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ボスキと主様

第95話 - 第95話残された想い、託された願い第3章

2025年04月22日

#悪魔執事と黒い猫

#ボスキ・アリーナス

aimer(エメ)

翌日、朝日が昇る前

主は、あの後、しばらくアモンと廊下にいたが、眠くなりベッドで眠る。そして、みんなはあの後、依頼主と話をし、今後の対策を練ったあと、交代で主の部屋の前で主を警護した。

ハナマル

ふぁ～…。

ユーハン

主様の前で失礼ですよ。ハナマルさん。

大きな欠伸をするハナマルに注意するユーハン。

主

ユーハンいいよ。
ハナマル、昨日、私のためにあんまり眠れなかったんでしょ？ごめんね。

ハナマル

気にするなよ。主様。
俺が好きでしてたことだからさ。

ユーハン

そうですよ。主様。
ハナマルさんをあまり甘やかさないでください。

ハナマル

ヘッ…。ユーハンは手厳しいね～。

ユーハン

当たり前です。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

おはようございます。

そこに依頼主がやってきて朝の挨拶をする。

主

おはようございます。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

昨日は、こちらの落ち度で怖い思いをさせてしまいすみません。あれから、きちんとおやすみにはなれましたか？
大丈夫でしたか？

心配そうに尋ねる依頼主に主は頷く。

主

はい。みんなが交代で私の部屋の前で見張りをしてくれたので安心してゆっくり寝れました。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

そうですか…。それは、良かったです。

そう主と依頼主が話終わるタイミングでテディが主へ尋ねる。

テディ

ところで、主様。
俺たちは、これから主様がお話をしていた雪が入ってくる場所をお探ししたらよろしいのですよね？

主

うん。お願い。なるべく、太陽が入ってきそうな場所でね。

テディ

わかりました。主様。

ハウレス

それでは、俺たちがその場所を探す間、ムーとフェネスと共に主様と依頼主様は、こちらのエントランス内でお待ちください。

主

わかったよ。ハウレス。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

わかりました。

ムー

わかりました。
ハウレスさん。

ハウレス

フェネス。主様と依頼主様のことを頼む。

フェネス

うん。俺が主様と依頼主様をきちんとお守りするから安心して探してきてね。

ボスキ

主様。昨日は、悪かった。急にいなくなったりして。

主

ううん。私のために怒ってくれたのはわかってるから。ありがとう。

ボスキ

あぁ。

亡くなった大富豪のメイド

みなさん、日の出のお時間が近いです。

アモン

なら、行くっすか？あんまり、時間ないっすよ。

テディ

そうですね。
行きましょう。

ユーハン

日の出の方角からして、建物の正面と左側を重点的に探して参りましょう。

ハウレス

そうですね。では、東側を俺たち2階の執事が見てきます。別邸の執事のみなさんは正面側をお願いします。

ハナマル

あぁ。わかった。

テディ

わかりました。
ハウレスさん。

ユーハン

はい。かしこまりました。ハウレスさん。

そして、みなが探す間、主は依頼主とフェネスとムーと話をする。

エントランス

フェネス

一応、今日から俺たちが主様の就寝中の主様の部屋の前と主様の入浴中、扉の前で警護する形になります。ですから、ご安心ください。

主

ありがとう。フェネス。

ムー

主様。ボクも主様をお守りしますから安心してくださいね。

主

ありがとう。ムー。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

本当にすみません。
こちらも祖父がなくなってから、執事やメイドの人数が減りまして、手が回らず不快な思いをさせてしまって…。

主

あ、いえ。あなたは悪くないですよ。

慌てて否定する主にフェネスは口を開く。

フェネス

それにしても、主様を見ていた者は、何者なのでしょうか？

主

わからない。でも、私をそういう目で見る視線というよりも何かを探るような視線だった気がするの…。

フェネス

探るような視線ですか？

主

うん。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

探るだなんて…いったい何を…///

依頼主のメイド(メアリー)

…旦那様…。

そう言いながら、依頼主は一瞬、主の首から下、胸元を見たがすぐにそっぽを向き主をまともに見れず顔を赤面させる。その後ろで依頼主のメイドの1人が誰にも聞こえないほどの声でそう呟いた。

ムー

もしかして、他にもお宝を探している人がいるのでしょうか？

亡くなった大富豪のメイド

………。

主

ムー

主様？

主

なんで気が付かなかったんだろう。そうだよ。
きっと。

フェネス

主様。どういうことですか？

主

私たちだけじゃない何者かは、お宝の在処を探してて、私がお風呂場でポロッと何か言わないか探りに来ていたんじゃないかな？だから、私が感じた探るような視線はそれだったんじゃないかな？

フェネス

もし、そうだとしたら、俺たち以外の外部の人間が入り込んでいるのかもしれませんね。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

そんな…いや、でもありえるかもしれません。こんなに手薄になった屋敷ですから、誰がどこから侵入したとしてもおかしくはありません。

依頼主のメイド(メアリー)

……。

亡くなった大富豪のメイド

……。

ムー

でも、外の人の匂いなんてボクたち以外はしませんでしたよ？

依頼主のメイド(メアリー)

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

メアリー？

依頼主のメイド(メアリー)

あ、いえ。なんでもございません。

亡くなった大富豪

そうかい？

依頼主のメイド(メアリー)

はい。旦那様。

主

あ、そっか。昨日、メアリーさんはムーが話すとこ見ていませんでしたもんね。

ムー

あ、すみません!ボク話せる猫なんです!

