医師
一生熱を感じることはないでしょう
奏
……
生まれてきて一度も熱を感じる事ができなかった。 でも
奏
佐久早君の手、あったかいね
佐久早
お前は冷たいな
奏
へへっ、ごめんね
10秒くらいで私は佐久早君の手を離した。 意外にも彼は嫌がっていなかった。 昨日はあんなに怖い顔してたのに。
佐久早
……もういいのか?
奏
へ?
佐久早
チッ、可哀想だからまだ触っててもいいって言ってるんだ
そしてまた彼は手を差し出した。 何だろう。 彼の印象がガラリと変わった気がした。
奏
ふふっ
奏
あはは!
佐久早
は?
奏
佐久早君、ツンデレだね!
佐久早
…触らせねえぞ
奏
ふふっごめんごめん!
奏
ほんとにいいの?
佐久早
ん
私はまた彼の手に触れた。 じわっと広がる心地いい感覚。 あったかくて落ち着く。
奏
佐久早君って潔癖性ってイメージだったけど案外違うんだね
佐久早
ちゃんと後で手を洗うつもりだ
奏
ふふっ
奏
ねぇ。また次もこうして手を握ってもいい?
佐久早
……あぁ、
奏
ありがとう!
これまたびっくり。 まさか次も潔癖のその手に触れていいなんて
奏
うわ、佐久早君って関節柔らかくない。いや柔らかいすぎ。うわうわここまで…
佐久早
人の手で遊ぶな
彼の指が尋常じゃないくらい曲がったり歪んだりして面白かった。 そして他愛もない話をして、彼のことを少しだけ知れた。
バレー部のエースで、潔癖性で、あと下の名前がきよおみと言うことも。 その間も私は佐久早君の手を握っていた。 佐久早君も最初は眉間にしわが寄っていたが、諦めて時々握り返してくれた。 この時、完全に彼は私にとって
【特別な存在】になっていった。