悔が残るはず、 彼女の額にキスをして優しく起こす
「おはよう。今日は雪が降ってるよ」
「...おはよう、今日でしょ、退院の日」
「うん。寂しくなるけど、毎日逢いに来るから」
「絶対だよ、逢いに来てくれないと私から行くから」
「絶対行くから、待っててね」
「うん、待ってる。」 「時間大丈夫なの?」
「もうそろそろ行くよ、 ごめんね傍にいてられなくて、」
「気にしないで!退院出来るんだからそんな顔しないの」
彼女にぺちぺちと頬を叩かれる 少し痛いが、嬉しいと思えてしまう
...
「じゃあね、また逢いに来る」
「...うん、待ってるから、またね」
そう言って僕は病室を出た。 今までお世話になった看護師さん達にお礼を言ってから病院を後にした
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僕が退院した日から数日、 相変わらず僕は毎日毎日何時間も彼女に会いに行き、話すようになった
「今日は何してたの?」
「今日はね、最近流行ってる手編み?のもの作ろうと思ってずっと作ってた」
「いーじゃんいーじゃん」
「悠のも作る予定だから出来たらあげるね」
「まじ?!ありがと!」
そう言って僕は軽く抱きしめる
何度か抱きしめるような事はしたはずなのに抱きしめる度、うぶな反応をする彼女が愛おしすぎて仕方がない
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そしてある日の朝、 僕の家の電話に一通の連絡が入った
ー遥の容態が急に悪化したー
と
僕はすぐさま病院へ向かい、彼女の元へと走った。
彼女は苦しそうに酸素ボンベを付けられ、今にも息を引き取ってしまいそうな状態だった
「遥!!大丈夫だよ、僕来たからね、」
呼びかけるが反応がない、
そう思い、絶望を感じた時
「ゆう、あのね、これ、聞いて欲しい」
と彼女が口を開いた その言葉と共に渡してきたのは1本の音声と 手編みのマフラー。ずっと縫っていてくれたのだろう僕はその気持ちを察するとぼろぼろ涙が溢れてきた
その音声の内容は今でも覚えている。
「悠!まずは退院おめでとう! 寂しくなるけど静かになるなぁ、 ...本題なんだけど、私、この世界から居なくなっちゃうんだ。」
「だからその前に、感謝を伝えたくて、」
「私に声をかけてくれて、話してくれて、好きになってくれて、気にかけてくれて、想いを伝えてくれてありがとう。全部全部嬉しかった。」
「この音声聞いてるって事は 私多分危ないんだよね?」 「いなくなっちゃう前に聞いて欲しかったから、らっきー、 悠と話してる時がいちばん幸せで、1番楽しくて、ほんとに感謝しかないよ」
「今までずっとありがとう。」 「世界で1番、愛してるよ」
その音声が終わると同時ぴーーーーという心電計の音。 そして彼女は息を引き取った
「俺も世界で1番遥のこと愛してるよ。」 聞こえているかな
「聞こえてるよ、私の分までしっかり生きてね、」
と聞こえた気がした。