依頼主のメイド(メアリー)

そ、そうなのですね…。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

あ、そうでした。私の感覚で話してしまいました。メアリーにも事前に話すべきでしたね。
驚かせてごめんね。
メアリー。

依頼主のメイド(メアリー)

いえ。旦那様。私こそ、すみません…。

フェネス

ムー。大丈夫だよ。理解して貰えたみたいだから。

ムー

良かったです。昨日はササミありがとうございました。美味しかったです。

依頼主のメイド(メアリー)

いえ、旦那様のお客様ですから、またいつでもお出ししますよ。

ムー

やったぁ!

主

良かったね。ムー。

ムー

はい!主様。

ムー

(あれ？でも昨日ボク、メアリーさんにササミを貰う時に話したような…。まぁ、気にする必要ないですよね。ササミをくれる人に悪い人はいません!)

それは、ムーが大分話した後であったが、ムー以外誰もこの時までは違和感を抱いてはいなかった。そして、外からテディだけが主たちの元に戻ってくる。

テディ

主様、依頼主様。
見つけました。一緒に確認していただけますか？

主

わかった!

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

はい。

そして、テディの後ろをみんなぞろぞろついて行く。その一番後ろでメアリーを睨む何者かの視線があった。

何者か

………。

依頼主のメイド(メアリー)

…………。

メアリーはその睨む何者かの視線に目だけで謝罪を伝える。そして、相手はそれを、受け入れたのか、諦めたのか睨むのをやめた。

風で雪が舞い込む、建物の東側の一角

テディ

主様。こちらです。

主

ありがとう。テディ。

案内された先で執事一同が待っていた。

ハウレス

お待たせしてしまい申し訳ございません。主様。依頼主様。

主

ううん。見つけてくれてありがとう。ハウレス。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

いえ、こちらは何もそんなにお待ちはしていませんので、気にしないでください。

亡くなった大富豪のメイド

………。

依頼主のメイド(メアリー)

旦那様。こちらは滑りますので足元にお気をつけください。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

ありがとう。メアリー。

依頼主のメイド(メアリー)

いえ…///

主

(あっ、メアリーさんってこの人のこと好きなんだ...。)

ムー

主様も足元に気をつけてくださいね。

主

ありがとう。ムー。

ボスキ

主様。俺につかまれ。

主

ありがとう…///ボスキ。

そういい、自然と左腕を貸すボスキに主も自然とその左腕に右手でつかまる。それを周りの執事は少し羨ましそうに見たがすぐに本題に入る。

ハナマル

それで、主様。
ここに何があるんだ？見たところ、御屋敷のただの開けた建物の一部に見えるが。

ムー

はい。ボクにもただ、雪が入ってくる開けた場所にしか見えません。

主

うん。今から説明するね。

そして、ちょうどその時、太陽の光がそこへ差し込んでくる。

主

太陽いずる地より白き花舞て
炎の剣が指し示すはかの地の涙

太陽いずるは日の出のこの時間。
白き花舞てはその時間に雪が入り込む場所。
そして、炎の剣とは、
太陽が差し込んでこうやって剣のように見えること。

そう指をさす主の指の先をみんなが見る。

ユーハン

そういうことでしたか。さすが、主様です。

ムー

そうだったんですね!
主様はすごいです!

アモン

本当に炎の剣みたいっすね…。

フェネス

それなら、炎の剣が指し示す場所。かの地の涙とはあちらのことでしょうか？

そう、フェネスが指を指す先を今度はみなが見る。

主

うん。太陽の熱で凍った天井の氷が滴る雫を涙と表現したんだろうね。

テディ

さすが主様とフェネスさんです。

フェネス

いや、俺は主様がヒントをくれたからわかっただけだよ…///

と照れるフェネスに主はいう。

主

そんなことないよ。
フェネスはすごいよ。

ムー

はい。ボクもそう思います。フェネスさんはすごいです。

フェネス

あ、ありがとうございます///主様。
テディとムーもありがとう///

ムー

いえいえ。

そして、みなは主と共に雫が滴り落ちる場所へと移動をした。

ボスキ

それで、ここに何があるんだ？主様。

すると主がしゃがみこみこみ、水たまりの溜まる床のタイルに右手を伸ばそうとするのをボスキが寸でで左手で主の右手首を掴み止める。

ボスキ

手が汚れるぞ。そういう汚れ仕事は俺たちに任せろ。主様。

主

あ、うん。ありがとう。ボスキ///

ボスキ

それで、どうすればいいんだ？主様。

主

この水が滴り落ちる場所のタイルが恐らく外れるはずだから、外して欲しいの。お願いできる？
ボスキ。

ボスキ

あぁ。わかった。

そして、みなが見守る中、ボスキが主に言われた通りの場所に手をかけるとそのタイルが外れた。

パカッ

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

隠し扉ですか？そんなのがあるなんて知りませんでした…。

ムー

隠し扉なんていよいよお宝にご対面ですね!
なんだか、わくわくします!

主

ふふっ。まだだよ。
ムー。
その先の暗号を解いてないでしょ？

ムー

そ、そうでした!
でも、わくわくします!

