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nmmn注意⚠️ キャラ崩壊注意⚠️ 誤字脱字注意⚠️ 殺し屋パロ
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#20 遺された線、静かに崩れる輪郭
その日、すちは仕事をしていなかった。
依頼がなかったわけではない。
組織からの連絡は、端末に幾つも届いていた。
それを見ていないだけだった。
白い部屋の中央に置かれた一脚の椅子。
その上ですちは、鉛筆を動かしていた。
紙の上に描かれるのは、かつての遺体たち。
まだ生温かい体温の残る皮膚、断裂した血管、破れた衣服。
現実よりも忠実に、現実よりも“美しく”。
それが、すちのこだわりだった。
# 翠
すちは思う。
呼吸が止まった瞬間にだけ、人は最高の静謐を宿す。
心臓の鼓動が終わったその後、肉体には“命を超えた価値”が生まれる。
だからこそ、死体を描く。
死の記録者ではなく――死そのものを芸術にする者として。
死の記録者ではなく――死そのものを芸術にする者として。
鉛筆の先が紙を滑りすぎて、輪郭を超えていく。
一度、手を止めて深く息を吐いた。
# 翠
再び線を引く。
目の前に広がるはずの“正しい美”が、どこか、歪んで見えた。
いつもなら精緻な陰影が浮かび上がるはずのページ。
だが、今日のそれはただのスケッチにしか見えなかった。
# 翠
すちは誰もいない空間に語りかけるように、呟いた。
# 翠
# 翠
部屋の片隅には、古びた木箱。
その中に、すちだけが大切にしている“記録”があった。
他人の遺体のスケッチではない。
かつての仲間たちの笑顔のラフスケッチだった。
なつ、らん、こさめ、いるま、みこと――そして、自分。
今ではもう失われた光景。
けれど、すちはそのページを開くたびに、どこかで“本当は戻りたい”と思っていることに気づいていた。
# 翠
ふと笑ってしまう。
あの無気力な目。
だが任務となると、異様なほど精密なあいつ。
# 翠
# 翠
いるまは、何も言わなかった。
ただ、「お前の絵は静かで好きだ」とだけ言った。
なつだけは、絵を見て苦笑しながらも、「よく描けてる」と答えてくれた。
あれは、どんな気持ちで言ってたんだろう?
すちは自分の胸に問いかける。
いつから自分は、“死体以外”を描かなくなったのか?
夜、すちは街を歩いた。
依頼のない日は、こうして「静けさ」を求めて街に出ることがある。
生きている人間たちの雑音、その中に紛れ込む“死の気配”を探して。
だがこの夜、すちの足はある墓地の前で止まった。
そこに眠る誰かの名前は、記録にも残っていない。
でもすちは、その墓の前に腰を下ろし、スケッチブックを広げた。
描いたのは――笑ういるまの横顔。
手が震えた。
なぜか、涙が出た。
理由もなく。
# 翠
静かに、そう呟いた。
# 翠
# 翠
誰も答えない。
だけどその夜、すちはようやく一枚の絵を完成させた。
それは誰も殺さず、誰も壊さず、誰も恐れない線だけでできた“絆”の証だった。
翌日。
組織に送られるべき報告メールは送られていなかった。
すちはそのまま、地下のアトリエに籠り、一枚の作品に取り掛かっていた。
それは、まだ誰も死んでいない六人の絵。
銃も、毒も、偽装もいらない。
ただ、ひとつの円の中に、誰かが笑っている構図。
すちの手は、ゆっくりと、しかし確実に動いていた。
# 翠
# 翠
その頃、組織の記録部に異常ログが残っていた。
【翠:過去72時間、任務報告未提出】 【位置情報:未登録】 【通信記録:消去済み】 【備考:潜伏中の可能性。再評価必要】
そして、別の画面。
みことがそのログを見下ろしながら、淡々と記す。
“美に堕ちるのか、心に昇るのか。 どちらにせよ、お前ももう“芸術の枠”に閉じ込められてはいない。”
六人のうち、四人目が、揺れ始めた。
それは爆発ではなく、侵食。
ゆっくりと静かに、崩壊していく均衡。
誰もそれを止められない。
誰も、戻る方法を知らない。
でも――すちは、今、初めて「生きた線」を描こうとしていた。
#20・了
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𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝♡210
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