ただひたすら、水の中で 苦しい苦しいと考えていた。
いつしか苦しさはなくなり、 見たことのない場所へ辿り着いた。
そこは俺が求めていた世界ではなく、
ただただ綺麗な空色で囲まれた、
何もない世界だった。
行くあてもなく歩き続け、ようやく 見つけた一輪の花。
取ろうとしたその手を、 誰かに掴まれた。
赤
?
赤
赤
母だった。
母
赤
赤
赤
母
母
赤
母
赤
母
母
赤
赤
母
母
赤
赤
赤
赤
赤
赤
赤
母
母
赤
母
母
母
母
母
赤
母
母
赤
母
母
母
赤
赤
赤
母
赤
俺が...求めてた...温かさ...
母
母
赤
赤
赤
赤
赤
赤
母
母
赤
母
母
母
母
赤
母
赤
母
母の優しい微笑みにおされ、 俺は赤色に輝いた花を手に取った。
“しあわせ”になれると信じて。
苦しい。
そう思っていたのも束の間、俺は 真っ暗な世界へ辿り着いた。
何も見えない、何も聞こえない。
ただただ真っ暗で、 真っ黒なそんな場所。
でも、微かに聞こえた。
“しあわせ”という四文字が。
なんだか懐かしくて、心地よい、 どこかで聞いたことのあるような、 温かくて優しい声は、
何度もその言葉を繰り返した。
どれくらい歩いただろう。
声のする方へ、声のする方へと 行くうちに、一筋の光が見えた。
ようやく別の世界に行ける。
そう思った。
でも、違った。
光の先には、彼がいた。
さっき別れを告げたはずの君は、 誰かと話しているようだった。
?
この話し方...この声...
声の主は...
紫
俺の大好きだった、母だった。
母
俺にとっての“しあわせ”って何だろ...
赤くんが“しあわせ”になることかな...
母
紫
俺は...赤くんのしあわせを...奪った...
母
ある...あるんだよ...お母さん...
俺が...間違いだったんだ...
不正解を選んだんだよ...
母
紫
母さん、俺は “しあわせ”になれるかな。
俺はまた、暗闇へと逃げた。
桃
俺は唖然としていた。
黄の言葉があまりにも真っ直ぐで、 嘘もなくて、事実であったこと。
黄がそこまで考えていたなんて、 何も知らなかったこと。
それを知ってしまった以上、 何も言い返すことなどできるわけが なかった。
最後に冷たく放った「やっぱり。」と いう言葉が頭から離れず、ずっと 頭の中を巡っている。
桃
赤の部屋に一人残された俺は考える。
「わかる気がなかった」
「認める気がなかった」
黄の言葉のどれをとっても、 間違ったものなんて一つもなくて、
今になって後悔することばかり。
確かに「弟なんだから」と言いすぎて いたかもしれない。
確かに、赤のことをわかる気が なかったのかもしれない。
確かに、最初から認めようともせず、 話を聞こうとしなかったのかも しれない。
もし、俺が黄の話を聞いていたら。
もし、本気で理解する気があったら。
赤は...助かってたかもしれない...
桃
悔しさと悲しさとが入り混じり、 涙すら出ない俺にも腹が立つ。
桃
ふと視線を上げると、ノート以外 何もないと思っていた机に、 母の写真が飾られていた。
赤にとっては、ほとんど会ったことも 話したこともないはずの母。
何か思い入れでもあったのだろうか。
...わからない。
何もわからない。
それは...
黄
黄
黄
黄
わかる気がなかったから...
桃
手に取ったそれには、俺の心とは 反対に、穏やかに笑う母がいた。
桃
桃
黄
黄
桃
桃
桃
桃
桃
桃
桃
桃
桃
桃
桃
母さん。
“しあわせ”って、なんですか。
正直、消えてしまいたかった。
突然兄弟がいなくなって、しかも 二人とも自殺。
唯一頼れる兄は放心状態。
この状況を高校生の僕に処理する力 なんてあるわけない。
すぐそこに海があるのだから、 飛び込んでしまえば終わる話だった。
だけど、兄ちゃんは何かを察した ように帰り際に言った。
桃
桃
“何もしない”。
この言葉が兄ちゃんにとってどんな 解釈だったのか、どんな意味 だったのかは僕にはわからない。
でも、なんとなくそう言われると...