ボスキ

それで、この扉を開いたらいいのか？主様。

主

うん。お願い。ボスキ。

ボスキ

わかった。主様。
全員少し、離れてろ。

そういうボスキにみなは従い離れる。それを確認した後、ボスキは隠し扉の鉄ハンドルを手にし、上へと開く。

ギィーーー

渋い音と共に古く重い扉が開かれる。そこには地下に続く階段が暗闇へと続いていた。

ハナマル

地下へ続く階段か…。

ユーハン

そのようですね。

ムー

真っ暗です…。なんだか、ボク怖いです…。

アモン

うっ…ずいぶん暗いっすね…。

主

(あ、そっか。アモンは暗いところ苦手なんだよね…。ムーも怖がってるし…。どうしたら…。)

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

すみませんがメアリーと共に、明かりをみなさんの分持ってきてくれませんか？

亡くなった大富豪のメイド

かしこまりました。
旦那様。

依頼主のメイド(メアリー)

はい。かしこまりました。旦那様。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

みなさん、少しお待ちくださいね。

主

あ、いえ。

ムー

はい。依頼主様。

ボスキ

あぁ。依頼主様。

ハウレス

かしこまりました。
依頼主様。

アモン

はいっす。依頼主様。

フェネス

はい。依頼主様。

ユーハン

かしこまりました。
依頼主様。

ハナマル

あぁ。わかった。
依頼主様。

テディ

はい。わかりました。
依頼主様。

みなが返事をする。そして、しばらくすると2人のメイドはロウソクと燈台、マッチを持ってきて、それぞれに手渡すと火をつける。

ハウレス

それでは、参りましょうか。主様。
足元にお気をつけて降りられてくださいね。俺が先頭を歩きますから。

主

う、うん。ありがとう。ハウレス。

そして、ハウレスを先頭にし、主とボスキ、依頼主とメイド、その他の執事が後へと続いて階段を降りていく。

地下

ムー

暗いですね。主様。

主

そうだね。ムー。

ボスキ

大丈夫だ。
俺がついている。

アモン

ボスキさん、それを言うなら俺たちっすよ。ちゃんと俺もいるんすから、忘れないでくださいっす!

テディ

それにしても、この空洞を利用した地下室はいったいどこへ続いているのでしょうか？

ハナマル

さぁな。まぁ、歩いてればどこかには行き着くだろ。

ユーハン

そうですね。進まれてみないことには何ともいえませんね。

フェネス

でも、大自然の作りをそのまま利用するなんてすごいですね。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

そうですね…。
でも、祖父は生前、大自然をこよなく愛する人でしたから、こういう場所があっても、なんら不思議ではないのかもしれません。ただ、私もこんな場所があるのは今まで知らずにあの屋敷で暮らしていましたが…はははっ…。

亡くなった大富豪のメイド

…………。

依頼主のメイド(メアリー)

…………。

ハウレス

主様。どうやらここまでのようです。

そういうハウレスの前には大きな門ほどの石の扉があり、その場所は大ホールのように開けた場所であった。

主

みたいだね。

アモン

でも、この扉、ノブも
鍵穴もないっすよ？

ユーハン

もしかしたら、何かの仕掛けで自動で開く扉なのかもしれません。

ハウレス

手分けして、仕掛けを探しましょう。
俺たちが仕掛けを探す間、主様と依頼主様はこちらでお待ちください。

主

わかった。ハウレス。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

わかりました。
よろしくお願いします。

亡くなった大富豪のメイド

私もお手伝いして参ります。旦那様。
よろしいでしょうか？

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

あ、はい。
お願いします。

依頼主のメイド(メアリー)

私は、旦那様方のお傍におります。

ハナマル

あぁ。頼むわ。それと、昨日は怖がらせて悪かった。

依頼主のメイド(メアリー)

あ、いえ…。
私は大丈夫です。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

ハナマルさん…。

ハナマル

依頼主様も昨日は、よく事情を聞きもせず掴みかかったりして悪かった。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

いえ、私は大丈夫です。メアリーさえ無事ならそれで…。

そういう依頼主の耳元に顔を近づけハナマルはこっそりいう。

ハナマル

あんた、メアリーさんのこと好きなんだな。
大事にしてやれよ。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

///////

依頼主のメイド(メアリー)

…旦那様？

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

あ、いや、なんでもないよ！////メアリー////

ハナマル

フッ…。じゃぁ、俺は探してくるわ。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

あ、はい///
よろしくお願いします。

しばらく赤面する依頼主。

主

(ハナマル。いったい何を言ったんだろう？)

そんなことを考えながら、主はみんなが探すのを依頼主とメイドのメアリーと共に待った。そして、数十分が経過する。

アモン

見つからないっすね。

ハウレス

そうだな。これだけ、探してないとなるとここに仕掛けはないのか？

ユーハン

そのようなことはないはずです。
恐らく、これも暗号の中にヒントがあるのではないでしょうか？

フェネス

俺もそう思います。もう一度、暗号を考えてみた方が良いかもしれません。

ハナマル

だな。

テディ

そうですね。

ボスキ

あぁ。

亡くなった大富豪のメイド

かしこまりました。

そして、一旦、みんなは集まる。

主

凍てつく水の下、閉ざされたる門をくぐりてかの想い眠らん
門は恐らく、私たちの前にあるこの石の大扉だとして、凍てつく水の下っていったいなんだろう…。ここには、そもそも水は無いし…。

アモン

確かに、ここはわりと開けた大広間にはなってるっすけど、水なんてないっすよね。

ハウレス

そうだな。やはり、別の場所に仕掛けがあって、そこを動かさなければ、この扉は開かないのだろうか…。

ボスキ

ちっ…。まどろっこしいことなんかやめて、壊せばいいだろ。こんな扉。

主

ダメだよ!ボスキ!

