息子の出迎えのため 俺は車で学校へ急いだ。
その日は道が空いていたため、いつもより早く到着できそうだったが、学校まで残り僅かの所で信号に捕まってしまった。
車を停車して暫くすると、通りを挟んで右斜め前方のバス停から女性がこちらを見ていることに気付いた。
俺からの距離は15mほど。
黒く長い髪の中年女性は、薄ら笑いを浮かべながら、こちらに向かってユラユラと手をふっている。
その隣には子供がいた。
頭にすっぽりとガスマスクを被り、緑色のマントを羽織った子供も、こちらに向かって大きく手をふっている。
ただ、俺は二人に心当たりがない…
もしかすると 息子と同じ学校に通う生徒と母親で、一度くらい顔を合わせたことがあるのかもしれない。
軽く手を振りかえす事も考えたが、ハロウィンでもないのに子供にガスマスクを被せて出歩くなんて、明らかに普通じゃないし、母親が向ける曖昧な笑顔も、俺を不安な気持ちにさせた。
俺
子供に罪はないとしても 正直に言えば、自分の息子とは仲良くなって欲しくはない。
二人から目を逸らし、信号が青に変わると急いで車を走らせ その場を後にした。
俺
いつの間にか、ジットリと嫌な汗をかいていることに気付いてため息がもれる。
学校へ到着して息子の携帯電話に連絡したが、電源が切られていた。
すぐ近くを顔見知りの教師が通りかかったので、息子の居場所を尋ねると、思いもよらぬ答えが返ってきた。
教師
俺の妻は5年前に他界している…
教師
よく理解できないまま、封を開け 中の手紙を読んだ
「さよならを言うチャンスはあげたのよ」