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余命半年、君と描く風景

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余命半年、君と描く風景

1 - 余命半年、君との出逢い

♥

350

2021年08月08日

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僕は、胃癌らしい。

しかも、ステージ4だって__

一応、手術は出来るらしいけど

面倒だし

お金がかかるし

何より、母さんに迷惑かけるから

しないと決めた。

カメラを構える。

一眼レフに映る世界は綺麗だ

この世界の醜さが より際立ってしまう程に

いつからだろう

この世界を嫌いになったのは

いつからだろう

僕が変わってしまったのは

窓を開け、風を感じながら

僕は今日も、シャッターを切る

ぜんー!!

……!!

あ、それお父さんの__

へぇ、ちゃんと使ってるんだ

使おうが使わまいが僕の勝手でしょ

…はぁ、また来たの

うん、来たよ

あんたが心配だから…

俺は元気でやってるから

母さんは、何も心配しなくていいって

(そう言われてもね……)

心配なもんは心配なの

……。

(…禅は昔から優しいから)

(私の為に元気そうなふりをしているように思えて…)

(…禅、いつも無理させてごめんね)

(…力になれなくて、本当にごめん)

あっ、そうだ

花、持ってきたんだった

ここに置いとくね

……ありがと

(…私には、これぐらいしか出来ることがない)

(嬉しそうな禅を見れただけで今はもう、充分)

ふふっ、やっと笑顔になったね

…うるさい

別に嬉しいとかじゃないし

はいはい

わかったから

それ見て、元気出しな?

…うん

明日も来るから

(…言えない)

(……言えるわけない)

(禅はどう思うだろう?)

(自分の余命が、あと半年だって知ったら__)

__余命、半年。

そうか、そうなんだ

ごめんね、母さん

僕には、母さんの心が 読めてしまった

じゃ、またね

母さんは不安を振り払うように 僕の頭を優しく撫でて

そっと、その場をあとにした

また、子供扱い……

もう、僕は子供じゃないのに

ベッドに思い切り寝転がる

特に意味も感情もなく

退屈を持て余した僕は とりあえず

病院内にある図書室の本を 借りる事にした

ガチャ…

看護師

あ、一色くん!

看護師

こんにちは。

……どうも

看護師

(…あの子が、余命半年だなんて)

看護師

(…本当に可哀想)

看護師

(いつも通り、笑顔でいないとね)

看護師

またね

……はぁ

変な気遣いも、愛想笑いも…

もう、散々だ

人の心が読めなかったら

僕はもっと楽に、 生きられたのかもしれない

図書室のドアノブを握って、

回す。

いつもよりも 軽いと気づいたのは、

数秒後のことだった。

詩帆

…わっ

……あ

倒れこみそうになって 慌てて後ろに仰け反る。

桃色のヘアゴムで 丁寧に束ねられた黒髪。

邪心の欠片も無い ガラスのように透き通った

綺麗な琥珀色の瞳__

ご、ごめん……

怪我とか、してない?

……大丈夫だけど

そっちこそ、大丈夫?

あ、うん…大丈夫

心配してくれて、ありがと…

…名前___

…え?

……名前は?

…詩帆。

来栖 詩帆。

来栖…さん?

あはっ、詩帆でいいよ!

……考えとく

詩帆

じゃあ、君は?

一色 禅。

詩帆

へぇ、禅くんか〜

詩帆

素敵な名前だね!!

…え、そうかな

詩帆

私はそう思うよ!

…ふぅん

あ、それ……

…思わず、目を見開いた

彼女の手に握られた 一冊の、黄色い表紙のノート。

不意に、彼女の姿と 姉の微笑む姿が重なって__

詩帆

あっ、見たい?

詩帆

私ね、水彩画を描くのが得意でさ〜

詩帆

…って、自分で言って良いのかわかんないけど(笑)

…見たい

詩帆

あ、うん!!

詩帆

詩帆

(…かわいい)

息を呑む。

画用紙の上で、筆が踊っている

筆遣いが丁寧で、彼女の人柄を感じさせるようで…

写真のように美しい景色の数々に圧倒される

その一方で

目を離すと消えてしまいそうな儚い印象を受けた

詩帆

どう、かな…?

上手く言葉に出来ないんだけど…

なんていうか、その

……凄く鮮明で、綺麗で…

すごく、好き

詩帆

……!!

詩帆

(好き、なんて言われたの、初めて…)

詩帆

(すっごく嬉しい……)

詩帆

詩帆

じゃあさ、禅くんは…

詩帆

何か趣味とか…ある?

写真を撮ることかな

…最近は

一眼レフにハマってて、一日中撮ってる

気づけば、充電切れで…

詩帆

へぇ、一眼レフが好きなんだ!

詩帆

なんか…禅くんに似合ってそうな気がする!

詩帆

私、写真撮ると、いつもピンぼけしちゃってさ…

詩帆

だから、写真を上手に撮れるの凄く憧れるなぁ……

…僕は、君に憧れるけど

詩帆

…え、私に?

僕は、上手く描けないから

僕の絵は壊滅的だって、よく言われる

詩帆

…えー、意外!!

詩帆

今度描いて見せてよ

詩帆

禅くんの絵、見てみたい

突然の出来事に、呆然とした

脳裏に浮かぶのは、 絵かどうか怪しい程のモノ__

ふにゃふにゃとした 不格好な頼りない線

下書きの線から思いっきり はみ出た濃すぎる絵の具

無邪気な誘いに、顔を歪める

…見たら後悔すると思う

詩帆

それでも見たい!

あれは…

人に見せられるレベルでは ないだろう……

しかし、

それでも、と続ける 彼女の押しに負けて

渋々、うなずいた

…なら、わかった

詩帆

ふふっ、ありがとう!

詩帆

詩帆

ごめん、そろそろ行かなきゃ

詩帆

ありがとう、楽しかった!

詩帆

あぁ、それと

詩帆

詩帆

…水彩画、褒めてくれてありがとう。

ストレートな無邪気な言葉と

はにかむような表情に戸惑う

眼前に広がる言葉の数々

好奇心に駆られた瞳

その、全てが

彼女の綺麗で、純粋な心を 物語っていて__

言葉を失った

…え

あぁ、うん

詩帆

えへへ、嬉しかったな〜!!

詩帆

次会った時には、もっと綺麗に描けるように頑張るね!

……楽しみにしとく

詩帆

……!!

詩帆

ありがとう!

詩帆

(……凄く嬉しい)

詩帆

詩帆

またね、禅くん

……うん

さりげなく、彼女が手を振る

ぎこちなく手を振り返すと

彼女が満足げに微笑んだ

後ろ姿を遠目に見ながら

心の奥底がじんわりと 温かくなっていくのを感じた

余命半年、君と描く風景

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350

コメント

9

ユーザー

女の子の外見の描写が美しい…とっても素敵です。続き楽しみにしてますね!

ユーザー

新連載!! やっぱりどれを取っても素敵です☁️ 楼月ちゃんは続きが気になるように書くのが上手で尊敬です😳

ユーザー

新連載だっ✨ 人の心が読めるせいで自分の余命が分かってしまうなんて……😢 でも、禅くんは詩帆ちゃんと出会って何か変わるのかな……? 続き楽しみにしてる👀✨

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