フェネス

そうだよ!こんな地下で、まして、大自然の作りを利用してるなら、下手したら天井が崩れて全員生き埋めになっちゃうよ？!

ボスキ

なら、どうすればいいんだ？

ユーハン

暗号を解くしかありませんね。

ハナマル

あぁ。そうだな。主様を生き埋めになんかしたら、屋敷の執事共にどやされるだけじゃすまねぇからな。

テディ

そうですね。何より、主様が危険にさらされるようなことは絶対、あってはいけません!

ムー

そうですよ!ボクたちは主様をお守りする執事です!

主

ハナマル…。テディ…。ムー…。

ボスキ

わかったよ。
壊さねぇ…。

そして、みなはしばらく考える。そして、フェネスがハッとしたように門から1mのところまで歩いていき、足を止め、告げる。

フェネス

何でこんなこと忘れてたんだろう…。
俺わかったかもしれません。

ムー

何か思いついたのですか？！フェネスさん!

主

フェネス話して。

フェネス

はい。主様。
この御屋敷のそばに池があったのを覚えていますか？

主

うん。ここに来る時に
見た池だよね？

フェネス

はい。

ムー

そういえば、池の表面が凍っていて、その下には春を待つ生き物がいるって話をしていましたね。

ボスキ

それが何なんだよ。
フェネス。

フェネス

あの池の表面は凍っていて、そして、ちょうど俺が今立つこの位置が、あの池の真下にあります。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

なぜそこだとわかるのですか？

フェネス

御屋敷の地図とその周りの地形の地図を覚えていて、今、ここに来るまでの道のりと照らし合わせた結果、ちょうどこの位置が凍った池の真下だとわかりました。
依頼主様。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

す、すごいね…。

ハウレス

そうか…凍てつく水の下とは池の真下のことか。

フェネス

うん。ハウレス。

ユーハン

では、そこの床に仕掛けがあるのかもしれませんね。見てみましょう。

フェネス

はい。ユーハンさん。

そして、みなはフェネスの周りに集まる。そして、フェネスは床を触っていき１箇所だけズレる床の石のタイルを見つけ、そのタイルをとる。

パカッ

ユーハン

中に窪みがありますね。

ハナマル

あぁ。ここに何かをはめこんで仕掛けが作動するのか？

フェネス

これは、グリフォンの
紋章…？

そこで、主以外の執事がハッとして、依頼主を見る。みなに見られびっくりする依頼主だが、すぐにみなの意図を理解する。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

私のこの指輪をここにはめこむのですね。

そういうと、銀色の指輪を外し依頼主は立ち膝をすると床のくぼみに指輪をはめこむ。

カチッ

機械的な音がして目の前の扉が轟音とともに左右へ開いていく。

ゴォォォォ…

主

開いた。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

…そうだったのですね。この指輪は、この扉を開くための鍵だったのですね…。

ユーハン

そのようですね。
依頼主様。

何者か

(やっと…ここまで来た…。長かったよ。でも、あと少しの辛抱だね。)

何者かはみなに気づかれることなくほくそ笑んだ。

そこはさらに大広間となっており、真ん中には棺があり、中には氷漬けになった20代前半か半ばの美女が目を瞑り、両手を胸の前に組み、微笑みをたたえ眠るように横たわっていた。そのわきには、碑文があり、こう書かれていた。

フェネス

最愛の人
ここに眠る

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

この方は…いったい…。

ハナマル

綺麗な人だな…。

ユーハン

えぇ。とても安らかな表情をされています。

テディ

でも、なぜこのようなところに氷漬けにされているのでしょうか？

アモン

胸の所に何か青く光るものがあるっすよ。

ハウレス

そうだな…かなり大きな…サファイアか？

ボスキ

わからねぇ。

ムー

主様。こちらに何か書物がありますよ。

主

どれ？ムー。

といい、主は近寄りそのページを開き見る。

主

日記みたい…。

フェネス

俺が読みます。主様。

そういい、主から古びた日記を受け取るフェネス。

フェネス

私の最愛の妻が亡くなった…。
彼女は…。

日記を綴る亡くなった大富豪の生前。若かりし頃。

亡くなった大富豪

とても優しく美しく気高い聡明な女性であった。
私には勿体ないほどの彼女が私と共に生きてくれたこと、私に最愛の娘を授けてくれたことは一生の宝だ。
そんな彼女の半生をここに綴る。

現在。

主

もしかして…。

フェネス

恐らく、あちらで眠られている方は亡くなられた大富豪様の妻で依頼主様の祖母に当たる方のようですね。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

私の祖母？
このお綺麗な方が…。

そういい、依頼主は深い眠りにつく女性を見つめる。

フェネス

続きを読みます。

日記を綴る亡くなった大富豪の生前。若かりし頃。

亡くなった大富豪

彼女は、今はもう名すら残されてはいない、かの王族の四女としてこの世に生を受け、齢16歳の時、彼女の父である暴君の王が王権剥奪に伴い、近親者が全員処刑となった。そして、元々、彼女もその対象者であった。

当時、処刑前夜

暴君の王

私にこのような仕打ちをして、貴様らタダで済むと思うでないぞ!!

