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夜の森は、不自然なほど静まり返っていた。
空気には、甘くて苦い薔薇の匂いが漂っている。
輝夜姫は月を見上げ、静かに息を整えた。
月の力は幼い頃から彼女の中にあった。
蓮斗王子も同じだ。
獣たちの気配は、言葉を交わさずとも感じ取れる。
二人の前に、ひとり少女が立っていた。
赤黒の薔薇に包まれ、耳元で不気味に輝くイヤリング。
輝夜姫
蓮斗王子
その名を呼ばれても、野薔薇姫は振り向かない。
野薔薇姫
字面が軋み、薔薇の蔦が静かに伸びる。
速くも立派でもない
ただ確実に、逃げ道を塞ぐうごきだった
輝夜姫は月の力を解き放ち、
蔦を固める
砕けた破片が地に落ちる音が、やけに大きく響いた
その瞬間、月の力はわずかに歪む。
感情が揺れたせいだった。
輝夜姫の手元のブレスレットが淡く光る。
力を抑え、誤った魔法の流れを静かに正した。
野薔薇姫
一方、蓮斗王子の周囲では、獣たちが唸っていた。
怒りではない。悲しみの声だった。
彼の指の指輪が冷たく光り、
獣たちの暴走を止める。
蓮斗王子
蓮斗王子
野薔薇姫の指先がわずかに震える
だが次の瞬間、薔薇の棘がさらに鋭く伸び、
二人の間に深く溝を作った。
野薔薇姫
その声は、命令のようで、
拒絶のようで、
助けを求める声にも聞こえた。
三人の魔法がぶつかり合うことはなかった。
ただ、月と獣と薔薇が、同じ夜の中で静かに睨み合う。
そして野薔薇姫は背を向ける。
薔薇の花びらだけを残して、闇の中へ消えていった。
輝夜姫は月を固めたまま、動けずにいた。
蓮斗王子は獣たちを静かに退かせる。
蓮斗王子
ブレスレットと指輪は、二人を守るために与えられたもの。
だが、妹を救う力はーー
まだ、どこにもなかった。