青
死ぬことなんて、できなかった。
少し冷静になってきた頃、
とりあえず警察に連絡して、 全部説明して、処理はしてもらった。
だからといって全てが 解決するわけでもなく、僕だけが、 海岸に一人残された。
青
そんなため息さえ、波の音に かき消される。
赤くん...“しあわせ”になれてるかな...
家に帰ることもせず、考え続ける。
“この体ごと消してしまえば、 きっと幸せになれる”
ノートの一番最後のページに 書いてあった。
存在を消した今、赤くんは “しあわせ”なのかな。
赤くんの思う“しあわせ”って なんだったんだろうな。
僕が思ってた“六人で幸せを掴む”って どういうことだったんだろう。
考えても答えなんてないそれに、 自問自答を繰り返す。
青(幼少期)
青(幼少期)
母
青(幼少期)
母
青(幼少期)
青(幼少期)
母
母
青(幼少期)
母
母
母
青(幼少期)
母
母
青(幼少期)
母
母
青(幼少期)
母
母
青(幼少期)
「ここに来たら、 どんなことも忘れられる」
別の言葉で言えば...
青
僕が求めてた六人の幸せって...
青
もうとっくに“しあわせ”を掴んでた。
でも、それに気づかなかった。
明るい道を、歩けていた。
正す必要なんて、どこにもなかった。
青
お母さん、僕はまた、 “しあわせ”を取り戻せるかな。
そこにはただ、 波の音だけが響いていた。
黄ちゃんの心からの叫び。
ただ怒っているわけでも、 ただ泣いているわけでもない 悲痛な声を、俺は聞くことしか できなかった。
橙
そう呟いたところで、特に 何が起きるわけでもない。
“どうして幸せな道には 行けないんですか”
“どうしていつも踏み外して しまうんですか”
“「ごめんね」と言っても伝わらない”
“誰も正してくれない”
“僕たちがしたことが 許されることもない”
認めたくない、でも認めなければ いけない、そんな言葉が並んでいた。
“幸せな道”か...
俺にとっての“しあわせ”って 何なんやろ...
橙
答えが返ってくるはずのない 母の写真に話しかける。
どんなに机の上が汚くなっても、 母の写真だけは、綺麗に飾っていた。
紫(幼少期)
橙(幼少期)
橙(幼少期)
紫(幼少期)
桃(幼少期)
橙(幼少期)
橙(幼少期)
桃(幼少期)
桃(幼少期)
桃(幼少期)
橙(幼少期)
橙(幼少期)
紫(幼少期)
橙(幼少期)
桃(幼少期)
橙(幼少期)
橙(幼少期)
紫(幼少期)
紫(幼少期)
紫(幼少期)
桃(幼少期)
紫(幼少期)
橙(幼少期)
桃(幼少期)
橙(幼少期)
紫(幼少期)
桃(幼少期)
紫(幼少期)
桃(幼少期)
紫(幼少期)
橙(幼少期)
紫(幼少期)
橙(幼少期)
紫(幼少期)
紫(幼少期)
橙(幼少期)
紫(幼少期)
紫(幼少期)
紫(幼少期)
橙(幼少期)
紫(幼少期)
紫(幼少期)
紫(幼少期)
橙(幼少期)
紫
紫
正直、よくわからなかった。
ある日突然、母は帰ってこなくなり、
どこに行ったかと尋ねれば、紫にいは 言葉を濁して「おそらに行った」と 伝えてきたけど、
桃にいは隠すことなく「しんだ」と 伝えてきて、
まだなんとなくしか言葉を 理解できなかった俺にとっては、
どちらの言葉も、なんとなくでしか 意味を捉えることはできなかった。
それでいて 「俺たちがお母さんになる」 と言われて、
それがいいかどうかなんて、俺に 判断できるわけがなかった。
橙
紫にいの言った“しあわせ”とは なんだったのだろうか。
そもそも、“しあわせ”とは つくるものなのか。
橙
?