牢獄の中、柵に手を付き叫ぶ暴君の王に誰も聞く耳は持たない。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

(お父様も往生際が悪いわ...。私たちはもう誰の信頼もないというのに…。哀れね…。)

別の牢獄で静かに牢の窓から月を見つめる亡くなった大富豪の最愛の人(第四皇女)。そこへ、1人の若い憲兵が来て、立ち膝をし、小声で言う。

亡くなった大富豪

第四皇女様…。
こちらを。

そういい、牢獄の中に入れられた包みには大きなマントが入っていた。それを見て、第四皇女は同じく静かな声で告げる。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

何のおつもりですか？

亡くなった大富豪

私が、第四皇女様をお外へお連れ致します。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

…私は、逃げません。私の父がしてきた数々の民への仕打ちは決して許されるものではありません。哀れな父に代わり共に罪を償います。どうぞ。放っておいてください。

亡くなった大富豪

失礼ながら申し上げます。
それは、王の罪であり、あなたの罪ではありません。あなたは、王の元でも、献身的に民へ尽くそうとしていたことを私も民も知っております。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

……。でも、私は何も成せなかったのです。…。ですから、今に至るのです。

亡くなった大富豪

しかし、私は、ずっとあなたを見て参りました。ですから、あなたの苦悩も存じあげております。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

ふふっ。そう。ならば、わかるでしょう？その王の私は娘なのです。私が処刑されれば、民の怒りを沈められるということも…。

亡くなった大富豪

……。存じ上げております。しかし…私は…俺はあなたに生きていてもらいたいのです。どんな形でもいい。生きて生きて生きてください。
お願い致します。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

……。

その言葉の真意を察してか、はたまた違う理由なのか…第四皇女はマントを羽織る。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

わかりました。

亡くなった大富豪

今、開けます。

そして、月明かりが照らす森の中を馬で2人は駆け抜ける。途中、追っ手が来ないかと危惧しながら、湖のほとりで休憩をとった。

湖のほとり

亡くなった大富豪

第四皇女様。
こちらをどうぞ。

水筒に入った水を若い憲兵は、第四皇女へと渡す。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

…もう、私は皇女ではないわ。ですから、第四皇女なんてやめてください。

亡くなった大富豪

そうですね。あなたはもう、皇女ではありませんね。では、1人の女性として私と共に生きてくださいませんか？

そういい、第四皇女の前に立ち膝をし、右手を差し伸べる若い憲兵。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

私と生きるということが、どういうことかお分かりになっておっしゃっていますの？
私は、罪人なのですよ？
逃亡者なのですよ？

亡くなった大富豪

はい。承知しております。元よりあなたとあそこから出た時より覚悟しております。私は、生涯あなたをお守りします。ですから、私と共に生きてくださいませんか？

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

……。ふふっ。あなたは相当愚かなお方ですね。ですが、私はそんなあなたをもっと見てみたくなってしまいました。

そういうと、第四皇女は若い憲兵の右手に自身の左手をのせると、若い憲兵はその第四皇女の左薬指に安物のクリスタルが埋め込まれた銀の指輪をはめ、告げる。

亡くなった大富豪

今はこのようなお粗末なものしかお渡しできませんが、いつか、私はあなたのこの指に合う上等なリングをお渡しします。それまで、しばしお待ちいただけますか？

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

ふふっ。いつまでもお待ちしておりますわ。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

(私は、そんなもの要りませんのよ。あなたが私に新しい世界を見せてくれるのなら、それだけで十分です…。)

日記を綴る亡くなった大富豪の生前。若かりし頃。

亡くなった大富豪

それから、私は最愛の彼女を連れ、北の大地へと逃げ延び、そこで小さな家を建て、共にしばらく暮らした。
そして、私は商人として、彼女は私の妻として生きた。憲兵から商人への道へ走った私にはどうやら才覚があったらしい。トントン拍子で成り上がり、莫大な財産を築きあげたある日、私は以前より約束をしていた高価な指輪を彼女へ贈り物として贈った。
私が齢24歳、彼女が齢22歳の時である。

当時

亡くなった大富豪

随分と待たせてすまなかった。
こちらを受け取ってくれないか？

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

ふふっ。そういえば、そのようなお話をした日もありましたね。

亡くなった大富豪

まさか、忘れていたのかい？!
結構、気にしていたのだが…。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

ふふっ。そのように気にされずとも、私はあなたさえいてくれるのなら、何も望みませんわ。
あとは、この子と…。

といい、お腹をさする亡くなった大富豪の妻。

亡くなった大富豪

ま、まさか？！

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

はい。お子を授かりました///

亡くなった大富豪

本当かい？！
なんてめでたい日だ!
今宵は宴を開こう!!

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

まぁ。あなたったら///
ふふっ。

亡くなった大富豪

はははっ///

日記を綴る亡くなった大富豪の生前。若かりし頃。

亡くなった大富豪

その日を私は決して忘れない。
私が生きてきて1番、幸せな時であった。彼女のお腹に私の娘が宿った日だからだ。

現在

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

それが、私の母だったのですね。

フェネス

そのようですね。

ムー

まさか、依頼主様が王族の子孫だなんて…びっくりしました!

