僕は、胃癌らしい。
しかも、ステージ4だって__
一応、手術は出来るらしいけど
面倒だし
お金がかかるし
何より、母さんに迷惑かけるから
しないと決めた。
カメラを構える。
一眼レフに映る世界は綺麗だ
この世界の醜さが より際立ってしまう程に
いつからだろう
この世界を嫌いになったのは
いつからだろう
僕が変わってしまったのは
窓を開け、風を感じながら
僕は今日も、シャッターを切る
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
__余命、半年。
そうか、そうなんだ
ごめんね、母さん
僕には、母さんの心が 読めてしまった
母
母さんは不安を振り払うように 僕の頭を優しく撫でて
そっと、その場をあとにした
また、子供扱い……
もう、僕は子供じゃないのに
ベッドに思い切り寝転がる
特に意味も感情もなく
退屈を持て余した僕は とりあえず
病院内にある図書室の本を 借りる事にした
ガチャ…
看護師
看護師
看護師
看護師
看護師
看護師
変な気遣いも、愛想笑いも…
もう、散々だ
人の心が読めなかったら
僕はもっと楽に、 生きられたのかもしれない
図書室のドアノブを握って、
回す。
いつもよりも 軽いと気づいたのは、
数秒後のことだった。
詩帆
?
倒れこみそうになって 慌てて後ろに仰け反る。
桃色のヘアゴムで 丁寧に束ねられた黒髪。
邪心の欠片も無い ガラスのように透き通った
綺麗な琥珀色の瞳__
?
?
?
?
?
?
?
?
?
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
…思わず、目を見開いた
彼女の手に握られた 一冊の、黄色い表紙のノート。
不意に、彼女の姿と 姉の微笑む姿が重なって__
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
息を呑む。
画用紙の上で、筆が踊っている
筆遣いが丁寧で、彼女の人柄を感じさせるようで…
写真のように美しい景色の数々に圧倒される
その一方で
目を離すと消えてしまいそうな儚い印象を受けた
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
突然の出来事に、呆然とした
脳裏に浮かぶのは、 絵かどうか怪しい程のモノ__
ふにゃふにゃとした 不格好な頼りない線
下書きの線から思いっきり はみ出た濃すぎる絵の具
無邪気な誘いに、顔を歪める
詩帆
あれは…
人に見せられるレベルでは ないだろう……
しかし、
それでも、と続ける 彼女の押しに負けて
渋々、うなずいた
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
ストレートな無邪気な言葉と
はにかむような表情に戸惑う
眼前に広がる言葉の数々
好奇心に駆られた瞳
その、全てが
彼女の綺麗で、純粋な心を 物語っていて__
言葉を失った
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
詩帆
さりげなく、彼女が手を振る
ぎこちなく手を振り返すと
彼女が満足げに微笑んだ
後ろ姿を遠目に見ながら
心の奥底がじんわりと 温かくなっていくのを感じた
コメント
9件
女の子の外見の描写が美しい…とっても素敵です。続き楽しみにしてますね!
新連載!! やっぱりどれを取っても素敵です☁️ 楼月ちゃんは続きが気になるように書くのが上手で尊敬です😳
新連載だっ✨ 人の心が読めるせいで自分の余命が分かってしまうなんて……😢 でも、禅くんは詩帆ちゃんと出会って何か変わるのかな……? 続き楽しみにしてる👀✨