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若井

元貴、涼ちゃんに何かしたでしょ?

大森

え?なにが?

仕事終わり、元貴といつものバーに来ていた。 ここは所謂そういう界隈のバーで、 客は男しか居ない。

若井

何がじゃなくて!
最近、涼ちゃん挙動不審すぎるんだけど。

若井

元貴、涼ちゃんの事気に入ってたし、何かあったとしたらお前しか居ないだろ。

大森

…ぼくが何しようが若井に関係ないだろ。

大森

…今日の若井嫌いだわ。

機嫌を損ねた元貴はおれから離れて行く。

きっと、その辺にいる男に声を掛けに行ったんだろう…

また、元貴の病気が始まった。

おれ達が腐れ縁ってのは本当の話。

まあ、お互いの需要と供給が合ったから、 たまに“そういう事”もしているけど…

だからこそ分かる。

元貴の恋愛観は昔からねじ曲がっていた。

まず、特定の相手は作らない。

でも、顔がいいから色んな人から誘われるし、元貴も簡単にその誘いに乗る。

元貴が特定の相手を作らないのは界隈では有名な話だから、相手もそのつもりで来るけど、 たまに厄介な事に本気になる奴も居て、 その時は容赦なく切り捨てられる。

でも、更に厄介なのは、元貴が気に入った場合。

相手をその気にさせて最後は捨てる。

なんでそんな事するのか意味が分からなくて、 一度聞いた事があった。

“始まりがあれば終わりがあるでしょ?” “始まらなければ終わりはないから” “でもお気に入りは手に入れたいじゃん” “それで始まる前にさよならするだけ”

言いたい事は分からなくもないけど、 歪んでるし、寂しいとも思う…

若井

…元貴の病気がまた始まったわ。

目の前でグラスを拭いてた馴染みの店員につい愚痴ってしまった。

店員

また?元貴も懲りないわねぇ。

若井

ね。

結局傷付くのは自分自身だって事、 いい加減気付いて欲しい。

お気に入りを手離したあとは、必ず荒れる。

そして、それをなだめるのが、 腐れ縁のおれの役目…

ずっとそう…

ただ、それだけ。

店員

元貴もあんたも本当に恋愛下手ね。

若井

…ね。

おれは思わず苦笑いをした。

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