主

たぶん、本人が1番びっくりしてるんじゃないかな？

と主が指さす先で目を丸くして驚く依頼主が立っていた。

ボスキ

それで、その他書いてあるのか？

早く先を読めと言わんばかりにボスキがフェネスに催促する。

フェネス

うん。続きがあるよ。
えーと…私は、それから…。

日記を綴る亡くなった大富豪の生前。若かりし頃。

亡くなった大富豪

私は、それから彼女が安心して子供を産むことが出来るようにこの屋敷を購入し、手直しを加え、たくさんの執事とメイドを雇い、彼女の身の回りの世話を彼らに頼み、彼女と産まれてくる子が何不自由のない暮らしが続けられるよう、私は仕事へ勤しんだ。
後に後悔することになるとは、この時は微塵も思っていなかったからだ。

当時

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

あの人は、またお仕事へ行かれたのですか？

当時のメイド

はい。奥様。
お帰りは4日後だそうです。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

そう…。

当時のメイド

奥様…。

当時のメイド

(お可哀想に...。もっと、旦那様とお過ごしになりたいでしょうに…。)

窓の外を見て、寂しそうな目をする亡くなった大富豪の妻。

日記を綴る亡くなった大富豪の生前。若かりし頃。

亡くなった大富豪

そして、とうとう出産まで数日かという時、私は彼女に特別な贈り物を用意した。それは、45カラットのブルーダイヤモンドのネックレスだ。彼女と産まれてくる子がこれからも神の祝福に包まれるようにと高価ではあったが、購入をしたのだ。今思えば、そんなものを購入する時間があったのなら、もっと、彼女と過ごす時間を作るべきであったと…悔いても悔いきれない。
そして、その時が来てしまった…。

出産当日

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

うぅ...。

当時のメイド

奥様!!

当時のメイド

(破水されておられるわ。すぐに、準備しなければ!!)

亡くなった大富豪の書斎の扉が勢いよくノックされる。

当時のメイド

旦那様!奥様が産気づかれました!いよいよです!
すぐにおこしください!

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

いよいよか!!わかった!
すぐに行く!

立ち上がると引き出しに入れていた宝石の箱を懐へしまい、急いで亡くなった大富豪の妻の元へと走る亡くなった大富豪。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

うぅ...。旦那様ぁ…。

亡くなった大富豪

大丈夫だ!
私はここにいる!

そういい、亡くなった大富豪の妻のベッドの左側にしゃがみこみ、亡くなった大富豪の妻の左手をベッドに肘をつき両手でしっかり握る亡くなった大富豪。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

うぅ…。はぁ…はぁ…。

当時のメイド

奥様!ヒッヒッフーですよ!!

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

ひっ…ひっ…ふぅぅぅんっ…。

亡くなった大富豪

頑張るんだ!
私がついている!

日記を綴る亡くなった大富豪の生前。若かりし頃。

亡くなった大富豪

出産は難産でそれから数刻ほどかかり、彼女の体力も底を尽きかけていたときであった。その時は、突然やってきた。

亡くなった大富豪の娘

オギャー!オギャー!

当時のメイド

産まれました!
旦那様、奥様!
産まれましたよ!
女の子です!

そういうと、メイドは2人へ近寄り、 2人の子を見せる。

亡くなった大富豪

女の子か!なんとも可愛らしい子ではないか。きっと将来は、君に似てさぞ美しく育つことだろう。よく頑張ってくれたね。産んでくれてありがとう。

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

ふふっ。本当に可愛い私とあなたの子…。私は…あなたと出会えて…本当に良かった…。
とても幸せでした…。

亡くなった大富豪

何を言っている？!これからだろう？この子と私と3人、幸せな家庭を築けるだけの財を私は準備したのだ!何も心配はいらない。約束しただろう。
君を生涯守ると!

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

ふふっ…えぇ。あなたは…約束を守って下さり…私に…たくさんのものを…見せて…くださいました…。

どんどん、手の力がなくなっていく亡くなった大富豪の妻。その手を必死に両手で掴み大富豪はメイドに尋ねる。

亡くなった大富豪

私の妻の状態は大丈夫なのか？！

当時のメイド

旦那様!奥様の出血がとまりません！
このままでは危険な状態です!

亡くなった大富豪

すぐになんとかするんだ!!

当時のメイド

は、はい!!

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

あなた…。

亡くなった大富豪

なんだ？！なんでも言ってくれ!君の望みなら何だって叶えてみせる!

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

では…1つだけ…頼まれてくれませんか…？

亡くなった大富豪

1つと言わず、2つでも3つでもいくつだって構わない!!だから…ぐすっ…そんな今にも死にそうな顔をしないでくれ!!

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

ふふっ…あなたは…本当に…泣き虫ですね…。そんな…色々なあなたを見れて…楽しかった…。
お願いです…。私がいなくなっても…この子だけは…守ってください…。

亡くなった大富豪

当たり前じゃないか？！私と君の子だぞ？！
守るに決まっている!
絶対に幸せにしてみせる!