?
懐かしい...
でも...
橙
そう呟くと、カタ、と音がした。
音のした方に顔を向けると、 母の写真が倒れていた。
なんでだろう、と思いながら 丁寧にもう一度飾った、 その時だった。
その歌声の正体がわかったのは。
橙
橙
母の声だった。
小さい時によく歌ってくれていた歌。
記憶の片隅に残っていたのだろうか。
それとも細胞レベルの話で無意識に 憶えていたのだろうか。
とにかく、突然この歌が脳内で 再生された。
橙
橙
“しあわせ”は選んだ道によって 掴めないこともある...
きっと、そういうことなのだろう。
俺たちは、いつからか間違った道を 歩いていたんだ。
誰が悪いわけでもなく、必然的に。
お母さん。
俺はまだ、“しあわせ”な道を 選べますか。
「やっぱり。」と怒りに任せて 言い放ち、僕は赤の部屋を出た。
黄
廊下で一度大きく息を吐く。
その瞬間、一気に罪悪感や喪失感が 僕を襲った。
どうしてあんなに酷いことを 言ってしまったのだろう。
桃にいが傷ついていたらどうしよう。
悲しんでいたら。
苦しんでいたら。
そんなことばかりが僕の頭をめぐり、 より大きな罪悪感を生み出す。
逃れられない罪悪感を少しでも 断ち切りたかったのか自分でも よくわからないけど、
僕は自分の部屋へと駆け込んだ。
無音の部屋で一人、ベッドに 飛び込む。
黄
もうすっかり怒りなどないはずなのに ずっと出てくる涙に疑問を持ちつつ、 僕はある物を手に取った。
“黄へ”
そう書かれたDVD。
母からのプレゼントだった。
母が僕を産んだのだから、 母との関係はもちろんあったけれど、 僕の中に母の記憶は全くと言って いいほどない。
それを見越して、母は僕に 10歳の誕生日プレゼントとして このDVDを兄に預けていたらしい。
でも、もらってから6年経った今も、 一度も観たことがない。
怖かった。
母の記憶がない僕が、母の声を聞き、 母の姿を見てしまったら、 「親がいない」という事実が、
僕の心を覆ってしまいそうで、 傷つけてしまいそうだったから。
黄
僕は引き出しの奥底に眠っていた DVDプレイヤーを取り出し、 入れてみることにした。
黄
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
黄
たった5分程度の動画。
でも、その5分に、母の僕への想いが 確実に詰まっていて、愛情があった。
きっと、10歳の時にこの動画を 見ても何も感じなかっただろう。
大人になっているからなのか、 赤のことがあったからなのかは わからないけど、涙が止まることは なかった。
「 笑顔や“しあわせ”が2倍に なりますように」
僕の名前に、そんな意味が込められて いるなんて今まで全く知らなかった。
でも。
でも...
今、意味とは真逆の人生を 僕は歩んでいる...。
黄
お母さん...
僕はもう...“しあわせ”には なれないのかもしれません。
僕の思う“しあわせ”な人生とは あまりにもかけ離れています。
もうきっと戻れないから...
だから...せめて...せめて、 教えてください。
あなたの願った“しあわせ”は なんですか。
“しあわせ”は、いつも死が 隣り合わせなのよ。
しあわせ。
コメント
13件
いまいっきに全話見たんですけど、終始ほんっとにしんどかったです。しんどかったっていうのはいい意味でです!!感情移入して6人とお母さんの気持ちを考えるとくるしくてくるしくて、、、、 一生泣いてたんですけど特に大号泣した場面がありまして、桃くんのシーンと赤くんがお母さんに会うシーンです。。。
めちゃめちゃ感動したぁ...