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

その…お言葉が聞けただけで…十分です…。
愛していますよ…あなた…。
先に向こうで…お待ちしております…。

亡くなった大富豪

私も…愛している…。だから、目を閉じるな!!
行くなぁぁぁ!!

亡くなった大富豪の最愛の人(妻)

……………。

2人は涙の中、亡くなった大富豪の妻は静かに幸せそうに微笑みながら息を引き取った。亡くなった大富豪は、そんな妻の傍ら叫びながら泣き続けた。

日記を綴る亡くなった大富豪の生前。若かりし頃。

亡くなった大富豪

そして、その日、私は、最愛の妻を亡くし、
最愛の娘と出会った。
享年23歳という若さでこの世を去った最愛の妻との最後の約束。
この子は、何があっても守るという約束。私の命に変えようと必ず守り抜くと私は心に決めた。
そして、最愛の妻は表だっては葬儀も埋葬も出来ないため、私はこの隠し部屋を準備し、そこに彼女を埋葬した。
彼女の子が産まれたら渡すはずだったブルーダイヤモンドのネックレスも彼女の首にかけ棺に水を入れ凍らせた。永遠に美しいまま眠らせてあげたかったからだ。

現在

フェネス

そして、ここは永遠に閉じ、誰にも侵されることのない聖域にしようと考えていたが、いつか娘が母に会いたくなった時、会えるように暗号を残そうと思う。
そして、この日記を見るであろう娘に伝えたい。お前の母は、お前を心から望み愛していた。そして、私もお前を愛している。全てを知った今、もしかしたら、自分のせいだと自身を責めているかもしれないが、それだけは違う。私もお前の母もお前がこの世に産まれてくれたことに心から感謝をしている。だから、この先も自分の生に負い目を感じるな。お前が幸せに生きていってくれればそれだけで私たちは幸せなのだ。そして、最後に我が娘よ。どうか、お前の母はこのままここで眠らせて欲しい。これは、私からの願いだ。
これで、日記は最後のようです。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

母の出生にそんなことが隠されていたなんて…確かに母からは生前、一度も家族の話は聞いたことがありませんでしたが…こういった理由で母は話せなかったのですね。
きっと…。

ハナマル

その前にここの存在を知らなかったんじゃねぇか？

ユーハン

確かにそうですね。私たち以外最近、立ち入った痕跡などはありませんでした。その前だとしても、少なくとも40～50年ほどは誰も立ち入ってはいないでしょうね。

アモン

だとしたら、悲しいっすね。本当に伝えたい相手はもうこの世にはいなくて、全然関係のない俺たちがここに来てるんすから。

テディ

そうですね…。

主

確かに、私たちは関係ないかもだけど、依頼主様である彼は本当に関係ないのかな？

ムー

主様？

みなが主を見る。

主

もし、本当に関係ないならそもそも彼に暗号を残したりなんてしないんじゃないかな？

ハウレス

どういうことですか？
主様。

ボスキ

俺も主様と同じ意見だ。そもそも、亡くなった大富豪は生前、娘が亡くなっていることを孫である依頼主様から聞いてるはずだ。本当に関係がないってなら、わざわざ遺言に暗号を書き記す必要は無かったはずだ。

主

うん。ボスキの言う通りだよ。
私は、あえて暗号を彼に残したんじゃないかと思う。それは、祖母に会ってもらう意味もあったかもしれないけれど、家族のことを知ってもらい、ここを託すためだったんじゃないかな？そして、彼の母が愛されていたように彼もまた愛されていることを伝えたかったんじゃないかな？

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

……そうかもしれません。

涙を目に溜め、絞り出すように肯定する依頼主の背にそっとメイドのメアリーが右手を当て、依頼主の左肩に左手を添える。

依頼主のメイド(メアリー)

大丈夫です。
旦那様は1人ではありません。私がお傍で生涯
お仕えしてまいります。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

メアリー…。
ありがとう…。

そんなメイドのメアリーの左手にそっと右手を添える依頼主。

ボスキ

これで、依頼は終了になるが…。

ムー

お宝はありませんでしたね。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

それは、すみません。
依頼料はこちらでお支払いします。それに私にとってここは、お宝より価値のある場所です。
祖母に出会えましたから…。
でも、私は祖父の願いを聞き入れません。

主

どうされるのですか？

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

祖父が亡くなった今、祖母は祖父と共にお墓へ埋葬しようと思います。
名が残らない王族ならば、もう、誰も祖母の遺体を傷つけるものはいないでしょうから。

主

…それが良いかもしれないですね。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

はい。あの世で親子水入らず、幸せになってもらいたいです。

ハナマル

そうだな。あの世でくらい笑っててほしいもんだぜ。

そう遠くを見るハナマル。

主

(ハナマルはきっと亡くなった子供たちを想ってるんだろうな…。)

そんな事を考えている主の背後にメイドが立つ。そして、あっという間に主を取り押さえると首元にナイフを当て、皆に言う。

亡くなった大富豪のメイド

あんたら武器を捨てな!!
この可愛らしい主様とやらを傷つけたくはないだろう？

フェネス

主様!!

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

な、なにをしているんですか？！

亡くなった大富豪のメイド

黙りな!!

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

くっ。

主の安全を優先し黙る依頼主。

ボスキ

ちっ…。これじゃ、間合いにも入れねぇ。

ユーハン

今は、言う通りに致しましょう。

テディ

はい。ユーハンさん。

ハウレス

主様。少しだけ耐えてください!

そして、みなが武器を床へ置く。

亡くなった大富豪のメイド

よしよし。さぁ、茶番は終わりだ。
メアリーおいで!

依頼主のメイド(メアリー)

……はい。姉様。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

メアリー…？

依頼主のメイド(メアリー)

申し訳ありません…。
旦那様…。

亡くなった大富豪のメイド

何チンタラしてんだい？！早くおし!

そして、メイドのメアリーはもう1人のメイドの元へと走っていく。

アモン

これは、どういうことっすか？

亡くなった大富豪のメイド

私たちは姉妹で女盗賊をしててね。
ずっとそれを探してきたんだ。
そのブルーダイヤモンドいやホープダイヤをね!

主

ホープダイヤ？
あの呪われた宝石？

亡くなった大富豪のメイド

呪われている？
バカは寝ていうんだね。
ホープダイヤを手にした者は、莫大な富と名声、幸運を運び込むと言われている伝説のダイヤさ。

主

(そっか…。私がいる世界とは異なる伝説なんだ…。)

ユーハン

それでは、あなた方が
昨日、主様をお風呂場で覗いていた方ですか？

亡くなった大富豪のメイド

そうさ。
厳密にはあたしだけどね。
何か手がかりを話すかと思ったら、察しのいい子だよ。あたしの視線に気づいていなくなっちまってさ。仕方ないから、ここへたどり着くまで、そこのボンボンのメイドのフリをしてたのさ。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

メアリーもなのかい？

依頼主のメイド(メアリー)

申し訳ありません…。
旦那様。

亡くなった大富豪のメイド

あんたはいつまでメイドのフリしてんのさ！？
いい加減にしな!

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

メアリーに強く当たらないでくれ!

依頼主のメイド(メアリー)

…旦那様…まだ…私を…。

亡くなった大富豪のメイド

はぁ…。あんた、本気でこのボンボンに惚れたね？

依頼主のメイド(メアリー)

ね、姉様!それは…。

亡くなった大富豪のメイド

それなら、もういい!
私は、1人で盗賊続けるから好きにおし!

依頼主のメイド(メアリー)

きゃっ…!

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

メアリー!

メイドは、足でメアリーの背を蹴り飛ばす。そして、よろめき転びそうになるメアリーの元へ走り、依頼主はメアリーを両手で受け止める。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

大丈夫かい？メアリー。

依頼主のメイド(メアリー)

旦那様…どうして？
私は、あなたを裏切ったのに…。

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

君が本気で私を裏切ったなら、なぜ、そんな悲しそうな顔をしているんだい？

依頼主のメイド(メアリー)

旦那様…私は…。

亡くなった大富豪のメイド

あぁ、もうそういうのは、他所でやっとくれ!!私はホープダイヤさえ手に入ればとっととずらかるよ！さぁ、どうする？あんたらの主を見殺しにするか？それとも、あたしにホープダイヤを渡すか？好きな方を選びな！

依頼主の男性(亡くなった大富豪の孫)

ホープダイヤが欲しければ持っていけばいい!どうせ、一度、氷を溶かして祖母は埋葬する予定だったんだ。好きにすればいい。だが、彼らの主を傷つけるな!

主

……。

亡くなった大富豪のメイド

物分りがいいボンボンで助かるよ。
氷を溶かすまでは待ってやるよ。
ただし、日没までに溶かしな。
それ以上は待たない。もし、それまでに用意出来なければ、この主様がどうなるかわかってるね？

主

うっ…。

そういい、主に軽くナイフを傾けると主の首から少量の血が滴る。

ボスキ

〇〇!!
てめぇ…許さねぇ!!

亡くなった大富豪のメイド

あ～あ～。いい男が
怒って、台無しだよ。

ハウレス

ボスキ!抑えろ!主様の命がかかってるんだ!

ボスキ

ちっ…。

亡くなった大富豪のメイド

そうそう。大人しくしてな。
さて、氷を溶かすまでは、あたしは上の屋敷でこの主と待つよ。
いいかい？少しでも変な気を起こしたらその時はこの主の首を掻き切るからね!

ハナマル

わかった!わかったから、落ち着け!俺たちは、ここで氷を溶かすし、その間、誰もアンタのとこには行かない。
だから、主様を傷つけるな。

亡くなった大富豪のメイド

わかったよ。
あたしは約束は守る。
日没までは待つさ。
ほら、さっさとはじめないと日没なんてあっという間に来ちまうよ？
いいのかい？

フェネス

わかりました。ですから、どうか、主様を傷つけないでください。

テディ

溶かすための道具を取りに行くくらいは許してくれますか？

亡くなった大富豪のメイド

あぁ。いいよ。
でも、そうやって言って、憲兵を連れてきたり、何かおかしな動きをしたら、わかってるね？

アモン

わかってるっすよ。

亡くなった大富豪のメイド

いいだろう。
じゃぁ、あとでね。
さぁ、行くよ!

主

…うっ…。

ボスキ

くっ…!

そういうと、メイドいや女盗賊は主と共に屋敷へと戻って行った。そして、ボスキやみなは、拳を握りただ耐えながら主の姿が女盗賊と共に去るのを見ているしか出来なかった…。

次回へ続く

ボスキと主様

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第95話 - 第95話残された想い、託された願い第3章

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